第十三章、後半 反撃の狼煙を上げる時

第54話 大好きだ

数人と灯篭さんが帰って。

俺達も手ぶらになった為に遊んで帰ったが。

簡単に言っちまうと心の底から遊べなかった。

数人と灯篭さんへの嫌がらせ。


そして.....家を追い出された。

それが.....少々気になっていたのだ。


白石財閥.....嫌な組織だな、とも思ってしまう。

日本の大手メーカーってそんなもんなのか?

俺達は家に帰って、皆穂に知らせた。


皆穂は呆れた顔になっていて。

そしてそいつら全員をぶっ殺すとか言い出した。

俺は流石にそれはマズいと言い聞かせる。

そして.....今に至った。


自室で.....数人とメッセージのやり取りをしていた。

数人は灯篭さんと一緒に取り敢えずは仮の住まいを見つけた様だ。

俺は.....眉を顰めて.....その文章を読む。

何か手助けは要るか、とも聞いた。


しかし数人は必要無い、と言った。

俺は.....その言葉を読んで.....ハァと溜息を吐く。

そして.....起き上がった。

するとドアがノックされ.....。


「お兄ちゃん」


「.....皆穂か。どうした」


数秒の沈黙。

その数秒がかなり長く感じた。

それから皆穂は俺に対してドア越しに言う。

怒っている声で、だ。


「.....正直言って、こんな横暴.....絶対に許せないんだけど。数人さんが可哀想」


「.....お前がキレても仕方が無いだろ。これは.....数人の親族同士の争いだから」


「.....でもやっぱり許せない。無理矢理だし」


「.....」


人を思いやる心。

それが欠落した完璧人間が.....そう言う。

俺は.....成長したな、皆穂、と思いながら.....立ち上がる。

そしてドアを開けた。

皆穂は.....俺を真っ直ぐに見据える。


「.....如何にか出来ないのかな」


「.....正直、手段は無い。ゴリ押しで行くなら.....話が変わるけど」


「.....だよね」


「.....ゴリ押しをしてどうなるかと言えば俺達の負けだろうな、多分」


だよね.....と皆穂は顎に手を添えて真剣に考えている。

俺はそんな皆穂の銀髪の頭に手を添えた。

そして.....笑みを浮かべる。


「.....お前さ、成長したよな」


「部員だから。吉武先輩にお世話になっているから」


「.....いや、それはもうヤンデレじゃ無い。きっと違う」


その言葉に思いっきり見開く皆穂。

そうだな.....例えるならそれは.....慈愛の心だ。

俺はそんな皆穂を見ながら.....過去を思い出した。


良い過去では無い、過去を、だ。

だけど.....今は違う。

全てが良い未来になりつつ有る。

俺は.....成長した皆穂に向きながら.....考える。


「.....救いたいか?」


「.....当然でしょ。お兄ちゃん」


「.....そうか。実はな。数人の新しい家の住所を教えてもらった。明日でも行こうな?」


「.....そうなんだね。有難う」


こうやって.....平然と皆穂がお礼が言える様になったのも.....昔なら有り得ない話だ。

本当にゴミの様な色合いに染まった現実が色々有った。

だけど.....未来はきっと.....。

俺は思いながら部屋に招き入れた。


「どうしたの?お兄ちゃん」


「.....皆穂。お前は今でも俺の事が好きか」


「.....へ!?.....へ!?」


目をパチクリした。

それから慌てて顔が紅潮する皆穂。

そうなんだな。

俺の事が好きなんだなやっぱ。

昔の事を.....噛み締めて.....俺は林檎の様に赤い皆穂に向く。


「.....昔はちょっとまだ早いかと思っていた。だけど今なら言える。付き合うのはまだ無理だけど、俺もお前が好きだ」


「.....え.....」


「.....今のお前が大好きだ」


次の瞬間だった。

皆穂の目から大粒の真珠の様な涙が流れ出して。

俺は大慌てになる。

皆穂は、あれ?あれ.....?と言っている。

涙は止まらず、床に滴る。


「.....その言葉が聞きたくて.....私.....1年ぐらい頑張った.....から.....」


「.....今のお前の成長した姿。それを好きにならない人間は居ない。だから好きだ」


「.....えへ.....えへへ.....お兄ちゃん.....いや。キーちゃん。大好き」


「おいおい。お兄ちゃんで良いよそこは!?キーちゃんって!」


ティッシュを出しながら俺は涙を拭ってやる。

すると.....皆穂の次の行動によってティッシュが落ちた。

俺の唇が.....皆穂の唇に塞がれたから。

俺はまさかの事に赤面する。

ティッシュの箱が落ちる。


「.....キスは二回目だね」


「.....お前な。簡単に人にキスをするなって。それに俺達は付き合っている訳じゃ無いしよ」


「吉さんだからだよ。大好き」


「.....でも良いか。皆穂。ノアも好きだからな。お前だけじゃ無いからな」


分かってる、私はまだお兄ちゃんと釣り合わないから。

でもいつかは振り向かせるからね。

と、ウインクした、皆穂。

銀髪が揺れる。


その女の子の香りに俺はトマトの様に赤くなる。

俺は皆穂を見ながら少しだけ苦笑した。

そうして皆穂と離れながら.....数人の件を話す。


「.....皆穂。数人はな多分.....今、灯篭さんと一緒に戦っている。だから影で支えよう。それで良いか」


「.....うん。そうだね。それで良い」


そうか、と返事した俺。

そして笑み合う。

すると背後から声がした。

俺達は驚愕しながら背後を見る。

ノアが立っていた。


「その事は私も、だよ。吉くん」


「.....お、おう」


「でも.....その前に」


その様に宣言して。

ノアが黒髪を揺らして俺にキスをしてきた。

皆穂は顔を歪めてハァ!?と声を上げる。

ノアはハニカんだ。

そして皆穂と俺に宣言する。


「.....負けない。皆穂ちゃんには」


「.....アンタ.....全く.....」


「.....い、一応、これでようやっとだな。.....互いに通じ合って.....カケラが揃って復元した」


そう。

揃ったのだ俺達が。

そう、思った。

俺は唇に手を当てて赤くなったまま窓から空を見る。


明日が勝負だな.....。

にしてもコイツらは恥を知らないのか。

恥ずかしいんだが。

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