四章 殺人ゲーム 三幕

四章 殺人ゲーム 三幕 1—1

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 208の淀川くんの部屋は、ホールの大階段をのぼりきった左手。

 一番、手前の部屋だ。


 ホールの吹き抜けから見えるジャッジルームのドアは、まだ、ひらかない。


 僕は度胸を決めて、淀川くんの部屋の生体認証装置に、カードキーをスライドさせた。

 カチッと小さな音がして、ドアがひらく。


(ううう……心臓に悪い。ぶじ終わりますように)


 神に祈る心地で、室内に入る。

 内部は僕の部屋と、まったく同じ構造だ。

 のちに、あちこちの部屋を見ることになるのだが、別館の個室は基本、となりあう二部屋が、カガミ映しのワンセットになっている。


 とりあえず、僕はクローゼットをあけてみた。

 ハンガーにかけられた服。

 すでに見なれたパンクロックスタイルだが、奥には、いやに地味な普通のスーツがある。

 ちょっと虚をつかれた。


 クローゼットのなかには、黒いボストンバッグもあった。

 なかみは旅行グッズにデジカメ。染髪料。サイフ。下着類。


 いちおうカバンの底もあさってみた。

 すると底板に隠すようにして、淀川くんのものではない運転免許証が入っていた。

 名前は小宮来人。

 下の名前は、クルトと読むようだ。


(怪しいな。なんで他人の免許なんか持ってるんだ。犯罪の匂いがする。ちょっと、これ、借りていこ)


 猛に見せて、相談しようと思った。


 さて、クローゼットのあとはベッドまわりだ。そこになければ浴室。淀川くんは怒ると怖そうだから、早く見つけないと。


 僕は床に腹ばいになって、ベッドの下をのぞいてみた。

 すると——あるじゃないか。

 奥のほうに封筒らしきものが落ちている。


 ラッキー! こんなに早く見つかるなんて。


 さっそく僕は手をのばした。

 うーむ。届かない。そうだ。クローゼットに、いいものがあったっけ。


 僕はハンガーを使って、再度チャレンジ。今度は届いた!


 まちがいなく、例の封筒だ。表に『川西様の宝です』と書かれている。

 それだけ見ると、僕は後をも見ずに、淀川くんの部屋をとびだした。


 これだけで、もう心臓がバクハツしそうだ。

 僕は泥棒には、むいてない。それは、よくわかった。


(よかった。あった。誰にも見つからなかった)


 さて、落ちついたところで、なかみの確認だ。

 封をきると、出てきたのは206のカードキーだ。


(206って、誰だったっけな?)


 まあ、誰だっていいのだ。

 今なら、全員が食堂に集まっている。今のうちにしらべればいい。


 ビギナーズラックで初犯が大成功したので、僕は調子にのってしまった。

 のこのこ廊下を進んで、206のナンバープレートのついた部屋の前に立った。


 重いカシの木の浮彫りの扉。

 カードキーを使って、僕はその扉をひらいた。

 やめとけば、よかったのに……。


 なかは無人ではなかった。

 ベッドの上に人が眠っていた。

 いや、寝ているのではない。

 目をみひらいて……死んでいる。


「わッ——」


 僕は腰をぬかして、廊下に尻もちをついた。

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