負け犬の僕

オレガ

負け犬の僕

 朝の陽ざしが入るわけでもなく、目覚まし時計が鳴るわけでもなく、スマホの着信があるわけもなく、僕は目を覚ました。


 目を開けることもなく布団の上で何もせず寝ていると、外では子供達の笑い声や小鳥のさえずりりが聞こえた。

 楽しそうな声を聞くとこっちまで楽しくなってくる。

 ほんの少し前まではそうだった。

 でも今は違う。

 全ての音が僕を嘲笑あざわらっているように聞こえる。

 うるさいと思い、窓を開けて叫びたくなった。

 

 でもそんな非常識なことが僕にできるわけもなく、布団の中に潜って早くいけと叫ぶだけ。


 俺って負け犬だよな?


 違う違う、負け犬負け犬と自問自答を繰り替ええして今日も布団の上で目を開ける。

 布団から出るわけでもなくスマホを確認する。

 時間は朝9時を回っていた。

 画面の左上を見ると、いつものようにメッセージのスタンプが2件来ている。

 おはようと行ってきますのスタンプ。

 時間を確認して2時間前に来ているのを確認して少し涙を流す。

 その後、落ち着いたら行ってらっしゃいと打つ。


 「俺は一体何様なんだ。」 


 申し訳ないと思いながらも、僕は二度寝をした。


 ピンポーン♪


 僕は目を覚ました。

 ・・・。

 沈黙の時間が続く。


 「佐伯さえきさん?

  居たら返事下さい。」


 ・・・。


 聞こえてはいるが、ドアを開けるも声を出すのもしたくなかった。

 

 「怒っていませんから少し話しませんか?」


 ・・・。


 数分後音は消えた。

 目を開けて時計を確認すると、昼の12時だった。


 ほっておいてくれよと思いながらも、僕は布団から出た。

 

 今日のミッションはこれだ。


 1、2日前に借りたレンタルビデオを返すこと。

 2、昨日食べたコンビニのゴミを捨てること。

 3、5時間ネットカフェに行ってアニメを見ること。

 4、彼女と電話すること。


 よし、動こう!


 僕はサングラスとマスクをして家を出た。

 鍵を迅速じんそくに閉め、ドアが開かないことを確認して車へと急いだ。

 車に入って、エンジンをかけて、カーナビに目的地を入力して、周りを確認して、ブレーキに足をかけて、ドライブに変えて、もう一度周りを確認して出発した。


6時間後、僕は家に着いた。

出発した時とは違い、気分がとても晴れやかだった。


 風呂に入って少しゆっくりしていると、スマホの画面が光出して音をかもし出した。

 僕は直ぐ様浴室を出て、タオルで全身を拭いて電話を出た。


 「しもしも~?」


 「もしもし」


 「おつかれ」×2


 「俺はお疲れじゃないって!」


 「そう?」


 「今日1日どうでしたか?」


 「今日はね・・・、ってな感じ。」

 

 「へぇ。」


 「そういうこと。」


 「ところでさ!」


 「うん!」


 僕達はそこからいつものように未来の話をたっぷりおしゃべりした。


 「ふー、もうこんな時間だね。」


 「だねー。」


 「もう寝る?

  明日も仕事でしょ?」


 「私は大丈夫だよ?」

 

 「了解」


 「あ、そういえばあれはどうなったの!?」


 「なんのこと?」


 「履歴書書いたー?」


 「やべっ。」


 「もう、明日ちゃんと書いてね。」


 「ごめん。」


 「よろしい。

  あ~~。」


 「眠い?」


 「眠くないよ。」


 「寝よ」


 「うん」


 「おやすみ」×2


 スマホを耳から放して通話をオフにした。

 さっきまで笑顔であふれていた空間がどんよりとさみしい空間へと戻っていく。

 玄関の鍵が閉まっていることを確認して、布団に入り電気を消して寝ることにした。

 時間を確認すると、夜の11時だった。

 申し訳ないと思いながらも目を閉じた。


 

 「・・・、ファ!」


 何の前触まえぶれもなく起きてしまった。

 目を開けて右にあるカーテンの隙間すきまを見ても、まだ朝の木洩こもれ日こも〈び〉すら出ていなかった。

 スマホを確認すると、朝の2時だった。


 「マジかよ・・・。」


 僕は神様を信じていないが、幽霊はこの世にいるものだと思っている。

 僕の記憶では、この時間が一番危ないと知っている。

 でも、無性にトイレに行きたかった。

 これは幽霊の罠と繰り返し頭で暗唱あんしょうしたが、睡眠欲よりも生理現象が上回っていた。


 僕は無心でスマホを手に取り、部屋の電気を全て付け、玄関の鍵が掛かっていることを確認して、冷静にトイレへと駆け込んだ。


 事が終わり、ドアを開けようとドアノブに手が触れた瞬間、異様な気配がして全身に寒気が走った。

 僕がドアノブから手を離すと、トイレのドアを2回軽く何かがノックしてきた。

 僕は心臓の鼓動が早くなっていくのを感じながら、手を口に当てて音を無くした。

 数秒後、鍵を掛けてないことに気づき鍵を掛けようとしたら、ドアがゆっくりと音をたてながら開いた。


 ドア先を見ると、髪の毛が異様に長い一人の白いワンピースの女性が立っていた。

 僕は初めて心臓が口から出そうになった。

 そして、そのまま意識を失った。



 朝の陽ざしが入るわけでもなく、目覚まし時計が鳴るわけでもなく、携帯の着信があるわけもなく、僕は目を覚ました。


 目を開けることもなく布団の上で何もせず寝ていると、外では子供達の笑い声や小鳥のさえずりが聞こえた。


 何だまた朝か。

 昨日のは夢だったんだな。 

 

 何故か体の節々ふしぶしが痛かった。

 昨日の夢のせいだと思い安心していると、昨日のことを思い出してそっと股間に手が伸びた。


 「良かったー。」


 「何が良かったの?」


 「え?」


 横を見ると夢で見た髪の長い白いワンピースの女性が布団の中にいた。


 「ぎゃー!!」×2


 周りの子供と小鳥が静かになるくらい僕が大声で叫ぶと、女性も負けじと大声で叫んだ。


 「おはようしゅん君」


 「え!?」


 僕は心臓が破裂しそうだったが、徐々に収まっていた。


 「驚かせてごめんね。

  寂しくなってきちゃった。」


 「ええ!!!

  まじでびっくりした!

  そうだ、仕事はどうしたの!?」


 「実は休みなんだよねー。

  ほんとは朝来ようと思ったんだけど、我慢できなくなっちゃったから夜行こうと思ったの。

 でも、普通に来てもつまんないと思ったから、ちょっとしたドッキリアイテムを買って驚かせようと思ったわけ。

 そしたら、俊君丁度電気付けたからこれはトイレだなって思って、俊君から貰った合鍵で入って驚かせようとしたら、想像以上に驚いて気絶しちゃうからこっちもビックリしたよ。


 「そういうことか」


 「そういうこと」

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負け犬の僕 オレガ @saus

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