マサチカ

マサチカは大学の近くにあるチェーン系カフェでレポートの仕上げをしていた。

大学図書館は今日何故かやたらと混んでいて落ち着かなかった。

公共図書館もあるのだが、ここからは少し歩くから面倒だ。駅の反対側にあるから。

丁度2限が休講になっていたのもあり、少し早い昼食も兼ねてこのカフェにやってきた。お昼頃に来るとほぼ毎回いるベテラン風の女性店員に手早くコーヒーとサンドイッチを出して貰う。

自分はすぐ近くにある工業大学の学生だ。

レポートは大して面倒な物ではなかったしほぼ完成していたので、最後のチェックだけしていた。

営業回りのサラリーマンに紛れて安いノートパソコンと睨み合っていると、店の外から大きな音がした。

慌てて店員がひとり外に飛び出していく。

あのベテラン風の女性だ。確か名札の名前はミサトさんだかミサキさんだか。

どうやら店の目の前でゾンビを仕留めたリーマンがいたようで、その倒れたゾンビが店のドアに強くぶつかったらしい。

強化ガラスだったためか簡単には割れなかったようだが、店の内側から見てもかすかに血糊のようなものが付着しているのが見て取れた。

女性店員は店内にいる若い店員に向かって「マニュアル!」とだけ叫ぶ。若い店員は慌ててカウンターの中にあった電話で22×番に掛け始める。

その間にまた別の店員が掃除道具と消毒剤らしき物を手にして店の奥から走ってきた。

丁度ランチタイムで人手を増やしている時間だからこそ出来た連携プレーだろう。

………接客業は大変だ。

大学3年の自分も来年には就職活動だ。

色々と考えさせられる。


隣の席では営業周りの途中と思われるサラリーマンが居眠りをしていたが、突然バチンと弾けたように目を覚ますと時計を見て慌てて店を出ていった。

彼が分厚い手帳を忘れて行った事に気が付いてマサチカは店員に「サラリーマンの人の忘れ物です」と言って手渡した。


善行を積むとゾンビウイルスには感染しない。

先月、新入生相手に勧誘をしていた宗教団体がそんな事を言っていた。

別にあいつらの戯れ言を信じるわけではないが、良いことをすると気分が良いだけだ。


今ある以上にタフな強化ガラスを作ればゾンビと人間を物理的に隔離出来る。実際その研究をしている教授がうちの大学にいる。

昔いたというどこかの国の大統領のように「壁を作れば良い」という安易な事は誰しもが1度は考えるだろう。その是非やモラルは兎も角として。

問題は人権派と自然派を謳う団体をどう説き伏せるかだ。例え相手がゾンビだろうと。


マサチカはふと後輩と待ち合わせしていたことを思い出し、ノートパソコンを閉じた。

ここ数ヶ月はマスク無しに外出は出来ない。

花粉やインフルエンザ、そしてゾンビウイルス対策だ。


ゾンビとの共存。それは可能なのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る