第2話 縁をつなぐ番人
灰色の雲、ぽつぽつお空が泣いています。
「あー、今日も雨、昨日も雨。毎日、雨で嫌になっちゃう」
そう、おしゃれなラズがため息をつきます。
「そんなに雨が嫌いなのかい?」
問いかけてきたのは小柄なリンでした。
「だって、濡れちゃうじゃない。それに、身体に水滴がついちゃうと、がっかりしちゃう。雨でうれしいのなんてレラか、あそこでご機嫌なタントだけでしょ?」
そう言いながら、話題に上がったレラを見ると彼女はウキウキしながら窓の外を眺めていました。
「確かにレラはうれしいだろうね。なんたって、彼女は雨が降ってこそその美しさを発揮する」
「そーね。彼女は晴れていたら、逆にガッカリよね」
はぁっと再びため息をつくと、離れた場所にいるタントが会話に加わりました。
「ボクがご機嫌ってなんでわかったんだい?」
彼はそういいながらキラキラした笑顔で微笑みます。
それに、ラズとリンは顔を見合わせると困った顔をしました。
「分かってないようよ」
「まぁ、分からないだろうね」
キラキラ光るタントを見ながら、2人はクスリッと笑います。
「まったく、アナタほど陽気な性格なら世界さえも明るく照らせるわよ」
「本当かい!?」
タントはうれしそうに輝くと、身にまとっている派手な服をひらひらと躍らせました。
「やっぱり、世の中が明るい方がボクはうれしいからね」
「そりゃそうだ。それと同じで、外が晴れている方が私はうれしいわよ」
「どうして?雨だって素敵な天気じゃないか」
「アナタにはね。雨だったら部屋が暗いから、昼間でもアナタは輝ける。だけど、私はそうじゃない。私は雨が苦手なの」
「あれ?前に温かい飲み物も苦手って言ってなかったっけ?」
「そうよ、私は雨と温かい飲み物が苦手なの」
そんな掛け合いを見つめながら、リンはふぅと息をつきました。
「まぁまぁ。誰にでも、苦手なモノと得意なモノがあるじゃないか。それがあるというのはいいことだよ。ワタシのように、どちらもないよりは何倍もいい」
そう告げると、言い合いをしていた2人はピタリッと止まり、リンを見つめます。
「どちらもない?」
「おいおい、何を言っているんだ?リンじーさん」
「え?」
2人は信じられないと驚いた後、リンに近付きました。
「アナタには誰にも真似できない素敵な特技があるでしょ?」
「ワタシに?」
一体、何のことか分からない。
そう、リンは首をかしげます。
「気付いてないの?アナタは人と人とをつなぐのが得意でしょ?」
「つなぐ?」
「そうよ、アナタは幸せをつなぐ人。縁の番人」
「まぁ、それと同時に不幸が訪れることもあるけどね」
「タント!アナタはちょっと黙ってなさい」
「ご、ごめん」
ラズに怒られたタントはお口にチャックをすると、そのままじっと固まりました。
「縁の番人・・・か」
独り言のように呟くリン。
その姿に、ラズは優しく微笑むとリンに語りかけました。
「そうよ。確かに、アナタが結んだ後に離れてしまう縁もあるかもしれない。だけどね、アナタが与えてくれる愛の形は人の絆を強くする。それって本当に素敵なことだと思うわ」
だから、それがアナタにとっての“得意なモノ”よ。
そんな会話をしている矢先、奥の扉が開きました。
どうやら、この店の主人がどこかへ買い物にいくようです。
「さぁて、キミの出番だよ」
そう、窓の近くにいたレラに声をかけると、レラは嬉しそうに笑います。その主人の手の中には、今話しかけていた傘が一つ。
「それと、雨に濡れるのがイヤかもしれないが付き合ってくれ」
カタリッと棚の上にあるアンティーク調のメガネを取ると、主人はゆっくりと自分にかけます。
その横ではガラス細工が施されたライトスタンドが光輝いていました。
「おっと、出かける間は消しとかないとね」
カチッと電気を消すと、たちまち店の中は薄暗くなります。
「さぁ、出発・・・っと、大切なものを忘れていた」
スタンドの近く、シンプルな指輪を手に取ると主人はふわりと微笑みました。
「今日は結婚記念日なんだ。キミが、私と妻を結び付けてくれた大切な日なんだよ」
キラリッと手の中で光った指輪。
作業中は外す癖がついてしまった指輪は今でも大切な宝物。
その指輪に「ありがとうね」と告げる主人は、雨の中、奥様へのプレゼントを買いに出かけました。
*
アンティーク調のメガネ:ラズ
傘:レラ
ライトスタンド:タント
シンプルな指輪:リン
ふしぎ堂のふしぎな住人 @9zuharu
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