三章 殺人ゲーム 二幕 2—3

 *



 はあ、あぶない。なんて感のいい女だ。あの猫耳。

 これじゃ、調べにならない。


 淀川は……いや、小宮は踊り場にすわりこんで、吐息をついた。


(所長。やっぱ、きついっすよ。他人のふりだけでもヤバイのに、わけわかんないゲームまで、やらされて。おれ、もう帰ろうかな)


 小宮は東京の探偵事務所の所員だ。


 招待状を受けとったので、しらべてきてほしいと依頼を受け、派遣されてきた。


 本物の淀川の親は金持ちだから、岸の名前を知っていた。

 本人なら会いたいし、詐欺なら息子を危険なめにあわせたくない——


 そういうわけで、淀川に一番、年齢や体格が近い小宮がえらばれた。


 変装して潜入できたが、事務所と連絡とろうとしても、電話が通じない。


 ここで体を張ったところで、小宮の手に残るのは、安月給だけだ。

 参加費五百万も、賞金も、すべて依頼主のものになってしまう。


(いいよなあ。五百万か。おれの年収より高いじゃん)


 そのうえ、ハート一つで一千万。

 ミッションボーナスで二千万。

 偽者だから、お嬢様とは結婚できない。

 だが、三千万もあれば、他人の浮気現場ばっかり追いかけまわすケチな商売なんか、やめてしまってもいい。


(……そうだよな。ここで起こったこと、おれが言わなきゃ、所長にバレるわけない。あとで、なんかあったとしても、その前に退職して、逃げとけば……)


 いっそ、だまっとくってのも、ありなんじゃね?

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