第53話 雪子と灯篭と数人の思い出の家

数人の母親、雪子さん。

何だか.....雪子さんの周りはかなり深い。

まるで泥沼に足を踏み入れる様な。


残念ながら今度ばかりは俺達が関わる事が出来ないと思う。

俺とノア、数人と灯篭さん。

その四人でショッピングモールの食事するスペースで食事していた。

数人を見ると.....数人は複雑な顔でパンを食べている。


「.....数人」


「何」


「.....雪子さんって.....そんなに高貴な人だったのか?」


すると灯篭さんがさば定食の.....箸を置いた。

それから俺を見てくる。

そして.....何かを思う様に思いふける。


「.....雪子は私が心から愛した女性です。だから再婚も考えませんでした」


「.....」


「.....有る日、自分の会社の方針が気に入らなくて、雪子が逃げ出ていたのを拾ったんです。私が.....です。あの日は.....楽しかったなぁと」


「.....雪子さんはアイ.....じゃなくてあの人達が嫌いだったんですか?」


ノアがクレープなどを食べながらその様に聞く。

灯篭さんは俯いて、頷いた。

そして.....俺達を見てくる。


「雪子は.....誰よりも優しく、そして私の身を案じていました。そして数人を。家族が出来たから.....白石一族の血筋を絶ったんです。でも.....あの人.....和久田さんはそれを認めませんでした。それで.....諍いが起こってしまって.....私と数人は悪者扱いにされてしまいました」


「.....一時期は僕が数百億円の継続人にされた事も有った。でも僕は全て断って.....今の家族を大切に思ったんだ。でも何か気に入らなかったんだろうね」


数百億円か.....。

そんなに有ったら普通は仕事したい気も失せるよな。

などと俺の感想を盛り込んでも仕方が無い。

俺は.....パンを食べる数人に向く。


「すまないな。.....何も.....出来なくて」


「.....僕と親父の諍いだからね。吉は全く関係無い。だから何もしなくて良いから」


「.....数人.....」


そう僕達の諍いなんだ、と言って数人は考える。

すると.....誰かの電話が着信音と共に鳴った。

俺はクエスチョンマークを浮かべる。

灯篭さんの電話の様だった。


「.....白石和久田.....?」


「.....え」


灯篭さんは立ち上がって、その場を後にした。

そして俺達は顔を見合わせる。

俺は.....灯篭さんの事が心配だったが.....。

何も出来ないから、と。

待つ事にした。



「.....父さん。何が有ったの」


戻って来た灯篭さんに話す、数人。

俺も灯篭さんを見つめる。

すると.....灯篭さんは気難しい顔で話した。


「.....雪子さんの家。つまり.....私達の家を白石財閥が回収するそうだ。数人。.....今から持家が無くなる」


「.....え?.....ちょ、ちょっと待って父さん。まさか今.....」


「.....家は雪子の為にだけに貸し出された様な家。白石財閥に半ば強引に貸し出された家だったけど.....話し合いで暫くは貸してくれる筈だったんだが.....」


灯篭さんは眉を顰める。

唐突の事で.....数人は唖然としている。

いや、数人の.....あの家が無くなるってマジか.....?

俺は青ざめる。

ノアも顎に手を添えて.....灯篭さんに言った。


「借家の権利とかでも.....そんな無理矢理に家を追い出すとか出来るんですか!?」


「.....借家と借地などの意味は違います。借家の為、権利は全て.....白石財閥に帰属します。だから.....追い出す事も可能とは言えると思います」


「父さんそんな.....」


「.....あの男め。絶対に許せない.....」


灯篭さんはその様に小さく呟いた。

こんな非道な真似をするなんて思っても無いだろうし.....。

俺は心底から怒りを感じた。

余りにも卑怯だと思う。

そしていきなり追い出すとか何様なのだろうか。


「.....嫌がらせ.....にしては度を超えてますよね。酷い.....」


「仕方が無いです。こうなった以上はアパートでも借ります」


灯篭さんは諦めた様に話す。

でも確かに聞いた事が有るな。

借地と借家は意味が違うと。

現代史で偶然にも習った。


どう意味が違うのかと言われたら簡単に言うと。

借家の場合は所有権が相手側に全て有り。

借地の場合は土地は白石側で建物だけは灯篭さん。

そこら辺が違う。


だけどそれでも信じられない。

嫌がらせにしては.....完全に度を超えている。

俺は思いながらテーブルで握り拳を作った。

それを見たのか数人が俺に言葉を発する。


「.....落ち着いて吉。僕と父さんは大丈夫だから」


「落ち着け?無理.....って言うか!それ以外にもお前の母親の家だろ!じゃあ取り上げられて何も思わないのかお前は!」


「.....白石家には逆らえない。それが.....僕達と白石家の昔からの掟なんだ」


俺は聞きながら.....数人の顔に涙が浮かんだ。

金持ちだから何でもして良い訳有るか。

なんだこの胸糞が悪い話は.....。


何か.....何か出来ないのか.....俺にも、と考えを巡らせる。

だが.....未成年の俺にどう.....抵抗のしようが有るのか考えて動きが止まった。


俺はどうしたら良いんだ、父さん.....。


本当にどうしようも無いのか?

いや.....まだ何か.....。

白石家に攻め込むとか?

まあ.....そんな事は出来ないよな、犯罪だ。


じゃあ何か.....このまま白石家の意のままで.....?

それも腹立たしい。

と思っていると.....灯篭さんが立ち上がった。

そして俺達に向いてくる。


「.....今日はもう帰ります。色々、予定が有りますから」


「.....数人.....」


「.....心配する必要は無い。僕は何処でも.....自分の部屋さえ有れば大丈夫だから」


「.....数人さん.....」


このまま数人の家を.....渡して良いのだろうか。

行政に訴える?

とは言え.....無理か。

だって灯篭さんがああ言っているのだから。


「.....無理はすんなよ。数人。何か有ったら俺に頼れよ」


「.....そうだね。有難う、吉」


「.....」


そして.....灯篭さんと数人は帰って行った。

用事の有る俺とノアは残って、だ。

ノアが俺を見てくる。


「どうしようも無いのかな。可哀想。灯篭さんもそうだけど.....数人さんが」


「.....俺達が専門家で。そして.....弁護士とか、最低でも大人なら.....変わったかもな。でも今の俺達にはもうどうする事も出来ない。将棋で言う王手だ」


「.....だよね.....そうだよね.....」


ノアは俯いて.....手を握った。

俺はその姿を見ながら.....天井を見上げる。

今度ばかしはマジにチェックメイトだな.....と。

由利の件はまだ対応出来たが。

今度は全く関わりが無い、親族同士の争いだ.....から。

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