思いの強さ。その可能性。後編


そんなこんなで何日かを過ごしたある日、彼が使う生活魔法の熟練度が上がったらしくそれを使って朽ちた剣を使える物にすると息巻いて作業に取り掛かった。


「あー………これどうするんだろう?」


「姐さん、何時もの下処理をしないとダメじゃないんでしたっけ?」


そうなんだよな………下処理が出来ていないと直ぐに腐り出す。私は多少は問題無いけど彼の様な人間には毒にしかならない。


「見よう見まねだけどやってみるか。」


「姐さん出来るんですか!!どうやって?」


えーと、魚は腹を裂いて………さ、裂い、裂いて!あ。頭と胴がおさらばした。


「腹が裂ける前に首がもげてますよ?」


内臓を爪で取り出して…………………ぱく。


「埋めるんじゃなかったっすか?食うんすか?」


棒を目に刺すんだっけ?…………頭無いな。


「尾の方に刺すんは良いっすけどその棒折れちゃいましたよ?」


「ごちゃごちゃうっさい!」


動物なんだから器用に出来る訳無いっての。その後うさぎも同様に処理し(内臓は食った)何時でも夕食が出来る様に準備する。

彼はまだ研いでるな…………

さてと、何しようか?


「そう言えば…………」


ふと自分の体を嗅いでみる。

うん、処理した動物の血やら土やらの香りがする。

この臭いは言うなれば私と言う個体を他の動物に知らせる為の物。

木や岩に体を擦り付ければ縄張りや所有物の主張が出来る…………のだが。


「なぁ、出歯鳥。私等って人間からしたらやっぱ臭いのかな?」


「あっしはクチバシだから出っ歯じゃ無いっす。てかそうなんじゃ無いっすか?あの人間は気にして無いっぽいですが。」


「お前等鳥どもは水浴びするけど………」


「あっし達のは飛ぶのに余計な物があると邪魔なんで。そういや人間はちょくちょく「おふろ」?とか言って穴開けて溜めた水を熱くして入ってやしたね。」


前に彼がそれに入った時に一緒に入れて貰ったけどあれは中々気持ち良かったな。

苦笑いを浮かべながら毛繕いしてくれていたけど。

やっぱ動物にとっては生きる為の手段にもなりえる臭いでもこの臭いは人間にはきついのかな?

…………よし、決めた。


「ちょっと水浴びしてくる。」


「…………人間の為っすか?」


「んー……そんなとこ。」


獣臭いのは嫌だろうし。


「……………そっすか。」


なんか様子がおいしい小鳥を尻目に私は川へと向かう。

川の流れに逆らう様に頭から突っ込むと自慢の毛が水の流れるままにゆらゆらと揺らぐ。


「んー………きっもちいいー!………あ。」


やはりと言うべきか、伸ばした手から赤い物が流れていく。

………良く見ればお腹辺りからも土なのか血なのか。


「え?私、汚すぎ?」


これはいけないと川底に背中やらお腹やらを擦り付けて汚れを落としていく。

あぁ、そうだ顔も洗っとかなきゃ。

そうしている内に日も落ちて辺りが真っ暗になっていた。


「………どんだけ洗ってたんだ………私。」


どうりで体が冷える訳だ。

段々と眠くなってきたけど、これは多分冷えて冬眠すると体が勘違いしているせいだろうと思う。

眠気を振り払い、水気も振り払いキャンプ地に戻ると彼の作業が終わっていた。

彼が生活魔法で温風を吹かせてまだ濡れている体を乾かしてくれる。

めっちゃ気持ち良い…………


「うーん、なぁお前さん、提案なんじゃが、ワシの眷属にならんか?」


えっ!?眷属?眷属って私が彼の配下になるって事?

彼の膝に顔を乗せたまま私は思わず固まった。


「どうかの?」


えっとどうしよう………


〔眷属化の申請がきました〕

〔眷属になりますか?〕

〔Yes/No〕

〔トミオ・ヤマベの眷属になりました〕


何今の声!?とか思っていると流れる様に眷属化が行われた。

許可しちゃった……そしてステータスを表示させる……ん?何で私、ステータス表示の仕方を私は知っているんだろ?

ま、いっか。


「ペルセポネー………とかどうかいの?」


ほえ?何の事?

すかさず私自身のステータスを確認するとその答えが解った。


〔名称が未設定です〕


〔トミオ・ヤマベにより設定中です〕


なるほどこれかー……って、名前をつけてくれると言う事は、か、かかかかっ家族っになななるっ…………


「これはの、死者の国のじ……」


死者って何!家族につける名前に何か不吉な物を選んでない!?

抗議の声を私が挙げると彼がそっと頭を撫でてくる。


「まぁ、待て。最後まで聞け。良いかの?この名は死者の国、冥界の女王の名での。冬の間は冥界に居るんじゃが春になると地上に出てきて豊穣を司る女神になる死と豊穣の女神の名じゃ。冬は地下で冬眠し春になると起きてくるお主等熊の生態と良く似とると思わんか?」


め、冥界の女王にして豊穣の女神………?

そんな凄い存在の名前を私に付けて大丈夫?とか思うけど、素直に嬉しい!


それから何日か熟練度を挙げたりして過ごしたある日、私のスキル欄に取得出来る物が増えていた。

その一つが………


格闘初級 0/10

肉体をフルに使った戦闘法。その基本となるスキル。

職業MAXボーナス:筋+5体+5


熊の骨格でどうしろと。


やれない事は無いけど、どうにも使えない技とかあるし、極めるとなると時間がかかりそう。それにこれが格闘:爪とかならまだ良いんだけど熊の前蹴りとか届かんだろ。

そしてもう一つがまた微妙。


「これは………取る意味あるのかな?」


言語 0/5

あらゆる言語に精通する。このスキルをマスターした者は全ての生命体と会話をする事が出来る。

熟練度MAXボーナス:知+5


スキル自体はあらゆる可能性を秘めているのはわかるんだけど今いるかって言われればいらないなー。

なんだかんだで意思疎通できてるし。

悩むなー………


「ふむ………どうしても悩むならLv10まで待ってからでも遅くないのではないかの?」


彼の話では恐らくレベルが10になれば新しいスキルが選択できるかも?と言っていたから、焦る必要は無いっぽい。

後はこの謎スキルだ。

条件が揃っていないらしく、未だに取得できないでいる………いや、正確には取得してはいるけどどう言った効果で何のスキルなのかが理解できていない。

効果自体は発揮しているけど使い方がわかんないと意味無い…………


「まぁ、仕方無いのう。それは分かるまで………!」


その時、私は咄嗟に身構え、彼もその方向に振り向くけど、私の方が素早く動けた。

逃げ腰だったからかも。


「………ダメ!」


「うおっ!」


咄嗟に彼を背中に乗せてその場を飛び退いたのだけど、爆発によって吹き飛ばされた。

飛ばされた瞬間、咄嗟に体を浮かせ彼を庇った事でバラバラに飛ばされ、私は更に転がった事でより遠くに飛ばされた。


「か、彼は………居た!」


起き上がりながら探すと滝の側に彼は居た。慌てて近付こうとすると体が急に重くなる。


「これは彼のスロウ!」


一瞬戸惑いそしてすぐに体が軽くなる。


「彼が私を足止めした!?何で!?」


そう思い彼の方を見ると彼は微笑みながら爆発に巻き込まれ滝に落ちていった………



その後の事は良く覚えていない。

気が付くと私は彼を追いかけて滝に飛び込んでいた。

自分でもバカな事をしていると思うけど只々助けたいと思ったんだ。

滝壺に飛び込んだ私は渦巻く激流の中、必死に彼を探す………いた!

運良く滝壺に飲まれてはいなかったが気を失っているのかそのまま下流に流されていく。その流れは速く、必死に泳いでも追い付かない。


くっ………水が重い………もっと軽く!もっと速く!


〔エクストラスキルの条件が整いました〕


必死にを伸ばし私は叫ぶ。


「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



























〔エクストラスキル「人化」が解放されました〕



――――――――――――――――――――

二人が滝壺に落ちた後、その様子を一人の少年が滝上から見下ろす。

轟々と滝が流れ落ちる轟音の中、暫く滝壺を見つめていたが、誰も上がってこないのを確認したのか不意に視線を外し滝を背にする。


「………姐さんが悪いんだ………」


そう呟いた少年が腕を広げると、その腕は少年の背の倍は有ろうかと言う鳥の翼へと変わる。

僅かに抜け落ちた羽根が地に落ちる頃、滝の上には暗闇と轟音だけが残された。

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