第9話 士燮の自信を砕く
「その能力を劉玄徳の為に使って頂けませぬか?」
「尻すぼみになる御仁に従う程お人好しではありませんぞ。」
「易の結果はあくまで将来を見据えたもの。それを踏まえて変える事が可能だと考えますが。」
「趙累殿、将来を変えるのは並みの努力では到底無理。定めを粛々と受け入れるしか手立てはありませんな。」
士燮は曹操につくか劉備につくかで迷っているという事だったが事前に易を立て勝敗の行方に目星をつけた。漢朝の行く末を気にしつつ勝ち馬に乗ろうとしていた。易を重視する士燮がそれを用いて出した結果を判断材料とするので現段階ではどうする事も出来ない。一度本陣へ戻り張飛の判断を仰ぐしかないと趙累は交渉の一時中断を提案しようとした。
「士燮殿、ぶしつけながら某を見て頂けませぬか?」
「魏延殿だったな。貴殿の事は失礼ながら見ていなかった。お詫びを兼ねて今から見させて頂こう。」
士燮は魏延に詫びた後、易を立てたが結果を見出せず同じ事を繰り返した。いつもなら直ぐに結論を出しそれに基づいて説明なり助言を行っていたが結論が出ない為どうにもならず士燮は困り果てた。
「魏延殿はこの世の者なのか?」
「仰る意味が理解出来ませんが。」
「易で結果が見出せないのだ。何度しても行き詰ってしまう。」
「それがこの世の者でない事に繋がると?」
「そうなのだ。別の時代に生きた者がそのまま移り変わったとしか思えん。しかしそのような事はあり得ん話だ。」
士燮は魏延の素性を明らかにしたので魏延は一瞬焦った。しかしそんな事はあり得ない話だと士燮自身が否定し、周囲の者も信用しなかったので話はそれで終わったが魏延は冷や汗をかく羽目になった。
「もう一度趙累殿を見てみよう。」
士燮は易を立てたが魏延の時と同じように何度も繰り返していた。そして道具を置き顔を上げたが表情が一変していた。
「信じられない事だが魏延殿と同じく結果が出ない。趙累殿だけではない劉皇叔、関羽殿、張飛殿、易を立てた者全員の結果が出なくなった。」
「それはよくある話ではないのですか?」
魏延は易そのものについて理解していないので結果は出たり出なかったり日々変わるものだと思っていた。
「断じてない。易を始めて以来、こんな事は初めてなのだ。」
士燮は首を大きく左右に振り魏延の言葉を否定した。士燮によればこのような事は一切起きた事が無く士燮自身説明がつかないと頭を抱えていた。
「これは劉皇叔が漢朝を再興し、曹操や孫権が滅ぶ意味かもしれぬ。」
「士燮殿が漢朝を取るか曹操を取るか。今の言葉を聞けばどちらを取るかは明らかだと思われますが。」
趙累は劉備の方へ大きく傾いた士燮に決断を促した。
「その通りだ。私は漢朝の臣である以上、曹操に協力するのは不忠にあたる。劉皇叔の傘下に入り漢朝再興の手助けをさせて頂きたい。」
「ご英断に感謝致します。」
趙累と魏延は士燮に一礼して政庁を後にした。二人はその足で州境に設けられている本陣へ戻り張飛に交渉成功を報告した。張飛は陳到と劉封を本陣に残し、趙累と魏延を伴い蒼悟に向かった。
蒼悟に到着した張飛は士燮から交州刺史の印を預かり劉備軍に降伏した事を正式に認めた。政庁に入った張飛は州刺史の印を士燮に手渡し、引き続き州刺史の任に就くよう命じた。その後は趙累が張飛の代理となり話し合いが行われ、政治制度は現状維持として然るべき時期(劉備が荊州及び周辺地域を制圧後)に改めて中身の擦り合わせを行い統一制度を作る方向で話は纏まった。その時期に合わせて士燮が交州牧になる事も合わせて決定された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます