四章 殺人ゲーム 三幕 2—1
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ジャッジルームを出たあと、僕らの前で、専制的に猛が申しわたした。
「淀川、アキト。おれと来てくれ。かーくんは赤城さん、湯水の三人で、馬淵さんを護送。着替えとか運ぶの手伝ってあげてくれ。残りの四人で、馬淵さんにビールだとか、軟禁に必要な道具を持ってくる。九重が物置の場所、知ってるから」
なぜか、ふしぎとみんなが、すんなり従う。
猛のまわりでは、いつもこうだ。
猛はふだん、ムダ口たたくほうじゃないので、初対面のうちは、もっと話し上手な人に人気があつまる。ここで言えば、赤城さんとか。
でも、しばらくすると、いつのまにか、猛が自然にリーダーシップをとっている。
猛には深い洞察力があるし、それに、人の使いかたがうまい。今回も、ちゃんと仲の悪い人どうしは離している。なおかつ、各班に一人は指揮をとれる人をまぜていた。
猛の班にアキトと淀川くんがいるが、あいだに猛がいれば争いにはならない。なっても、猛なら、スタンガン持った相手でも組みふせられる。
それに、アキトは淀川くんより、蘭さんを恨んでるみたいだし。
「猛の部屋、いいの? あれが隠してないか調べなくて?」
僕が猛の耳もとに、ささやくと、「盗聴器さがすとき、部屋中、徹底的に調べたよ。変なものはなかった」
そうか。それで僕を猛の班から外したのか。
僕に馬淵さんの部屋を調べてみろって言うんだな。
あれとは、もちろん、カードキーだ。
しかたないので、僕は赤城さんたちについていった。
「馬淵さん。あばれないでくださいよ。いちおう、スタンガンは持っています。もしものときには使わせてもらいます」
赤城さんがスタンガンを出すと、馬淵さんは首をふった。
「そんなもん出さなくても、おれは逃げない。やましいことはないからな」
馬淵さんは、とても落ちついていた。やはり、この人ではないのではなかろうか。
したがって、猛の言う護送はラクなもんだった。
途中、図書室によって、馬淵さんは何冊か本をえらんだ。
宮本武蔵はなんとなく、わかる。
意外に甘ったるい恋愛小説なんかもあって微笑ましい。
「僕はミステリー愛好家なんですよ」
「そういう血なまぐさい話は好かん」
えっ? 武蔵は?
馬淵さんは、僕の独白を視線から読んだ。
「武蔵は剣客だ。男はこうでなくちゃな」
「なんだか、うちのじいちゃんみたいですね……」
「じいちゃんか。男気があるっていう、褒め言葉ととっておく」
大口あけて馬淵さんが笑ったので、僕はおどろいた。
あんがい、きさくだ。この人。
「本、読み終わったら、僕、交換してきてあげますよ。食事運んだときにでも」
馬淵さんはニヒルに笑う。
「犬っころみたいな兄ちゃんだな。今時の癒し系とかいうやつか」
「癒し系……草食系……学生時代、さんざん言われました」
「草じゃダメだ。肉を食え。肉を」
「肉は高くて……一度でいいから、焼肉だけで満腹になってみたい」
「よし。ここから出たら、おごってやる」
「えっ? でも……」
「なんだ、その目。おれだって、そのくらいの金はある。前は大学の講師もしてたしな」
この人が……講師。
芸術はバクハツだあ——的な授業だろうか。
「じゃあ、お願いします」
そんな話のおかげで、殺人犯かもしれない人と、すっかり仲よくなった。
図書室を出て、馬淵さんの部屋で、荷物をまとめるのを手伝っていたときだ。
「あれ? なんですか? これ」
すっとんきょうな声を出したのは、湯水くんだ。
湯水くんがベッドの下に落ちた封筒をひろいあげるのを見て、僕は動揺した。
でも、よく見ると、表に指令書と書かれている。
よかった。ミッションか。
カードキーは馬淵さんの部屋にはなかった。
それにしても、指令書を読む馬淵さんの顔は、なんだか、とても奇妙だったが……。
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