第57話 和久田の願い、雪子の想い

さて、俺達は早速と.....海原駅の雪子さんのお墓の後ろにやって来ていた。

横には和久田も居る。

イラつきながら立っているがコイツについては灯篭さんが呼んでくれたのだ。

俺と数人は土地所有者の許可を貰って協力してシャベルで地面を掘る。


「.....これか?」


「これっぽいね」


掘り進めるとそこには缶が有った。

銀色に光る無地の缶だ。

だけど.....かなり錆びている。

これの事を雪子さんは言っていたのだろうか。

俺はその様に思いながら眉を顰めつつ。


数人と共に中を開けた。

そこには.....ネックレスが入っている。

とは言っても子供のネックレスだが。

それから手紙、車とかのオモチャ。

そんな感じで入っていたが.....これの事か?


でもこれ以外には無いよな?

だったらこれだが。

その様に思っていると.....和久田が衝撃を受けた様な目をしていた。

何だコイツ?

思いながら居ると、和久田が古いそのネックレスを手に取った。


「.....完全に捨てていたものと思っていたんだが.....これは雪子に贈った一部だ.....な」


「え?」


俺達はその様に?を浮かべて思いながら。

静かに顔を見合わせる。

その中で皆穂が和久田に向いた。

それから聞く。


「.....アンタが贈ったの?」


「.....」


黙り込む和久田。

答えようが無いという感じだ。

何だよ。

和久田って.....雪子さんの結婚を喜んでいたんじゃ無いか。

嫁に入った事を.....。


「.....まさか.....貴方が?」


俺は複雑な面持ちで和久田を見ていると。

灯篭さんが.....見開いて言う。

それからポツリと和久田が呟いた。

その言葉を、だ。


「.....お前に取られるのは嫌だった。あくまで私は.....祝福なんかしたく無かったんだ。だけど本当に.....雪子が幸せそうで.....何も言えなかった」


「.....」


「.....」


雪子は.....私の事なんかどうでも良いと思っていたんだと思っていたがな。

しかもこれは.....使い古されている.....。

と涙を浮かべた、和久田。

俺は.....手紙を拾った。


「.....数人。読んでみるか」


「.....うん」


手紙は二回目だな。

その様に考えながら俺は.....数人が手紙を広げるのを待つ。

そして数人は手紙を読み始めた。


(和久田お兄様。私は.....祝福されていないものと思っていました。だけど.....こんな素敵な嫁入り道具のネックレスなどを贈ってくれて。しかも.....数人の為にオモチャまで。和久田お兄様はきっと私達を大切にしたかったのでしょう。対立はしていましたが.....です。そんな和久田お兄様の事が好きです。だからもし家の事で揉めても.....私を思い出して下さい)


「.....和久田.....」


「.....私が間違っていたのか。無理矢理に.....家を回収しようなどとは。雪子の為と思っていたが.....それがマイナスになっていたのか。ようやっと気が付いたな.....」


数人の呟きにそう反応した和久田。

それからひっそりと涙を流し始めた。

古びた雪子さんのネックレスを胸に抱えて、だ。

そして.....数分が経って顔を上げた。

それから灯篭さんと数人に頭を和久田は下げる。


「.....今回は雪子の意思を尊重して諦める。ただ何か有ったら直ぐに私は家の回収を優先するからな」


「.....はい」


「.....」


数人、灯篭さんを見て和久田はその場を後にしようとした。

その際に俺を見てくる。

そして.....俺に一言、呟いた。


「.....君は強いな。まるで雪子の分身を見ている様だ」


「.....そう言って柔和にしようとしても。俺はアンタをまだ信用した訳じゃ無い。だけどもう争っても仕方が無いからな」


その様に告げて袖を捲っているのを直す。

少しだけ柔和になった和久田はそのまま去って行く。

その際に.....一言だけ聞こえた気がした。


「.....私も君達の様に仲間に囲まれていたなら.....」


と、だ。

だけど俺は.....あまり聞こえなかったので返事は保留にした。

そして.....数人と共に土を戻しながら。

雪子さんのお墓を見つめ、終わりました、と報告した。

取り敢えず、この争いは終結した、とも。



「.....吉」


オレンジ色に染まる車窓。

帰りの電車の中でそう数人が聞いてきた。

灯篭さん、ノア、皆穂は寝ている。

俺は、何だ?、と柔和に接する。

数人は俺をジッと見ながら.....話した。


「何で吉はそんなに強いのかな」


「.....俺か?俺は強く無い。それに全部が奇跡だよ。乗り越えられたのとかが、だ」


「.....そうかな。僕にはそう見えないけど」


「.....いや、きっとそうだ。俺は.....数人。お前が思っている以上に.....強く無い」


でもヒーローになった気分では居たいな。

親父がそうだったから。

俺は親父に憧れているから。

だからヒーローとは呼ばれたい。


「.....君は十分にヒーローだよ。吉」


「お前は俺の心でも読めんのか」


「.....やっぱりか。僕は君の心がそう考えているんじゃ無いかって思ったんだ」


それから数人は笑みを見せた。

俺は見開きながら.....雪子さん、灯篭さん、数人の家族写真を思い出す。

そして.....数人に言う。


「お前さ、やっぱり雪子さんの子供だな。笑った姿が似ている」


「.....!?.....そ、そうかな」


「ああ。やっぱり子供には親の遺伝子が遺伝するんだなって思ったよ」


手をワタワタさせて恥ずかしがる、数人。

その姿も本当に.....雪子さんに似ているなって思う。

俺は.....静かに車窓から外を見た。


「.....数人。お前と友人になれて幸せだよ。俺」


「.....僕も吉に出会えて幸せだね。.....そしてこうして助けられているから。君は僕のヒーローだ」


「.....ヒーローか。有難うな」


間も無く電車は俺達が住んでいる町の駅に着く。

そうしたらまた日常が戻る。

だけど俺達の絆は絶対に戻らない。

そして.....進化する。

それを思いながら.....俺は数人を見つめる。


「.....綺麗だね海が」


「.....ああ」


「正直言って、僕は外の景色がこれほど素晴らしいとは思わなかったよ。引き篭もっていた時はそうは思わなかったからね」


「.....そうだな」


俺も引き篭もっている時はそう思った。

何故.....外の景色が綺麗って人間は思うんだろうと。

そんな感じで悪態を吐いていた時もあった。

でも俺は.....周りに支えられていて今に至っている。

これから迷惑を掛けていくだろうな。


「.....数人」


「.....?.....何かな。吉」


「.....有難う」


見開く数人。

笑みを浮かべた。

そして俺達は駅に着いてまた新しい.....日の始まりだ。

俺は思いながら一歩を踏み出した。

何が起こるか分からない、この日常を.....噛み締めながら。

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