アンデットゲーム

餅の米

第1話 初めてのダイブ

「なぁ……嘘だよな、嘘だと言ってくれよなぁ!!」



血の匂いと腐臭、火薬の匂いが混じる街の中を走り叫ぶ、ふと後ろを振り返ると傷だらけで臓器を飛び出させた化け物が此方を追い掛けて居た。



少女の右手に握られた物は絆創膏……何でこんな事になってしまったのだろうか。



遡る事2時間前、俺はとあるゲームをして居た。



VRMMOのアンデットゲーム、ゾンビが蔓延る世界で何日間生き残れるかと言うサバイバルゲームなのだが画期的なのが仮想現実でこのゲームを出来ると言う事だった。



マップは全世界、飛行機や船などを使えば何処でも行く事が出来、本当の意味でオープンワールドなゲームだった。



ゲームスタートすると先ずランダムで役職が選ばれる、市民、警官、軍人、医者、犯罪者の5パターン、この中でも特に当たりなのが軍人だった。



初期からライフルと拳銃、手榴弾を所持しており、サバイバル成功の確率もグッと上がる一番の当たりキャラだった。



一方一番の外れは医者、医療の知識が与えられるが所持アイテムは絆創膏のみ、市民ですらバールを持っている故一人でのサバイバル成功確率はゼロに等しかった。



それに加えて治療に必要な器具がある病院やドラッグストアなどはゾンビが特に密集している……それ故にアイテムが揃うまでは邪魔者扱いだった。



基本的にこのゲームは他のプレイヤーと協力するも良し、敵対するも良しの自由度が高いゲーム、サバイバルの日数も特に決まっておらず終わりのないゲームだった。



そして一人の少年がそのアンデットゲームのβテストに合格し、プレイしようとして居た。



「やべー……マジで楽しみだわ」



一人言を呟き大きめの顔が覆い尽くされる程のヘルメットを片手にベットへ寝転がる、少年の名前は五十嵐 玲、学校の終業式を休んでまでβテストをプレイする程のゲーム好きだった。



ふと時計を見ると12時手前を指している、アンデットゲームの制作会社から渡されたヘルメットの様な機械を頭に装着して手元に置いてあった電源を付けると機械が稼働する音が聞こえた。



そっと目を閉じると一瞬にして意識が飛ぶ、次の瞬間には真っ暗な場所に立って居た。



「此処が……仮想現実?」



手を動かしジャンプして見る、まるで現実の身体のように動いて居た。



『性別を選択して下さい』



「うぇ!?誰?!」



真っ暗な空間に突然響き渡る声に驚き辺りを見回す、女性の様な機械的な声が聞こえた数秒後に女性と男性のマークが描かれた二択の選択肢が目の前に出現した。



玲は男性マークを押そうと手を近づける、だが寸での所で止めた。



恐らくこれはアバターの性別選択画面……どうせなら自分とは別の性別が良かった。



とは言え何はこのゲームを友達も買いやる筈……β版のアバターを製品版に引き継げると言う情報を加味すれば男性の方が良いのだろうが自分の中の変態な部分が女性を選べと囁いて居た。



女性を選べば自分が満足できる、だがその代わり友達は引くだろう……逆に男性を選べば経験値的な面でも他と差を付ける事が出来る……だが自分の気持ちを無下にする事になる……過去最高に悩んで居た。



「くっそ……こんなのを決めろだなんて酷だよ……」



カーソルを女性に合わせつつも選ばずに膝をつく、難し過ぎる決断だった。



童貞の自分からすれば女性の身体は神秘……だがそんな邪な思いで選んでいいものなのだろうか。



『時間切れです、性別を決定致しました』



「え?」



機械的な声に顔を上げ、ふと端っこの方に目をやると時間がゼロになって居た。



『アバターの年齢、見た目はランダムになります、アバターがゲームにおいて不利になる事はありません』



そうナビゲーターが言うと体が光に包まれる、様々な所に異変が起きて居た。



無かった胸が膨らみだし括れが出来る、そして股間に違和感を感じた。



「こ、これが女性の身体……」



童貞感丸出しで自身のアバターを見回す、声も少し高くなっていた。



「なんか……おかしい様な」



決定的な証拠としてズボンの中身を確認しようと手を近づけるが謎の力により手を近づける事が出来なかった。



『邪な気持ちを感知すると強制的に動きを制限させて居ただきます』



「そんな対策もしてるのかよ」



自身の見た目が分からないと言う事に少しモヤモヤした気持ちを抱えながらも運営の対策に感心する、すると次の瞬間辺りが眩しくなった。



「眩しっ……」



思わず目を瞑り下を向く、するとナビゲーションの声が聞こえて来た。



『これより体験版のプレイを開始します、ユーザー名をお答え下さい』



「レイ」



ナビゲーションの声に答えるとピコンっと言う音がする、そして光が弱まると玲は目を開いた。



目の前にはレイと頭上にカタカナで表示された自分が鏡に映って居た、その姿を見て言葉が出てこなかった。



緋色の美しい肩まで伸びたセミロングの髪に緋色の瞳、中々……いや、かなり可愛い女性が目の前に立って居た。



一目惚れ必至の見た目……アバターは大当たりの様だった。



『それではこれよりアンデットゲームを開始致します』



そうナビゲーターが告げると辺りが暗転する、やっと始まる様子だった。



ゾンビ好きの自分としては最高のゲーム、アバターも最高……後は役職だけだった。



高まる心を抑えながら玲は目を閉じるとゲームが始まるその瞬間を待った。

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