ナオ
田町と品川の間に大きな公園がある。
そこで知り合いのカメラマンと撮影をしていた時、丁度ゾンビが現れた。まるで映画のようなタイミングだった。
直ぐ様カメラマンとアシスタント2人がかりで応戦し三脚で殴り付け倒し、その隙にナオが保健所に電話をした。
公園の他の利用者が呼んだのか、公園の管理人らしき中年男性が武器を持って走って来た時には既にゾンビは絶命していた。
カメラマンのヒデオさんは無事だったが、アシスタントのクリタさんはゾンビに腕を引っ掛かれたため病院に隔離入院となった。大した傷ではなかったため救急車は他の被害者に譲り、ナオとヒデオさんの2人でクリタさんを救急隊員に指示された近くの病院まで連れていく。
その病院はマサチカ先輩の入院している病院で、ヒデオさんと共に入り口までクリタさんに付き添ったナオはふと思い立ち受付でマサチカに面会出来ないか聞いた。
一度意識は取り戻したが再び倒れてしまった。
そのためご家族以外は前以て許可のある方しか会えません、すいません。
受付の男性は申し訳無さそうにそう言った。
面会謝絶に近い状態の割に病状をやたら詳しく教えてくれて、個人情報の取り扱いがやたら緩い事が気になってしまった。
ただ会うことも出来ない、スマホも電源の入っている様子がない、これでどうやって本人や家族から前以て許可を取れと言うのだろう。
念のためナオとヒデオさんも簡単な検診を受けさせられ、何事も無かったので午後には解放された。
ヒデオさんにファミレスで少し遅いお昼御飯を奢って貰い、駅で別れる。
今日は夜に友達と渋谷で遊ぶ予定だ。
撮影もゾンビ騒ぎで半分も撮れず明日の午後に延期になった。
時間潰しとして大学の図書館に寄ろう、レポートがある。
「高校のひとつ上の先輩でオオサキさんっていたじゃん、あんたのストーカーしてた奴」
夜に会った友人はカフェラテをかき回しながら突如嫌な話を始めた。
オオサキ、忘れもしない。
高校に入った頃から雑誌やキュレーションサイト等で読者モデルのような事をしていたナオに対して「俺がお前の最初のファンだから」と言い続けていた。
ストーカーというのは少し言い過ぎではあるが、何かにつけて追いかけ回されていたのは事実だった。
軽音部でナオのストーカーさえしていなければそれなりにモテたはずだ。
残念な男だった。
しかし成績が悪かったが故に第1志望に落ちて浪人生活に入ったという噂を聞いたが、結局大学まではナオを追いかけて来なかった。
数ヶ月前までは時折一方的にラインやメール等を送ってきていたが、そういえばナオが大学に入ってからはとんとご無沙汰だ。
春からあちらも新しい生活を始めて次第にナオから興味を失ったのかなと思っていた。
「何、あいつなんか犯罪でもやらかしたの?」
ストローのゴミをいじりながら聞き返すと友人は意地悪そうに笑う。
「あの人、なんかゴールデンウィーク頃にに変なバイト………治験とかいうやつ?やってからおかしくなって突然倒れて入院してるんだってさ、面会謝絶」
キュッと心臓が止まった、ような気がした。
まさか。
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