四章 殺人ゲーム 三幕 1—4


「えっ! ほんと?」と、これは僕。


「ああ。柳田さんが相手の名前、呼ぶんも聞こえたで。馬淵さん。あんたの名前や」


 みんなが、さっと馬淵さんをふりかえる。

 そう言えば、馬淵さんは柳田さんの死体を見たあとから、ひとことも口をきいてない。


「馬淵さん。おれ、あんたの芸術は尊敬しとる。けど、やっぱ、殺人はあかんで。昨日の口論、かなりのもんやった。あのことで、柳田さんを恨んどったんちゃうか?」


 馬淵さんは口を一文字にして、沈黙を守っている。


「馬淵さん、説明してくれませんか。あなたが柳田さんを殺した犯人なんですか?」


 赤城さんに問われて、馬淵さんは言いきった。


「おれじゃない」

「でも、口論はしたんですよね?」

「……した。だが、それは、やつが殺されたこととは無関係だ。最終的に、おれとあいつは和解した」


「本当ですか? じつは話が、こじれたんじゃないですか? 恨みに思ったあなたが、今度は話しあいではなく、暴力的な手段に訴えたのでは?」

「違う」


「不倫がどうの、言うとったな」


 つぶやいた三村くんは、馬淵さんに、にらまれて口をとざす。


「そのことは関係ない。もう終わったことだ」


 猛がクセの、にぎりこぶしを口もとにあてるポーズで言う。


「馬淵さん。柳田さんは既婚者ですよね。あの指輪のあと……あなたたちが、もめたのは、そのことが原因では?」


 馬淵さんはウソのつけない性格らしかった。眉根をぐっとしかめて、気難しい顔をする。


(この人、気は荒いし、変人だけど、根はすごく一本気なんじゃないかな)


 見ていて、ふと僕はそう思った。


(和解したって言うのなら、ほんとにそうなのかも。ウソついてるように見えない)


 それでも、この人がだまってるのは、きっと自分のことじゃない。大切な人を守るため……そんな気がする。


 そして、もしそうなら、この手の人は、絶対に口を割らないだろう。


 みんなは持てあまして、馬淵さんを見つめた。


「どうする? この人。本人は、ああ言ってるが、犯人でないとは言いきれない」と、猛。


「疑いのあるうちは、慎重にいかないとね」

 赤城さんの意見。


 すると、きまじめな顔で、大塚くんが、意外に容赦ないことを言いだした。


「どっかに監禁しといたら、どうですか?」

「どこへです? 当人の部屋では、出入り自由だし、ジャッジルームも同様。ほかにカギのかかる場所はありませんよ」と、蘭さんも監禁はありきで進めていく。


 キレイな顔して攻撃的だなあ、二人とも。


 だが、もっと無慈悲なのは、アキトだ。


「手足、しばっとけばいいじゃん。人殺しだし」


 むうん……あんまりヒドイと思ったので、僕は意見した。


「いくらなんでも、それはやりすぎじゃないかな? 馬淵さんが犯人と決まったわけじゃないんだよ? えん罪ってこともあるよ」


 めいっぱい僕が主張すると、猛の目がデレデレになった。


「だったら、こうしよう。馬淵さんには、おれの部屋に入ってもらう。おれは今日から、かーくんの部屋でいっしょに寝るよ。馬淵さんの食事は、おれをふくむ複数の人間で届ける。それなら、いいだろ?」


 他のメンバーは、たがいの顔を見る。


「まあ、いいんじゃないですか」


 蘭さんが、うなずいた。


「念のため、東堂さんが馬淵さんを独断で逃がさないよう、ドアを開閉したことがわかる目印をつけておけば。やぶれやすい紙——半紙のようなものを貼りつけたらどうでしょう?」


 蘭さんの意見も、もっともだ。

 蘭さんも探偵の素質があるなあ。


「じゃあ、馬淵さん。それでいいですね?」


 猛に問われ、馬淵さんは了承した。


「ビールと本を持ちこんでもいいか?」

「それくらいは、いいですよ。ビールは、ぬるくなるでしょうがね」


 というわけで、馬淵さんは監獄入り決定だ。

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