つもりはつもり
そんなつもり、なかったんだ。
ほんとうに、悪気なんてなかった。
ただ、おまえが深く考えすぎて身動きとれなくなっていたから『もっと気楽に考えろよ』って、そういっただけだ。
それだけじゃないか。
悩んだってしかたねぇことで悩んでたから。
そんなふうに悩む必要ねぇだろ――って。
もっと楽に生きろよ――って。
そういっただけじゃないか。
『気楽に考えられるなら、楽に生きられるなら、最初から苦しんだりしない』
そんなメッセージひとつ送りつけて、おまえは逝っちまった。
おれが、おまえの背中を押しちまったんだそうだ。葬儀にも参列させてもらえなかった。
なぁ、おれは――そんなに酷いこといったか?
きのう、友だちにいわれたよ。
いくら悩んだってどうしようもないんだ。もう忘れろ――って。
そんなこといわれてもな。頭にこびりついて、はなれないんだ。あれから何年もたつのに。苦しくて苦しくてどうしようもない。
気にするなといわれるたび、忘れろといわれるたび、細くてちいさなトゲが刺さるんだ。ちいさすぎて、細すぎて、一度刺さると抜けない、だけど一本二本なら刺さったことにすら気づかない、ちいさな、ちいさな、細いトゲ。
……ああ、そうか。
考えてもどうしようもないことを考えてしまうから。やめたいのに、やめられないから。どうすればやめられるのか、わからないから。
だから、苦しいのか。
おまえも、そうだったのか。
そんなこと、今さらわかったところでどうしようもねえのにな。
やっぱおれ、いちばん酷いのはおまえだと思うよ。
死なれちまったら文句いえねぇし。いいわけもできねぇ。
励ましたつもりだった。
元気づけたつもりだった。
つもり。なんだよな。
つもりでしか、なかったんだよな。
そんなもん、聞き流してくれりゃいいのに。
それができりゃ、はなから苦しんだりしねぇよな。
からっぽな人間の、からっぽな言葉が人を殺しちまうことがあるなんて。
ほんと、最悪。
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