ふしぎ堂のふしぎな住人

@9zuharu

第1話 時と平和の番人

ある日、時の旅人が尋ねました。


「例えば、空から星ではなく飴…キャンディがふってきて。それはなんでも願いをかなえてくれる不思議な飴だと言ったら君はどうする?」


チュロは想像してみました。

空からキャンディが降ってくる。それはなんと素敵な光景でしょう。


それに彼は答えます。


「そんなの、貧しい人を幸せにしてって願うよ」


迷いのない真っ直ぐな答え。それに時の旅人は微笑みました。


「そう、君はやさしいね」

「え?」


チュロは意味がわからないと首を傾げます。

自分が言った言葉は普通のことではないのでしょうか。


「どういうこと?」


すると時の旅人、ロックは静かに答えました。


「だって、もしそんなキャンディがあったら、人々はきっと取り合いをしてしまう」

「え!?」


信じられないとチュロは驚いて跳ね上がります。

彼、チュロは平和の番人でした。誰よりも平和を愛していました。


「どうして取り合いになるの?」


だからこそ、その意味が分かりません。

ロックは遠いお空を眺めながら、ゆっくり答えました。


「ボクは数々の争いを見てきたんだ。・・・だから、わかるよ」


その目は遠くを見つめます。


「人はね、願いの強い生き物だから、キャンディの取り合いになるんだよ」


それこそ、お金持ちになりたい

有名になりたい

他人(ひと)より、もっと幸せになりたい


そんな願いのために我先にと自分勝手な行動を起こすんだ。


「そして、人を傷つける」

「人を?」

「そう、戦争になるんだよ」


どの時代も、自分が自分がと自分のことばかりを考える人が多かった。

他人のことなど考えない。

自分が一番だった。

その感情が争いを生み、憎しみを生み、負の連鎖を作り続けた。


「もちろん、すべての人がそうだとは限らない。中にはチュロのように他人を一番に考える人もいる」


でもね、チュロのような考えの人なんて本当に少ないんだ。

だからこそ、戦争は終わらない。今もどこかの国で、憎しみが悲しみを生み続けている。


そして、どの時代でも人はこう願うんだ。


“次の時代こそ今より幸せでありますように”…って


「そんな・・・それじゃロックは何を願うの?」

「ん?ボク?・・・ボクは、そうだな」


ロックは少しだけ考えたあと、悲しいお顔で答えました。


“もうこれ以上、時代(とき)が悲しい時間を刻みませんように”


奥から、この店の主人がやってきます。

様々な雑貨や機械に「おはよう」と告げながら。

そして、壁にかかっている存在の前にいくと、何かを悟ったように儚く笑いました。


そこには、古いハト時計がかかってありました。


「おはよう。何かあったかい?」


主人はそのハト時計を手に取ると布で拭います。

チュロ(平和の番人)とロック(時の旅人)は2人でひとつでしたが常に表に出ているロックはチュロが見ていない時代の流れを見続けてきたのでした。


ここは、小さな雑貨店「ふしぎ堂」。


今日も雑貨達による静かな会話が繰り広げられています。


*****

ハト:チュロ

ロック:時計

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