第55話 生卵作戦
生家を大切に持つ心から大切な友人が理不尽に追い出されようとしている。
親戚同士の争い故に関わり合いは持てないと俺は言ったが、俺の義妹、皆穂はそれを否定した。
そして.....俺に静かに目で訴えかけてきたのだ。
俺は.....そんな皆穂を見ながら、ノアを見ながら。
知り合いだから、友人だから。
絶対にそんな事はさせたく無い、と、だ。
俺は.....その事に頷いてしまった。
俺みたいなのと、俺の義妹がそんな否定的な事をしても良いのだろうか、と思ってしまうが皆穂のその根性に負けてしまった。
そして作戦を立てる。
作戦とは、所謂、強制退去になっても籠城するという作戦だ。
と言うか.....これぐらいしかもう手が無い。
何故なら俺達は金を持っている訳でも権力を持っている訳でも無い。
3日ぐらい籠城すれば多分諦めるだろと思いながら.....皆穂とノアと俺で考え食料を大量に買い込み、数人の生家に来た。
因みに連絡は既にしてある。
俺は複雑な思いを抱えたまま数人の生家のインターフォンを押した。
すると直ぐに返事が。
『誰』
「俺だ。数人」
『ああ、吉か。入って』
数人が出てくれた。
もうすっかり表になれた様に部屋から出ている。
俺はその様子に少しだけ安堵しながらそして直ぐに真剣な顔になる。
これはマジな戦いなんだと思いながら。
玄関の扉が開き、数人が出て来る。
「吉」
「よお。数人」
「.....その、ごめん」
「.....何がだ」
余計な事に付き合わせちゃって、後ろの方達にも。
と、数人はこもごもしながら言う。
俺は.....そんな数人に首を振った。
それから話す。
「これを決めたのは皆穂だ」
「.....え?」
「.....皆穂が.....言ったんだ。数人を救いたいってな」
「.....本当に?」
そうだよ、と皆穂が少しだけ控えめな笑みで言った。
俺は.....その姿に皆穂の頭に手を添えながら。
真剣な顔をして数人を見る。
「数人。篭城の準備は整ったか」
「.....そうだね。十分に整った」
「.....これから三日程.....閉じ籠るけど.....大丈夫か」
「.....それはこっちの話だよ。大丈夫なの」
正直、由紀治さんから許可は出たが、母さんは控えめな感じだった。
何故かと言えば、危険が伴う可能性が有るから。
俺は.....母さんにゴメン、と思いながら.....数人に和かに答える。
数人は.....心配げな顔をしていた。
「.....大丈夫。数人。お前の為だからな」
「.....うん」
「そうだよ。数人さん」
「.....有難う。皆んな」
作戦が始まるのは今日の午後3時だ。
白石財閥がこの家からの強制退去を命じると思う。
それを.....越えなくてはいけない。
何が起こるか.....分からないが。
今が山場だと思う。
「.....死なない様に、病院送りにならない程度に」
「.....そうだな。病院送りとかになったらジ・エンドだな」
「.....そうだね。お兄ちゃん。気を付けよう」
白石財閥がどの様な手を使って.....この家に襲撃して来るか分からない。
だけどここは数人が生まれた場所で。
数人が育った場所だ。
だからこそ.....守らなくちゃいけない。
そして分からせなくちゃいけないのだ。
それが俺達の使命だと思う。
「入って。早く」
「おう」
「うん」
「お邪魔します」
それから俺達は数人の生家に入った。
リビングに招き入れられる。
そして.....数人が話した。
「.....お父さんは今、出来る限りの事をしている。だけど全部、恐らく無駄になると思う。だったらもう.....吉の言った篭城しか無いと思う」
「.....だな」
「.....でも.....何で此処までしてくれるの。この家ぐらい明け渡しても構わないのに」
「.....それは駄目だ」
どれだけ.....思い出がどれだけ大切なのか。
俺は数人に親父の事を話した
幼かった俺の事とか。
すると数人は.....そうなんだね。
と納得してくれた様だ。
「.....じゃあ確かに大切だね」
「.....そうだ。だから籠城するんだ」
まるで昔のアニメ映画、○日間戦争、の様な事をしているとは思う。
だけどこれは俺達の命が掛かっているかもしれないのだ。
白石財閥は恐らく犯罪も含め容赦無く攻め入って来るだろうし。
それは.....覚悟をしないといけない。
「.....お兄ちゃん。あと一時間で一五時だよ」
「.....そうだな。灯篭さんはちゃんと戻って来るよな?」
「.....うん」
よし、だとするなら.....作戦会議だな。
俺は思いながら.....みんなと話し合った。
基本的に人を傷付けない。
その様な確認を、だ。
「.....後手に回ったら終わりだ。絶対に犯罪だけは避けよう」
「.....そうだね」
「.....うん」
すると、玄関が開いて灯篭さんが食料らしき物を買い込んで帰って来た。
俺達を見ながら、やあ、と挨拶してくれる。
それに答えながら.....俺達は顎に手を添えて考える。
あと.....三十分で.....革命だ。
「本当に済まない.....変な事に巻き込んでしまって」
「.....良いんですよ。お泊まり会みたいなもんですから」
「.....そうです」
私は.....大人なのにな、と灯篭さんは呟く。
幾ら大人であっても子供に頼らないといけない日は有るのだ。
若い子が戦わなくちゃいけない日も、だ。
俺は考えながら吊り下げられている時計を見る。
既に.....門、玄関、戸など。
それは締め切ってある。
間も無く.....十五時だ。
さて、準備は整った。
と思ったその時だ。
インターフォンが鳴った。
ピンポーン
「.....来たか?」
「うん。来たと思う」
インターフォンに出る。
すると目の前には.....スーツを着た、4人ぐらいの人間と。
白石財閥の.....人間らしき奴が立っていた。
俺は.....喉を鳴らす。
こんな会話が聞こえてきた。
『.....何だこれは?留守か?』
『.....おかしいですね.....』
『.....ふむ。ならば強制的にやってしまおう。荷物を運び出せ』
『は』
それから玄関のドアが.....ガタガタ揺れる。
鍵を壊している音が聞こえる。
信じられない事をするな。
俺は数人を見る。
「.....取り敢えずは.....さっき言った様に生卵でも打つけるか」
「それは良い考えだと思うね。生卵だったら安く有るし」
「.....よし.....ふふふ.....」
何だろうか、面白くなってきやがった。
そして鍵がガチャッと音がして開いた瞬間。
暗い中でリビングから飛び出して外の光を頼りに四人のスーツ共に対して持っていた生卵を打つけた。
スーツ共は驚愕しながらスーツに打つかって汚れたのを見て俺達を見る。
それから止めようと動き出した。
「君達!」
そんな手を出してくる奴らに生卵を次々に打つける。
まさに気分爽快であった。
スーツ共の言葉は完全無視で俺は後ろの奴らに叫ぶ。
手を上げた。
「やっちまうぞ!みんな!絶対に追い返すぞ!こんな横暴が許されたら駄目だ!」
「「「おー!」」」
とにかくと追い返す為に滅茶苦茶に卵を投げる。
奥に立っていた、白石和久田達が唖然とする。
そして.....和久田が眉を顰めた様にして言葉を捻り出した。
「.....貴様ら.....」
そして制止を促すスーツ達の手を無理に払い除けて門を超えてこっちにやって来ようとしている。
俺は口角を上げて和久田に向く。
それから立ち上がって言う。
「鬼は外!今直ぐに帰れ!お前らにどうこう出来る家じゃ無いんだ!」
「貴様ら.....何を言っているのか分からないな。この家は雪子の家だ。家主の元に帰るのがおかしいとはどういう事かな。それから.....雪子の家を汚さないで頂きたいんだが.....?」
かなり激昂している。
そんな震えている和久田の言葉に数人が立ち上がった。
予想外の事に俺は驚愕する。
それから数人は握り拳を作って前を見据えて聞いた事も無い様な大きな声で話す。
「この家は.....確かに皆んなが言う様に僕達の家だ。だからどうする事は許さない!帰らないと卵を更に打つけるぞ!帰れ!」
買ってきたアクリル板で数人の前に盾を作る。
そして数人を眉を顰めて擁護した。
和久田は俺達の様子に拳から血を流すぐらいに握り締めて悪態を吐く。
それから.....スーツらの奴らを引き連れて振り返った。
「クソッタレどもが。今日は帰る。.....この事を覚えておけ。特に灯篭。貴様如きに何か出来ると思うな」
「.....」
卵の匂いがする中。
スーツ姿の奴らと和久田はそのまま帰った。
予想外の事で諦めたのだろう。
良かった.....。
「皆んな、有難うね」
灯篭さんは足が痺れた様に立ち上がりながら言った。
俺はその様子を見てから数人を見つめる。
数人は少しだけ息が荒かった。
慣れない事をしたからな。
「大丈夫か、数人?」
「かなり疲れたけど凄い楽しい」
「.....そいつは結構。ハッハッハ」
皆穂もノアもアハハと笑っていた。
灯篭さんも笑みを浮かべて笑っている。
でもそれはそうと汚くなっちまった。
片さないとな。
思いながら俺は.....玄関の先を見た。
「.....灯篭さん。.....奴らまた来ますかね?」
「.....その前に何とかね。法律関係なら任せて下さい。今日は本当に有難う。皆さん」
「えへへ、問題ないです」
楽しかったという感じでノアは笑みを溢す。
よしそれは良いけどとりま片付けるか。
でも俺もストレス発散で楽しかった。
ある意味、だ。
俺は立ち上がる。
「じゃあ片付けよう」
「そうだね、お兄ちゃん」
「うん」
その日、片しながら居たが。
和久田共は帰ってから一回も来なかった。
しかしながらまだ終わりじゃ無い。
何処までこの戦いは続くのか。
それを.....覚悟しないといけない。
思いながら.....俺は顎に手を添えた。
ゆっくり顎を撫でつつ。
考えた。
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