第3話 初めての銃

「しっかしプレイヤーが居ねーなー」



銃を片手に辺りを見回す、都心部の方まで歩いて来たが出会ったプレイヤーはゼロ、NPCも居なかった。



初期アイテムの時計に目線を移し時間を確認する、ゲーム開始が12時で今が15時なのを見たところ3分しか経って居ない様子だった。



一先ず荷物を持って動き回る訳にも行かない……何処か拠点を探す必要がありそうだった。



辺りを見回すが民家はあまり好ましくない、理由は耐久性もあるが平地にある故簡単に侵入されてしまう欠点があった。



となれば……玲は視線をマンションへと移す、この世界にお金なんて物は無い……つまり何処にでも住めると言う訳だった。



「いやー、永遠にこのゲームやりたいよ」



マンションの中でも特に高いマンションへ排水管を器用に使い二階へと登ると一気に屋上階まで階段で上がる、マンションの欠点は万が一侵入された場合逃げ場が無いがその万が一が起こる可能性が低く、最上階付近をバリケードで固めれば突破される確率も低くなる故メリットの方が大きかった。



大きな荷物を運べない欠点もあるが20階建てのマンション、部屋ならいくらでもある……物資も豊富だった。



19階辺りまで階段を使い登った所である事に気がつく、20階まである筈なのに階段は19階で終わって居た。



マンションの廊下から身を乗り出して上を見るがもう1階上はある……エレベーターを使わないと行けない様だった。



「電源付いてる気がしない……」



エレベーターのある場所まで歩きボタンを押すがエレベーターは無反応、電気は通って居ない様だった。



ふと足元に目を落とす、すると一枚の紙が落ちて居た。



「太陽光による地下発電のスイッチ……?」



ソーラーパネルにより電気を貯め非常時の際にも不自由なく暮らせる作りになっているマンションの様だった、だが基本的に太陽光の電気は使っておらず、使う際には地下の発電場に電源を入れに行かなければならない旨が書かれて居た。



そこら辺はゲームと言うべきか……自力で考えろと言う鬼畜仕様では無い様だった。



「またあの階段を降らないと行けないのかよ……」



長い階段を降りなければならない事にため息を吐く、荷物をエレベーター前に下ろすとアサルトライフルを肩に掛け拳銃を腰元に固定する、銃は使った事無いが所詮ゲーム、何とかなる筈だった。



玲はグッと伸びをして階段を降りる、念の為一階層降りる毎にゾンビが居ないかフロアで音を立てて確認するが居ない様子だった。



入り口を見る限りはこのマンションにゾンビの気配は無いが地下は恐らく別、地下駐車場などと繋がりゾンビの出入りは自由の筈だった。



1階のロビーに着くと管理所の扉を何回も蹴り飛ばして壊す、そして壁に掛けられた地下の鍵と部屋の鍵を開けるマスターカードキーを手にするとご満悦の表情で地下に続く扉へ向かった。



此処まではトントン拍子、以外にも余裕だった。



重々しい鉄製の地下へ続く扉に手を掛ける、だが玲は開けずに耳を当てると扉の向こう側から小さな声だが呻き声が聞こえて来た。



「居るなぁ……」



アドルフの存在が恋しい、一人だとこうも心細いとは思わなかった。



なにより仮想現実のゲーム故臨場感が半端では無い……心拍数が異常な程に上がって居た。



「よし……行くか」



大きく深呼吸をして扉の鍵穴に鍵を差し込む、そして重い扉を力一杯開けるが扉の向こう側は真っ暗だった。



地下と言う事もあり灯りが全く無く暗闇が広がって居る、咄嗟にアサルトライフルに取りつけられて居たライトを使い辺りを照らすと予想通りゾンビが居た。



そこそこに広い駐車場をふらふら歩くゾンビ達、10体は優に超えて居る……だが幸い此方には気が付いて居なかった。



正直気が付かれると死の危険がある、退路は二階の廊下から飛び降りる以外に無い、万が一飛び降りたとしてもこのアバターだと足が折れる可能性もある……慎重にバレない様任務をこなさないと行けなかった。



一先ずアサルトライフルのマガジンを取り外し残弾を確認する、アドルフが6発使ったのか24発しか無かった。



予備マガジンは無し、拳銃の方と合わせると34発……大事に使わなければならなかった。



一先ず上で拾った地下の地図をライトで照らし位置を把握する、駐車場の端っこの方に小さく発電所と書かれて居た。



距離だけで言うと300メートル、微妙だった。



ライトを消すと息を押し殺し壁に沿ってゆっくり、足音を立てない様に発電所へと向かう、壁伝いに行けば距離は増えるがその分安全に行ける筈だった。



ゾンビの声が聞こえると立ち止まる、バレるのでは無いか……殺されてしまうのでは無いかなんて言う考えが頭の中に過ぎり心拍数はどんどん上がって行った。



心臓の音が外まで聞こえる程に大きくなる……だが慎重に慎重を重ね発電機のある部屋まで行くと一瞬だけライトを照らした。



照らされたドアノブに一瞬だけ見えた鍵穴、咄嗟にポケットへ手を突っ込むが鍵は地下へ入る為の鍵しか無かった。



あとはマスターキーのみ……完全に此処の鍵を忘れて居た。



「最悪だ……」



何度もポケットを探るが鍵は無い……また壁を伝って戻らなければ行けないと考えると気が遠くなりそうだった。



ゆっくりと壁を伝い扉へ向かう、足音が響かぬ様すり足で歩くが急にゾンビの呻き声が激しくなり始めた。



「な、なんだ……」



流石に暗闇で位置はバレて居ない筈だがゾンビの声が近づいて来ていた。



その距離は数十メートルから数メートルの近さになる……おかしかった。



咄嗟に玲は時計の時間を確認する、時間は21時を指して居た。



その瞬間、冷や汗が頬を伝った。



「やばい!!」



玲の声が駐車場の中に響き渡る、もう隠密行動なんてして居る暇は無かった。



このゲーム、サバイバルをより難しく、臨場感ある物にする為21時から5時までの8時間、ゾンビの動きが活発になる様設定されて居た。



先程ヘルプで読んでおいて助かった……知らなければ確実に死んで居た。



とは言えまだ助かった訳では無い、玲は急いで扉の向こう側に行き鍵を閉めようとする、だが扉が重く、ゾンビの方が辿り着くのが速かった。



「筋力のステータスもっと上げるべきだったか……」



すぐ様扉を諦め階段を使い上の階に向かう、パッと見ゾンビの数は10体やそこらだった……19階の長い廊下ならば向かい打てる筈だった。



階段を駆け上がるがゾンビ達の驚く程に速いスピードに追い付かれそうになる、玲は拳銃を腰から取り出し走りながら引き金を引こうとするがトリガーがビクともしなかった。



「壊れてる……?」



説明書にはそんな機能無かった……だが拳銃は何故か撃てない、完全に焦って居た。



ゲームと言えど凄い緊迫感、まるで本物に襲われて居る様だった。



その時安全装置の存在に気づく、玲は安全装置を素早く外すと今度はしっかり引き金を引いた。



拳銃は薬莢を吐き出しながら銃声を轟かせる、思った以上の反動によろけそうになりながらも態勢を立て直すと一気に階段を駆け上がり19階の荷物が置かれた場所まで走り抜ける、そしてアサルトライフルを構え安全装置を外すと構えてゾンビが上がってくるのを待った。



しっかりサイトを覗き込み頭付近を狙う、するとゾンビは奇声を上げて長くそれ程幅のない通路を全力疾走して来た。



「良し……やるか」



息を吐いて引き金を引く、すると鼓膜が破れそうな程の銃声を響かせゾンビ達の身体を銃弾が貫いて行く、反動で上に上がる銃口を何とか保とうと頑張るが身体が震えた。



「やばばばば」



リアルの銃を撃った事がない故どんな反動なのか分からないが恐らくリアルを追求したゲームなのだからこんな物なのだろう……はっきり言ってめちゃくちゃに難しかった。



ゾンビ達は銃弾を受け次々に倒れて行く、だが頭を撃たなければ一撃では死ななかった。



「やばい……残りの弾が」



数体を残し残弾が無くなる、すると咄嗟に拳銃へ持ち替え頭を狙い引き金を引いた。



銃弾はゾンビの頭を貫く、だがそれはマグレ、他の弾は訳の分からない所へと飛んで行って居た。



「早く死んでくれ!!」



玲は叫びめちゃくちゃに撃ちまくる、そして最期の薬莢が地面に落ち引きっぱなしになった拳銃を地面に落とすとため息を吐いた。



目の前に広がるゾンビの死体……やっと倒せた様だった。



「本当……リアル過ぎるよ」



リアルにリアルを追求し、楽しいを通り越して正直少し疲れてしまった……玲はアドルフから貰ったナイフを片手にまた地下の発電所へとふらふらとした足取りで向かって行った。

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