再びアユミ

「ミドリムシか蜜蜂?その二択なんですか?」

驚いてついつい大きな声になってしまう。


突然マサチカが治験のバイトをやると言い出したのだ。

それが今開発中のゾンビワクチンの治験だそうで、何故か「ミドリムシ由来のサプリか、蜜蜂の素揚げのどちらかを五日間毎日、一日三回摂取する」という内容なのだそうだ。

健康な二十代男性を何人か選びふたつのチームに分け、それぞれにどちらかを摂取させて経過を見るとかなんとか。

「わけわかんないっすね」

本音が思わず口をついてしまう。

「タカサカはいつも正直に感想を述べるな、お前のそういうところ嫌いじゃないぞ」

マサチカは相変わらず淡々としている。やはりその鋭い眼光の向こう側で何を考えているのかよくわからない。


ミドリムシのユーグレナ効果とかなんとか、そして蜂の子は免疫力向上とかいう効果を持つとかなんとか、といった理由らしい。

マサチカの話が余りにいい加減というか曖昧過ぎて、結局ワクチン開発というより健康食品のサンプル配布程度の話のように思えてしまう。

ゾンビウイルスに効く薬があるのならそれは確かに願ったり叶ったりだとは思うのだが、そんな簡単な健康食品もどきでなんとかなるのだろうか。しかし自分は工学の人間で化学や生物学は専門ではないので口は出せない。


連休にサークルの飲み会あるだろ、すまんがそれは出られないわ。


マサチカはそう言って部室を出ていった。


連休明けに会ったマサチカは更に痩せたように見えたが、一見大きな変化は見られなかった。

「治験終了後、一か月はこのミネラルサプリを飲むように言われてて」

学食で会った時やサークルでの飲み会でもそのサプリを口にしていた。

「先輩はミドリムシさんチームとハチさんチームのどっちだったんですか」

アユミが聞くとマサチカはニヤリと笑って「それは秘密です」と答えた。


「この治験のギャラは後期の学費の足しにする」

スマホでネットバンキングの口座を確認したマサチカは喜んでいたが、その1週間後突如倒れて入院してしまった。



そして面会謝絶となった。



すわゾンビウイルスか、とサークルは騒然としたが、どうやらゾンビではないらしいという情報がもたらされると更に騒然となった。

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