思いの強さ。その可能性。前編
「ふあぁぁ………今日もいい天気だなぁ。」
暖かい木漏れ日の中、のっしのっしと餌を求めて歩くその日は何て事の無い割と平和な日だった。
北の方では魔王軍が人間達の棲家を潰してるとか、他の生き物を根こそぎ食料にしているとか森の仲間達の噂を聞いてはいたけど、私が住んでいるこの辺りにはそんな気配も無くて、たまに戦いに破れた冒険者が呪いか何かで干からびながらも生きている、なんて状態で徘徊しているのを見かけるぐらいだ。
こうなると例え人間であろうと動物であろうと食料にもならず、他者を羨み、恨み、その身に宿した呪いを撒き散らすだけの存在になる。
厄介だなぁ………と思うけど数も居ないし件の魔王軍も見掛けないから森の仲間達もそんなに気にはしていない。
「姐さん姐さん!」
「耳元で騒ぐな。で、どうした?」
私の肩に図々しく乗っていながらピーチク騒ぐ出歯亀野郎(小鳥だが)を睨みながらどうしたのかと尋ねる。
こいつは何時の間にか側に居て、ずっと私を「姐さん」と呼んで離れず付いてくる奇妙な同行者だ。
「あそこ!9時の方向!距離30!人間っす!」
「お前は何処でそんな………まぁ、良いけどさ………しかし珍しいね。最近人間達は砦に籠りっきりで見かけないのにな。」
言いながらその方向を見ると確かチュニックとかいう上着にケープ?とか言うのを羽織った狩人みたいな男がこちらを見ていた。
「・・・姐さん、狩人っすかね?だったらヤバイっす!俺、狩られるっす!」
「お前なんか獲っても腹の足しにもなりゃしないよ!……ふむ、離れていったから問題無いな。」
森に迷いこんだかそれともただの狩りか。どちらにしろ、相手にしない方がお互いにとって良いだろう。
「姐さん、あの人間なんだったんすかね。」
「………追うなよ?」
「追わないっす!」
それから暫くの間、その人間とは会う事も無く魔王軍が来る事も無くいつも通りの平和な時間が過ぎていった。
そんなある日の事。
その日も私(と出歯亀鳥)は食料を探してふらふらと森を散策していた。
しかし、最近まともな栄養分を取っていないからか、どうにも体調が良くない。
「………だーめ。何も匂わない。最近、鼻が詰まって仕方無いねぇ………」
「姐さん花粉症っすか?」
「冗談じゃ………くちゅん!…………あーこれは風邪だねぇ………」
「そんなに毛皮が有るのに風邪っすか!」
「毛皮の有無は関係無いよ!」
どんなに毛皮が厚くても動物だって生きている。風邪だってひくさ。
「せめて蜂の巣でもあればマシになるんだけどな………」
「あれ?姐さんって甘いの好きでしたっけ?」
好きとか嫌いとかでは無いんだけどな。私達は基本的に雑食だから食べ物が目の前にあれば木の実だろうが虫だろうが食べる。
ただ、蜂の巣はハチノコや蜂蜜は栄養価が高い。だから体調不良の今、それがあれば直ぐに本調子になるって言う事だ。
…………別に甘いのが好きって訳じゃ無いんだからね!
「体調不良時にはハチノコや蜂蜜が栄養価が高くて良いんだよ。」
「………動物でそんなん考えているの姐さんぐらいっすよ?」
「他の奴等が考えなさすぎなんだよ。」
多分そう。
本能で生きるのは良いんだけど、下半身直結の同族にはうんざりしているのよね………
更に言えば知り合いのママ熊さんが子供達と食料を探していた時にオスとかち合いそうになって必死に逃げた事があったらしい。
あの時は子供が食われると思ったとママ熊さんが言っていた通り、メスの私達は子供を育てるって目標が有るけど、オスは食っちゃ寝してるだけだから食える物は同族の死体だろうが子供であろうが食うから、厄介なんだよ。
あと発情期にはしつこいし。
もっと男を磨いてこいっての。
はぁ………どっかに強いだけでなく優しくてダンディーなオス居ないかな?
種族は問いません。
とか考えていたのが悪かったのか、その出会いは突然だった。
「「!」」
曲がり角でぶつかって恋に落ちるとか人間の世界じゃ有るらしいけど、まさか巨木を過ぎてこの前の人間と鉢合わせするなんて思わなかった。体調不良だったのと風上だった事が災いしたのか人間が目の前に来るまで気付かない何て事は本来なら有り得ない。
………ど、どうしよう………
思考が纏まらない………突然の事で戸惑い混乱する。ただでさえ体調不良なのに熱まで出てきた………気がする。
向こうも焦っているみたいだ。
どうするか必死に考えていたら、人間が生き残る為だろう持っていた棒に吊るされている血抜きされた野うさぎを差し出してきた。
「くれるっていうのか?」
人間には「グルゥ」ぐらいにしか聞こえていないと思う。
差し出された食料に目が離せない………本来野生の私達は食べたい時に食べられる保証は無く、実際、私が食べたのは2日前だ。
人間が野うさぎを地面にそっと置いてゆっくりと後ろに下がる。
「食べて良いのか?」
「今です!!」
「はいはい、うるさいぞ。」
出歯亀鳥がいらん事言ってるが気にしないで目の前の食料にありつく。
「姐さん、毒でも入ってたらヤバイっすよ!」
「大丈夫だよ。私の嗅覚は犬っころどもよりも高いんだ。多少詰まってても問題無い。毒なんか入って無いよ。」
私達の嗅覚はとんでもなく鋭く、犬の嗅覚の 約7倍、人間だと約2100倍はある(wiki調べ)
なので鼻が詰まって半減したぐらいじゃ、大した問題では無い。
私が野うさぎを食べていると人間がゆっくりと後退しだした。
「姐さん姐さん!人間が去って行くみたいっすよ!」
「みたいだ……ねっと。はむはむ…………さて………あむ………どうするか?」
正直、このまま離れるのが普通だけど着いて行っておこぼれを頂戴するのも悪くない。
それに食べている私をまるで子供が餌を食べているのを見守る様な感じで見ていたから、力試しでたまにやってくる人間達と違って森で暮らす狩人だと思う。
そう言う人間は私等と同じく生きる為にしか命を奪わないので、側に居た方が安全だったりもする。
「暫く様子見も兼ねて付いていくとするかね。あんたはどうする?」
「あっしですか?うーん………」
「付いてくればおこぼれが有るかも知れないよ?最悪、天敵は寄ってこないだろうね?」
「あ、行くっす行くっす。」
…………調子が良いなこいつ。
それからというもの人間に付かず離れず側に居る。
人間の方も当初と違って下処理が終わった食料の一部を定期的にくれたりしている。
私の方もただ貰うだけでなく、川で捕まえた(手で弾いた)魚等を提供している。
「とか何とか言って、焼いた魚とかがおいしかっただけじゃないんすか?」
「うるさいぞ。手羽先。」
まぁ、実際、焼くと言う行為は私等には出来ない事だし、ここまで旨いとは思わなかったんだが。
最近は私があまりの旨さに夢中になって食べているのを人間は微笑ましく思ったのか警戒心が感じられなくなってきた。
まぁ、私も何だが。
「姐さん、最近顔付きが変わったっすね?」
「・・・太ったとでも言いたいのかい?」
「違うっす!優しくなったと言うか………人間に対して甘えてないっすか?」
こいつ………痛いとこ突いてくる………確かに最近ずっと一緒にいるしご飯は美味しいし獣臭を気にしてないし幼い顔して喋りは爺臭いしって別に好きとか嫌いとかそんな事じゃないしてか私熊だし彼は人間だしでもでも種族は関係無いてか「キャー!何言わせてんだバカ鳥ー!!」
「うわっ!危なっ!!」
おっと、危うく爪で切り裂く所だった。
………ちっ。
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