四章 殺人ゲーム 三幕 1—3

 *


 柳田座長の遺体を全員でしらべたあと、僕らはジャッジルームに入った。ゲームを中止してもらうためだ。


「ゲーム続行って、なぜだ? 柳田さんが死んだんだぞ。これはもうゲームじゃない。ほんとの殺人なんだ」


 抗議してるのは、赤城さんだ。

 淀川くんも叫んだ。


「そうだ。警察、呼べよ。ゲームなんか、中止に決まってるだろ!」


 猛は何も言わないが、僕もみんなと同じ意見だ。だから、言ってみる。


「警察は呼ぶべきですよ。だって、首をしめられてたんですよ。事故死や病死じゃないんです」


 だが、それでも、やはり、モニターのなかの野溝さんは動じない。


「もちろん、警察には通報します。ただ、通報しても、すぐには警察は来られないと言ったまでです」

「な……なんで?」

「昨夜、中途の道で土砂くずれがありました。復旧に数日かかるそうです」


 うーん。なんだって、こんなときに。僕ら、神に見放されてる感じだ。


「そのような事情ですので、警察が到着するあいだ、みなさんはゲームを続けてください」


 湯水くんが、なさけない声をだす。


「そんなあ。このなかに……いるんですよ? 柳田さんを……した人が。僕らは、どうなるんですか? 誰がそうかも、わからないのに……」


 アキトも食堂の威勢はどこへやら、すみでガタガタ、歯の根をならしている。


「いや」と、否定したのは猛だ。

「犯人は、すぐにわかるだろ? そのための監視カメラなんだ。録画してあるんじゃないのか?あんたが調べてくれれば、今すぐ、そいつをしばりあげる」


 おおっ、兄ちゃん。えらい!


「少々、お待ちください」


 しばらく、野溝さんはなにやら手元で作業していた。


「ありました。これですね。そちらに画像を送ります」


 みんなが期待して映像に見入った。が、すぐに、ため息がもれる。


「これじゃ、わかんねえよ」

「顔、見えへん」


 廊下側からの映像だ。

 206のドアをたたく男。ドアをあけて出てきた柳田さんが、スタンガンで気絶させられる。

 それは、はっきり映っているのだが、しかし、男は頭からシーツをかぶっていた。顔どころか、体形も、身長すらも、わからない。


「室内からの映像は?」


 猛が聞くと、再度、画面が切りかわる。


 今度は柳田さんの室内から見た映像。

 やっぱり、今度も顔は確認できない。犯人はシーツを目のあたりまで下げ、マスクをつけている。


 犯人はドアがしまらないよう、スリッパをはさんだあと、失神させた柳田さんを室内に運んだ。

 ベットにのせ、柳田さんの首に両手をかける。

 男の手に力がこもると、柳田さんが目をひらき……。


 僕は最後まで、見ていられなかった。目をそらしていると、どのくらいかして、猛が言った。


「もういいよ」


 視線をもどすと、画面は野溝さんの姿になっていた。


「残念でしたね」


 まあ、あらかじめ、監視カメラのことを知ってるんだから、犯人としては、とうぜんの用心か。


「……こんな状態でゲームなんて続けてられませんよ。怖いじゃないですかぁ」と、速水くん。


 オタクでも命は惜しいのか。

 言い返したのは、蘭さんだ。


「でも、どっちみち、警察の事情聴取を受けるまでは、僕たち、帰れませんよ」

「では、こうしてはどうでしょう」


 野溝さんが提案した。


「柳田さんを殺害した犯人を見つけてくださったかたに、謝礼として二千万を支払います。みなさんのなかに犯人がいることは明白です。わたしどもの安全のために、このままでは、みなさんを本館へお入れできません。みなさんの食事のお世話もありますし、こちらも困っておりますので」


 男たちが、うなる。


「せや。メシは、どないなんねん」

「メシ抜きはつらいなあ」


 あ、でも、地下倉庫に非常食があったじゃん。

 と僕は思ったが、兄ちゃんのほうが、うわて。


「さっきの録画のタイム表示で、犯行時間がわかった。十時二十分だったよな? おれたちがエレベーター前で、ミャーコと別れたころだ。つまり、その時間、ミャーコにはアリバイがない。ミャーコが犯人じゃないとは言いきれない」


「わたしには、ネココが犯人とは思えませんが」


「おれだって、本気で、あの子が犯人だとは思ってないよ。可能性の話さ。だが、容疑者の一人なんだから、食事くらいは運んでくれてもいいだろ? 地下入口前に置いといてくれたら、あとは、おれたちで運ぶから。きっかり朝夕七時と正午で、どうだ?」


「わかりました。では、そのように」


 たよれるなあ。うちの兄。いいぞ。長男。ピイピイ(口笛)。


「警察が数日で来るなら、自警さえできれば、問題ないですよね。自分の部屋にこもってればいいんじゃないですか?」

 大塚くんが言った。

 速水くんも賛成する。

「僕もうこのあと、ずっと部屋でマンガかいてようかな」


 猛は、その意見には、いい顔をしない。


「それだと、食事は食堂だから、行き帰りが無防備になるな」


 猛には、蘭さんが賛成した。


「今みたいに、一室に全員が集まっているか、グループを作って必ず三人以上で行動するかですね」


「じゃあ、そうしよう」と、赤城さんも言うので、みんな納得したようだ。


「では、お願いします」


 プツンと、モニターが暗くなって、野溝さんの姿が消えた。


「ここ、出ますか?」


 湯水くんが生体認証装置に手をかけようとしたときだ。


「ちょい待ちぃや。話があんねん」


 三村くんが真剣な口調で言いだした。


「犯人のことや。おれの部屋、柳田さんのとなりやろ。昨日の夜中、柳田さんが部屋で言い争っとるん聞こえた」

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