第5話 劉備軍に加わる

騒動があった日の翌日、劉備や諸葛亮から出仕を促す使者が魏延の屋敷を訪れたが使用人を通じて対面を拒否した。


屋敷に閉じ籠もっていた魏延は劉備軍に加わらず韓玄の下で働くのも良いかもしれないと考えるようになっていた。夜になり韓玄から酒席の誘いを受けたのでその件について話をしようと屋敷に出向いた。


客間に通された魏延は驚いた。韓玄と関羽が席を囲んでいたからだ。魏延は慌てて関羽に頭を下げた。


「関羽将軍、なぜ此方に?」


「諸葛軍師が貴殿と諍い事を起こしたと聞いて詫びに参ったのだ。」


関羽は魏延に対して深々と頭を下げた。


「お主が出て行った後、関羽将軍が劉皇叔と諸葛亮殿を叱責したのだ。優秀な人材を自ら捨て去るとはどういう了見なのだと。」


魏延が政庁から出て行った後、関羽は劉備と諸葛亮に詰め寄り魏延に直接謝罪しろと凄んだ。


「君主と軍師を叱責すれば将軍自身も立場が悪くなりませんか?」


関羽は赤壁で曹操を目の前で取り逃がす大失態を犯しているので関羽は劉備と諸葛亮に対して負い目がある。二人の失態とは云え関羽が声を大にして叱責した事で関羽自身に影響が及ぶのではないかと魏延は懸念した。


「道を誤っていれば正してやるのが同輩の務め。立場云々は関係ないだろう。貴殿も分かっていると思うが今回の件は劉備軍の根幹を揺るがす恐れがあるのだ。知っての通り曹操と対決する為には優れた人材を陣営に引き入れなければならない。その状況下において敵対勢力から降った者相手に言うならまだしも自ら加わった者に

対して言う言葉ではない。この一件が周囲に広まれば誰も加わらなくなる。」


「諸葛亮という男、劉皇叔の配下に加わるまで隠遁していたと聞いている。他人に対する配慮というものに少々欠けているようだな。」


「韓玄殿の申される通りです。それが原因で義弟(張飛)とも諍いを起こしています。義弟の方も大概なのでお互い様という面はありますが。」


関羽と韓玄は諸葛亮を揶揄しながら魏延の心変わりを待っていた。


「魏延殿も不本意だろうが曲げて我が君の下に加わって貰えないか。」


「魏延、ここで断れば関羽将軍の面子を潰す事にならないか?」


「確かに韓玄様の仰る通りです。関羽将軍の言葉に従い劉備軍に加わらせて頂きます。」


「貴殿の決断に感謝する。」


関羽に頭を何度も下げられ、韓玄にも説得されたので魏延は断る事が出来なくなった。返事を聞いた関羽は善は急げと政庁に向かった。


*****


「魏延将軍、諸葛亮が目の前で無礼を働いたにも拘らず叱責しなかった事で貴殿に不愉快な思いをさせてしまった。」


「某も一時の感情に流され無礼を働きました。申し訳ございません。」


魏延と劉備は互いに謝罪した。しかし騒動を起こした張本人である諸葛亮は何も言わず無表情のまま様子を見ているだけだった。


「軍師殿、何時詫びるのだ?無礼を詫びぬなら力づくでも頭を下げてもらうぞ。」


諸葛亮の態度に業を煮やした関羽は剣に手を掛けて諸葛亮に近付こうとした。


「関羽、馬鹿な真似はよせ。諸葛亮、魏延将軍に詫びよ。」


劉備は関羽を手で制しながら諸葛亮に謝罪を命じた。


「魏延将軍、私は劉備軍を強くしたい一心で働いております。劉備様に降伏する者の中には邪心を抱く者が居ないとは限りません。それを見極めるのも軍師の務めと思っています。魏延将軍については私の目が節穴で誤った判断をしたという事でしょう。」


「某も怒りに任せて軍師殿に無礼を働きご迷惑をお掛けしました。」


諸葛亮の言葉は自分の不明を恥じるだけで魏延に対する謝罪をしていないが、魏延は諸葛亮に対して謝罪の言葉を述べた上で頭を下げた。その場に立ち合った者から魏延を賞賛する声が劉備軍に広まり、魏延は一目置かれる存在になった。

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