第二章 交州侵攻

第6話 張飛と張南

《劉備軍の状況》

総大将:劉備

軍師:諸葛亮(左)、馬良(右)

太守:劉琦(江夏)、韓玄(長沙)、鞏志(武陵)、劉琰(零陵)、陳震(桂陽)

将軍:関羽、張飛、陳到、趙雲、黄忠、霍峻、劉封、糜芳、魏延、関平、周倉

文官:孫乾、簡雍、糜竺、伊籍、趙累、潘濬、頼恭、向朗、諸葛均


*****


江夏に着いて直ぐ劉備から呼び出された。執務室に入ると劉備と関羽の二人だけで諸葛亮の姿は見えなかった。


「魏延、忙しいところ済まない。」


劉備はいつもとは異なり険しい表情をしている。


「ご命令でしょうか?」


「その通りだ。張飛の副官を任せたい。」


「承知致しました。」


険しい顔をして命令するような内容ではない。但し張飛が前世と同じ性格なら話は変わってくる。


「この人事は私と関羽で相談して決めた。」


「我が君は貴殿に一軍を預けるつもりだった。しかし諸葛軍師が貴殿に報復しようと何かを企んで無理難題を命じる事も有り得ると考えた。私はそれを危惧して我が君にこの案を提案したのだ。」


諸葛亮はそこまで陰険で無いと魏延は思っているが前世とは異なるので関羽が言うような事が起きても不思議ではない。


「関羽から話を聞いて私も二つ返事で認めた。義弟(張飛)は諸葛亮が配下に加わった直後に揉め事を起こした影響で諸葛亮とは上手くいっていない。」


劉備の話からどうやら張飛の性格は前世と変わっていないようで魏延は苦笑した。


「知っての通り我が君と張飛と某は義兄弟の間柄。諸葛軍師も張飛相手なら無理難題は言えない。」


張飛は無理難題を言われたらそんな事は出来ないの一点張りで拒否する。相手が劉備や諸葛亮であろうと関係ない。他人に対する命令でも無理難題と思えば周囲の事などお構い無しで干渉するので諸葛亮からすれば張飛が苦手であり口を開かれるのが一番の厄介事になっている。二人はそれを利用しようと考えた。


「それに加えて私か関羽以外この人事を白紙に出来ない事にしているので安心して欲しい。」


「ご配慮頂き感謝致します。」


「魏延殿、済まないが今日の件は口外無用でお願いしたい。」


「承知致しました。」


******


二人との話を終えてそのまま張飛が居る駐屯地に向かった。


「魏文長と申します。長沙から参りました。」


「俺が張翼徳だ。兄者(関羽)から話は聞いているぞ。」


張飛はにやにやしながら挨拶を返した。長沙の一件を関羽から聞いているので面白い奴が来たと思っていたからだ。


「諸葛軍師相手に揉め事を起こしましてご迷惑をお掛けしました。」


「気にするな、俺なんて剣を抜いて刃先を軍師に向けたからな。諸葛亮を嫌っている者同士で協力していこうや。」


「此方こそ宜しくお願い致します。」


「挨拶は此処までだ。」


前世では張飛の副将を務めたが前任者の雷同が戦死したのが原因で急遽白羽の矢が立てられた事もあり、漢中攻略後直ぐに配置換えで役目から外れた。だが今回は長い付き合いになるのが予想された。


「早速だが俺の下に居る兵士の訓練を任せたい。桂陽を取った後、率いていた兵士が陳到に引き取られて新兵だけの状況だ。戦場で逃げ出さない程度に鍛えてくれ。」


挨拶代わりの雑談に一区切りをつけた張飛は一転して真顔に変わり、魏延に指示を出した。


「承知致しました。」


「お前の範疇でやれる事については何も言わん。手伝いが要るようなら諸葛亮や兄者に頼んで補充して貰え。張飛が了解していると言えば文句は出ない。」


「有難うございます。」


張飛は訓練を見るのが苦手なので補佐役がそれを担っていた。その補佐役だった陳到が兵士諸共異動したため張飛自身が試行錯誤でやっていたが中々進展せず苛立っている時に魏延が配属されたので渡りに舟とばかりに役目を任せた。


*****


魏延は一旦駐屯地を離れて関羽を訪ねた。そして関羽麾下の兵士一人を張飛軍に配置換えしたい旨を願い出て了承された。


「張南。」


「魏延将軍、どうされましたか?」


「君を迎えに来たのだ。色々事情があって今日から張飛軍に加わって貰う。」


「承知致しました。」


前世で張南は荊州時代から劉備に仕えており魏延とは交友があった。西蜀侵攻時に功績を挙げ将軍位に就いたが夷陵の戦いにおいて火計による混乱の最中、璠璋に討ち取られた。現世ではお互い長沙生まれと云う事もあり幼少時代から兄弟分の関係である。長沙に居た時は魏延の補佐役として動いていたが劉備に降伏した後は再編成の関係で関羽軍の所属となっていた。魏延は張南が無役なのを調べた上で関羽に無理を言って張飛軍に引き抜いた。

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