第56話 最後の願い

生卵を和久田に打つける作戦は皆んなで考えた。

しかしながらそんなクソみたいな事でも効果はかなり有ったと思う。

何故かと言われたら和久田共は事実、帰って行ったからだ。


俺は取り敢えず良かったと思いながら廊下とか壁に張り付いている生卵を片した。

俺達は現在、リビングで作戦会議を広げている。

数人と灯篭さんを見た。


「.....正直.....これで諦めたとは思えない」


戸を閉めて暗い中で電気を点けている中。

数人はその様にポツリと呟いた。

そして真正面を見据える。


その様子は決意を新たにした様な姿に見える。

俺はその様子を見ながら頷く。

そして言葉を発した。


「.....そうだな。諦めてないと思う。だからまだ対策を立てる必要が有ると思う」


「.....どういう対策が良いかな」


ノアが聞いてきた。

俺はそんなノアの言葉に顎に手を添えて答える。

考えてはみた.....だが素人の考えだが。


「やっぱり布陣を頑丈に固めた方が良いだろうな。この家を乗っ取るのを本気で諦めさせるぐらいに、だ」


「.....だとするなら.....どうしようか」


皆穂の言葉にそうだな.....と俺は考える。

取り敢えずは相手を傷付けるのは無しでいこう。

そりゃ対策を取っていて傷付いたのなら話が変わるけど。


どう撤退させるか、だな。

やっぱり話し合うのが一番かな、とも思ったりする。

そんな中、灯篭さんが俺達を見てきた。

不安そうな顔をしている。


「皆さん.....本当に良いのですか?こんな危険な目に.....すいません.....一個人の言葉ですが」


「俺達は数人の友人でも有りますからね」


「私達は知り合いですから」


そんな俺達のそれぞれの言葉に見開く、灯篭さん。

それから.....数人を静かに見た。

少しだが笑みを溢している。

良い友人を持ったな、という感じで見ていた。

すると数人が恥ずかしいのかこっちを見てくる。


「.....吉」


「.....何だ?数人」


「何にせよ今の状況は非常に危険な状況だと思う。だから.....吉達が危険な目に遭ったら吉達を逃すのを考えるよ」


数人は.....控えめにその様に言う。

俺はそんな数人を見ながら、頷いた。

心の中でだろうけど数人はホッとした様に胸に手を添える。

だけどな、と俺は言葉を発する。


「お前と灯篭さんが危険になりそうだったらそっちも逃すからな」


「.....えっと.....それじゃ意味無いんだけど.....」


目をパチクリする、数人。

当たり前の話だ。

数人が危険な目に遭ったら俺達が何とかしないと。


「分かる。でもなそれだけお前と灯篭さんが大切なんだ。分かるか」


「.....そうなんだね.....吉.....本当に君は.....」


数人は少しだけ何かを思った様に前を見つめる。

俺は?を浮かべて数人を見る。

それから直ぐにハッとして、いや何でも無い、と数人は首を振る。

その様子に首を傾げていると数人はゆっくりと.....頭を下げた。


「でも.....ごめんね。本当に有難う。それからこんな目に遭わせてごめんね」


「.....問題は無いさ。俺も.....腹立たしいしな」


「.....そう吉が言うなら間違いじゃ無いと思う。だから僕も戦うよ」


ただ俺達の間には結束が有った。

少しだけ控えめな笑みを浮かべる数人を見ながら。

思う。


その様に考えながらみんなに向く。

取り敢えず、明日と明後日.....うん、と考えていると。

いきなり側に有った電話機に電話が掛かってきた。


プルルルル


「.....この番号.....」


立ち上がって電話を見ながら灯篭さんがハッとした様に呟いて。

電話の受話器を震えながら握る。

そして、もしもし、と話す。

すると思いっきり怒号が聞こえてきた。


『貴様ら.....覚えておけ。この借りは絶対に返すからな!その家は雪子の家だ!返してもらうからな!』


「.....」


声に青ざめながら圧倒される、灯篭さん。

俺はその様子を見兼ねて椅子から立ち上がる。

皆んなが静止する中で.....受話器を渡す様に求めた。

そして言葉を発する。


「.....灯篭さん」


「だ、だが.....君が出たところで.....」


「.....大丈夫です。考えが有りますから」


考え?とオドオドする灯篭さんから受話器を受け取った。

それから.....息を吸い込んでそのまま言葉を発する。

受話器を握り締めた。

怒りを抑える為にやっている。


「もしもし」


『.....誰かね。君は』


「俺は伊藤吉です。数人の友人ですが」


『.....君.....まさか.....』


と、半ギレの様な感じで話す、和久田。

俺は率直な願いを込めて言った。

その気持ちを、だ。

左手を強く握り締めて拳を作る。


「もう止めませんか。この争いごと。俺は.....もう争いたく無いです」


『何を言っているのかね君は。攻撃をしてきたのはそっちだが。それに止めないしその家を明け渡してもらうまでは此方もそれなりに手段を取らせてもらう』


やはり.....駄目なのか?

この怒り狂った奴に説得なんて。

俺は考えつつ、目の前の雪子さんと数人と灯篭さんの写真を見ながら.....眉を顰めて真剣な顔をした。

それから.....話してみる。


「.....アンタは雪子さんの想いを踏みにじっているな」


『.....は?』


素っ頓狂な声がした。

ああ、そうだ。

コイツは絶対に大切な事に気が付いてない。

雪子さんが残したもの、を、だ。

俺はその事を考えながら伝える。


「アンタは雪子さんの遺した大切な物を踏みにじっているんだぞ。それが分からないのか」


『.....雪子が遺したもの?』


「雪子さんは大切な物をアンタに遺した。だけどアンタは全てを無いものにしているんだ。雪子さんが遺したもの。それはきっと思い出だ」


『.....馬鹿らしい。私をそれで止めようと思ったら大間違いだがね?何も分からない君は何様かね』


さっさと灯篭さんに変わって欲しい。

と言う、和久田。

俺は駄目か、と思いながら目の前で柔和になって首を振る灯篭さんに受話器を戻そうとする。


そして.....目の前の写真の奥に何か有るのに気が付いた。

俺は?を浮かべて数人に向く。

受話器を渡しながら、だ。


「数人。目の前のあの家族写真、外して良いか」


「.....え?うん。大丈夫だけど.....」


「すまん」


俺は家族写真をゆっくり外す。

そして.....家族写真から出ている破片を引っ張った。

その瞬間、その部分が破れ封筒が出てきて俺は見開きながら見る。

何だこれ?


「.....何それ?吉さん」


「.....これは.....なんだ?」


皆穂が?を浮かべながら聞いてくる。

それを言われて答えれるかと言われたら曖昧だが、封筒の様だ。

所謂、縦の封筒。


しかしながら消印も無くかなり....古ぼけている。

何だこれ.....こんな物が何故家族写真の間に?

思いながら落ちていたそれを拾って数人に直ぐに聞く。


「.....これに見覚え有るか?数人」


「.....無いね.....何だろう.....」


言われ、俺は裏表を確認する。

すると.....いつの間にか話を終えていたのだろう。

受話器を置きながら灯篭さんが震えて言った。


それは雪子の.....と、だ。

俺は皆んなは、え?!、と驚愕する。

その驚愕の中でその封筒を見る。

まさか.....?


「.....数人、開けてみるか?」


「.....そうだね.....僕が開けるよ.....」


数人が食いつく様に心臓を抑える様にしながら。

ボロボロの封筒をゆっくりと開けていく。

俺達はその様子を見守る。


中には白い、茶色いシミが若干に有る、便箋が3枚入っていた。

灯篭さんも真剣な顔で様子を見守っている。

数人は直ぐに広げながら.....見開いた。

これって、と、言う。


「.....この家の事か?」


数人は頷く。

何故このタイミングで?

しかも中には和久田に伝えてほしいという文章が綴られている。

何故この家族写真の間に.....?

と思っていると.....灯篭さんが溜息混じりに苦笑した。


「.....雪子らしい事をしてます。雪子は.....そういうのを後から遺す人だったんです」


「.....じゃあ、これって?」


「雪子でしょう。最後のプレゼントなんだと思います。.....数人。何が書いてある?」


「.....僕達に宛てて、そして.....和久田達に宛てて。書かれているね」


雪子らしい、と灯篭さんは涙を浮かべた。

それを袖で拭う姿を見ながら。

数人の横から文章を読む。


(数人、灯篭。私がこの手紙を遺した頃には多分、色々と問題が起こっていると思います。恐らくですが私の兄がこの家を返して欲しいなどと言ってきているでしょう。私は白石家から逃げてきて灯篭という素晴らしい人に出会い結婚して.....病に倒れた後も支えてくれて。余命宣告がされた時には泣いてくれて。私は本当に幸せ者だと思います。和久田お兄様はきっと言う事を効かないと思います。その時は.....生前に決めた私が眠る筈のあのお墓の後ろを掘って下さい。そこに和久田お兄様を説得する物を埋めています。この事はお墓の管理者の方には言わないで下さいね。私が白石財閥から逃げた時は不幸だと思ってました。でもそれは違った。人生は彩を得る事が出来るという事を愛する灯篭から、愛する数人から教わった。だから私が.....亡くなっても泣かないで下さいね。私は何時も貴方方の心に生きています。このまま死ぬのは本当に悲しいですが、空は何時も有る。あの空が有る限りは私は貴方方を見守れる。そう思っています。でも和久田お兄様を止めるのは難しいと思います。なので、私が遺した物を和久田お兄様に見せてあげて下さい。愛する数人、灯篭。恨みがましいかも知れませんが、和久田お兄様は良い人なのです。これは私からの最後のお願いです。和久田お兄様を宜しくお願いします)


「.....こんな事を抱えているなんてな」


「.....お墓の後ろ.....」


和久田を救って欲しい。

その最後の願いが.....強く滲み出ていた。

俺は.....数人は。

その書かれていた言葉に.....複雑な想いを馳せながら手紙を見る。


取り敢えず.....行くしか無いのかも知れない。

雪子さんが眠っているお墓の.....裏に、だ。

その場所に.....秘密が.....。

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