第2話 好発進

目を開くと其処は既にゲームの中だった。



辺りを見回すが至って普通の東京の街並み、少し違和感があるとすれば人がいない事位だった。



「すげぇ……忠実に再現されてるな」



アンデットゲームのマップはグー◯ルアースを用いて忠実に世界を再現しているらしく、載っていない所も想像で造られて居るらしかった。



辺りを見回すがまだゾンビの気配も無い様子、指をスワイプしてメニューを開くと役職名が名前の隣に表示されていた。



「あー、医者か……まぁアバターに運使ったししょうがないか」



役職はハズレ、現在の所持品を確認するが絆創膏のみだった。



武器は現地調達の様だがゾンビが居ると考えると絆創膏のみの自分では迂闊に動かない方が良さそうだった。



情報公開され立てられた攻略掲示板の情報によれば必須アイテムは銃と地図、食料や水もメーター管理され補充する必要があるが3日間補充しなくとも大丈夫らしかった。



辺りを見回し近くの民家の扉に手を掛ける、ゲームの世界とは言えリアル過ぎて少し入るのを躊躇してしまう佇まいだった。



「確かリアリティ重視のゲームだったよな」



玲は落ちていた小石を拾い上げ家の中に投げ込む、するとコツンと言う音が家に響き渡った。



そして数秒もしないうちに呻き声が聞こえる、この民家はパスした方が良さそうだった。



製作者が公開生放送で『詳しい事は言えない、だがリアリティを追求した』と言っていた……つまりオーソドックスなゾンビ設定で行くと音に敏感、視力もあるがそれほど強くないと言った線が濃厚の筈だった。



ゾンビ好きの自分からすれば朝飯前の情報、暫くはこの方法で家の選別をした方が良さそうだった。



「にしても性別の選択ミスったかもな」



肩を回しながら呟く、ゲームに影響が無いと言っておきながら異常に肩を凝っていた。



原因は明らかに胸……少し違和感は感じるがそれ程気にも止めず玲は次の民家へと足を踏み入れる、そして小石を同様に持ち上げ投げ込むが今度は反応が無かった。



「おっ、当たりか?」



顔を覗かせ中を見るが廊下には誰もおらず音もしなかった。



リアリティを追求したお陰でこのゲーム、相当難易度が高そうだった。



理由は視界の端に映る感染メーター、メニューを開きヘルプに目を通すが噛まれると感染し、特殊なワクチンを打たない限り感染して死ぬ様だった。



そのワクチンを作る技術を持って居るのが医者、そう言う点では重宝される立ち位置でもある様子だった。



警戒しながら部屋を進みつつゲームの情報を取り入れて行く、その中でも一つ気になる物があった。



それは経験値メーター、ゾンビを倒せばレベルアップする様子だが何の意味があるのか分からなかった。



メニューには振り分ける所も無い様子……まだ制作段階と解釈するのが正しそうだった。



玲はゆっくり扉を開けると中を確認する、一般的な家庭のリビングだった。



サバイバルゲームといっても安易に民家の中に銃は置いていない、其処ら辺もリアルだった。



「一先ず武器になりそうなものっと……」



辺を見回し武器になりそうな物を探すが民家で武器になりそうな物と言えばナイフ位だった。



「使えねーなー」



文句を言いつつもナイフを手に取る、その時ふと工具箱が視界に飛び込んで来た。



玲は近づき工具箱を開ける、すると1メートル程の長めのバールが入っていた。



ナイフのリーチと見比べるとナイフを捨てる、そしてバールを手に取った。



「重さもリアル……こりゃ持てる物に限度がありそうだな」



このゲームとにかくリアル、異次元のリュックも無ければ持てるものにも限度があった。



二階へ行き部屋を漁る、そして子供部屋と見られる場所に手を掛けたその時、玲の動きが止まった。



物音がする……この世界ではNPCの生存者も存在して居るが正直警察官で無ければ同行させるのは難しかった。



それに加えて子供ともなれば邪魔なだけ……だがゾンビよりかはマシだった。



物音を立てればゾンビの場合気が付かれる……だがリュック無しは流石にキツかった。



握って居たバールを構えると息を吐く、そして次の瞬間扉を蹴破ろうと勢い良く蹴り飛ばした。



だが扉は蹴り破れず跳ね返される、するとその音に気が付いたゾンビが扉の向こうから唸り声を上げた。



「やっぱりゾンビかよ……っていうかカッコ悪」



倒れる際に痛めた腰を抑えながら立ち上がるとゾンビの唸り声をよく聞く、そしてバールの鋭い方を扉に突き刺すが何の感触も無かった。



「ん?おかしいな」



ゾンビの頭を突き刺したつもりだったのだが何の感触もない事に首を傾げる、すると次の瞬間凄まじい力でバールが引っ張られた。



「おわっ!?何だよこの力?!」



バールはゾンビに掠りもせずゾンビは無傷、それどころか余計にうるさくなってしまった。



「やばい、このままだと他のゾンビが……」



辺りに響く声に焦りが出始める、銃さえあれば倒せるのだがやはり医者は無能だった。



バールは諦め逃げようとしたその時、急にゾンビの声が静かになった。



「なんだ?」



バールを引き抜こうとするとアッサリ引き抜くことが出来る、恐る恐る扉を開けるとゾンビが倒れて居た。



「大丈夫かいアンタ?」



目の前から聞こえて来た男の低い声に顔を上げると其処にはスーツを来た男がアサルトライフルを片手に立って居た。



「プレイヤー?」



その言葉に頷く男、少しまずい状況かも知れなかった。



このゲームはPVPも同時に出来る、協力するか敵対するか……もし彼が敵対を選べば確実に殺された。



「アンタ役職なんだった?俺は見ての通り軍人だ、マフィア見てーだけどな」



そう笑いながら両手を広げ言う男、見た所悪い奴では無さそうだった。



「自分は医者です」



そう言い証拠の絆創膏を見せる、性別はどっちとも取れないように一人称は念の為自分にして置いた。



「医者か!そりゃ良い!」



「医者が良い?」



男の言葉に首を傾げる、医者は最弱の役職、バカにされて居る気がした。



「ワクチン製造に医療知識、サバイバルには必須の役職じゃねーか、俺の名前はアドルフ、良かったら組まねーか?」



そう言い手を差し出すアドルフと名乗った屈強な男、正直彼を信じて良いのか分からなかった。



彼に限らずこのゲームのプレイヤー全員……PVPが許されて居る以上、いつ殺されてもおかしくは無かった。



だが本当に彼が信じてくれて居るのであればこれ以上頼もしい仲間は居ない、役職からしても見た目からしても。



だが……万が一裏切られても所詮ゲーム、次をプレイすれば良いだけだった。



「宜しく、自分はレイです」



そう言い手を握る玲、その言葉にアドルフは嬉しそうに笑った。



「宜しく!取り敢えず外見張っとくからゆっくり探索して来いよ!」



そう言いカバンを背負うと玄関へと降りて行くアドルフ、彼はもう集めた様子だった。



「ありがとう」



彼の言葉に甘えて部屋の隅から隅まで探索する、武器は相変わらずバールのみだったが抗生物質を二個に水を二本、非常食と缶詰を5日分見つけることが出来た。



何より大きい収穫なのが登山用バックを見つけた事、これで持ち物にはある程度困らなさそうだった。



後は……銃と地図だけだった。



「アドルフ、地図持ってる?」



探索をし終え玄関に居るアドルフに尋ねる、だが返事が無かった。



「アドルフ?どうかし……」



玄関を開け外に出る、すると其処にはゾンビに食べられて居るアドルフが居た。



数は1匹……次の瞬間にはバールを振り下ろして居た。



仲間が殺されたと言う怒りでは無くこのゾンビを倒せばアドルフの銃を手に入れられると言う考えからの行動だった。



バールの微妙に曲がって居る部分がゾンビの頭に突き刺さるとすぐさま抜きもう一度突き刺す、叫ばれる前に倒すとアドルフから退かせた。



「うわ……グロい」



腹部を引き裂かれ内臓が引き摺り出されて居る……アドルフは当然絶命して居るが気になることがあった。



何故アバターが消えないのか、普通は消えて何処かでリスポーンするのだが不自然だった。



些細な疑問を抱きながらも銃とバックに入った様々な物を貰うと登山バックに入れて居た物も移し替える、そして背負うが重過ぎて足がフラフラだった。



「おっも……」



何とかヨロけながらも態勢を立て直すと銃を肩から掛けて歩き出す、その時誤ってゾンビの頭を踏み潰すとピロンッと言う音と共にレベルアップの文字が表示された。



「あ、倒せてなかったんだ」



レベルアップよりも倒せて居なかった事によるゾンビのタフさに驚く、目の前には何やら選択肢があった。



筋力、知識、射撃、格闘術の四つ、恐らく振り分けのステータスの様だった。



無論玲は迷わず筋力を選択する、すると選択の画面は消え、バックを持つのが軽くなった。



「其処らへんはゲームなんだなぁ」



少しリアリティからは離れた機能にボヤく、武器も手に入れサバイバル初日は好発進の様だった。

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