第50話 皆穂の夢、ノアの夢

俺はずっと悩んでいた。

ずっと悩んでいた理由か。

それは.....人の助けになりたいと思う心と。

親父を奪った正義を憎む心が相反する状態で、だ。


常に俺の心に俺が直したおもちゃ箱のおもちゃを見えない手が漁る様な形で.....居座っていたのだ。

だから.....いつしか心を掻き乱されて何を目標にしたら良いのか。

その全てが分からなくなっていたのだ。

そんな時に.....皆穂に、数人に、ノアに出会って俺は.....変わった。


そう、俺の目標が定まっていっていたのだ。

そして今日、三者面談を迎え母さんが仕事なので由紀治さんに付き添ってもらい。

担任にはっきり宣言した。

俺は.....スクールカウンセラーの道を.....歩んで行くと。


その事に由紀治さんは涙を浮かべた。

俺も由紀治さんを少し恥ずかしがりながら見る。

そんな感じで.....担任と俺との三者面談は終わった。

残りは.....皆穂とノアなどだが。


どうなるのだろうか、と思ってしまった。

何故なら今日まで皆穂、ノアから将来の目標を聞いてないのだ。

その為に少しだけ心配な思いを抱きながら.....皆穂とノアの三者面談が終わるのを.....待っていた。

そんな三者面談は同時には出来ないのでノアと皆穂の順序順で皆穂が先だった。

出席番号順だ。


ガラッ


「.....ふう.....」


「皆穂.....お疲れさん」


「終わったよ。お兄ちゃん。ちょっと疲れた」


そうか、と俺は笑みながら皆穂の頭に手をそっと乗せた。

そして教室を見てノアを待つ。

ノアは今は待機している状態なので.....時間が少しだけ空くと思う。

それを考え、俺は皆穂に向いた。

そして.....聞いてみる。


「.....皆穂。お前は将来、何になりたいんだ?」


「.....え?あ、えっとね.....お兄ちゃんはスクールカウンセラー。私も.....スクールカウンセラーじゃ無いけど臨床心理士を目指そうと思って」


「.....え!?」


変な声が出た。

かなり驚きってかかなりびっくりである。

俺と同じ職業って.....まさか俺の為に.....!?

と思いながら青ざめていると皆穂は首を振った。

そして俺を柔和に見てくる。


「.....お兄ちゃんと同じ学校に行きたいからじゃ無いよ。私は.....私なりに目標を立てたの。えっとね、人の心を知りたいって思った。でも.....お兄ちゃんの背中を追いたかったっていうのは嘘じゃ無いよ。だから私は.....臨床心理士を目指すの」


「.....お前.....」


「お兄ちゃんはお兄ちゃんの夢を追ってね。私はそれを陰ながら支えて.....臨床心理士の夢を私なりに追うから。だから私を気に掛ける必要は無いよ。私は自分で頑張るって決めたの」


「.....」


なんか.....ごめん、マジに涙が出た。

と言うか.....今までの苦労がやっと花を咲かせた。

何と言うか.....老人の様に感涙した様な。

なんか涙脆くなったな.....俺。

今までの苦労が有ったからだろうけど。


俺は涙を拭く。

慌てている皆穂を見ながら、だ。

大丈夫と皆穂に言い聞かせる。

そして俺は教室を見た。

さて.....それはそうとノアだな。


「.....数人とかもそうだけど.....取り敢えずは待たないとな」


「お父さん、今日は大変だ」


「.....そうだな。確かに.....な」


今はノアの夢に付き合っている由紀治さん。

スマホも真剣な今だし弄れないので.....待つしかないな。

俺は思いながら.....口角を上げて横を見ると。

至近距離に成宮が立っていた。

うわぁ!!!!?何だコイツ!?


「お前!?お前.....!!!!!心臓が止まるかと思ったじゃねーか!」


「.....何だか顔が嬉しそう」


「.....えっと.....そう見えるか?.....つうか!お前.....終わったのか?三者面談は!」


「終わった。私はプログラマーになる」


言われて俺達は見開く。

それってつまり.....と思いながら盛大な溜息が出た。

皆穂も何かを察した様に身震いしている。


数人がマジに可哀想だな。

俺は額に手を添えながら.....成宮を見る。

ん?そういえば。

コイツの母親か父親が来ているって事か?

どんな感じか興味.....


「こんにちは」


「.....うわぁ!!!!?」


真正面の至近距離から声が!

びっくりして俺と皆穂は見開く。

誰も居なかったよな!?今の今まで!

心臓を落ち着かせながら見ると、中年の女性が居た。


髪の毛はクルクル、目の下に.....クマ?

更に顔立ちは整っており、シワが少しだけ有るが若々しい。

そして.....身長は俺より10センチ以上低い。


で。

俺をジト目で見てきている。

ちょ、な、何だ?

思いながら見ると成宮が溜息を吐きながらその女性に寄った。


「お母さん。そんなに忍足で寄る必要は無いんだけど」


やはり母親か。

俺は思いながら成宮を見る。

すると.....その成宮の母親はとんでもない言葉を発した。


「.....あら、ごめんなさい。この子、結構好みのタイプだったから」


「.....ハァ!?」


皆穂がその様な声を上げた。

目を逆三角形にしてゲキオコな感じで。

俺はまさかの言葉に落ち着けと言う。

にしてもソックリだなこれは。


「.....成宮。お前の母親とお前、クリソツだぞ」


「そう。そう言えば自己紹介がまだだった。母親の鳩子」


「成宮鳩子です。宜しくイケメンさん」


イケメン.....とか言われたの久々だな。

残念な身長と残念な黒縁だしな。

そんなに顔立ちは良く無いんだがと思いつつ。

皆穂を見ると皆穂は激昂していた。


「この女!!!!!」


「.....煩いね。君の義妹」


「えっと.....」


それはちょっと何とも言えない。

皆穂を押さえつけながら苦笑する。

それ以上何も言うなよと成宮と見ながら思いつつ居るとそんな事はお構い無しの様な感じで成宮は母親に向く。


そして真顔のまま母親を見ながら成宮は頭を下げた。

それから俺に僅かに笑みを浮かべる。


「.....用事有るから帰るね。.....数人くんに宜しく」


「あ、ああ.....」


鳩子さんも成宮に引き続き頭を下げた。

俺はその二人の背を見送る。


そして押さえ付けている皆穂を見る。

皆穂は目だけ動かして成宮と鳩子さんの背を威圧して.....いる。

そこまで怒る事か?

コイツ.....。


「皆穂。ジョークに反応し過ぎだっての」


「.....でも全くとジョークに聞こえなかったんだけど」


「.....いや、ジョークだって.....」


だよな.....?と思いながら苦笑気味に成宮達が去った方向を見ながら背筋をブルッと少しだけ震わせる。

熟女好きとかそんな趣味は無いので。


そんな感じで居るとノアが教室から出てきた。

由紀治さんも一緒に、だ。

俺達を見るなり、あ、と声を上げて手を振る。


「皆穂ちゃん。吉くん.....ってどうしたの?」


「.....何でも無い。ちょっと疲れただけだ.....」


「.....?」


目をパチクリする、ノアと由紀治さん。

皆穂も疲れたのか溜息を吐いた。

俺はそれを見て一呼吸置いてからノアに向く。


ノアは俺を見ながら.....首を傾げる。

そんなノアの目を見ながら。

俺は聞いてみる。


「ノア。お前は将来.....何になりたんだ?」


「私?私は.....ユーチューバーかな」


「.....あぁ!?」


「クスクス。冗談だよ。それは安定しないからね」


冗談に聞こえなかった。

その様に思いながらノアを見る。

廊下の端に歩き、窓の外を見つつノアは外を黄昏る様に見る。


俺は.....その姿に見開いて?を浮かべながら見つめた。

ノアは数秒して俺を見てから深呼吸して。

そして.....話した。


「.....私、お医者さんになりたいんだ」


「.....!?.....え?」


「.....お父さんを治すの。お父さんを治して.....また一緒に暮らしたいの」


「でも医学部受験とかかなり大変だろ?.....お前.....」


それは分かってるよ。

そこら辺は.....きちんと勉強したからね。

お父さんとお母さんにきちんと話すしねノアは笑みを浮かべて言う。

そんな中で皆穂が腕を組んで言った。


「.....アンタの今の学力で行けるの?学力順位も.....30位だし」


「.....うん。今のままじゃ無理だって分かってる。だから.....勉強方針とか確認した」


「.....そう」


皆穂はノアをジッと力強く見据えた。

かなり真剣に考えている様だ。

俺は.....その姿を見ながら皆穂はかなり心配しているんだなと思う。

少しだけでも.....仲が良くなっていっているんだな。

と思いながら見ていると、由紀治さんが俺達に寄って来て言葉を発した。


「.....まぁまぁ皆んな固い頭は置いて落ち着いて。ちょうどお昼だし取り敢えず.....何か食べに行こうか」


「あ、でも由紀治さん.....」


「.....そうだね。お兄ちゃん」


俺は少しだけ待ったをかける。

まだ数人を待っていないと、と思ったがスマホに電話が有った。

俺は慌てて受ける。

数人だ。


『話は聞いた。僕は気にしなくても良い。大丈夫だから』


「でもお前.....」


『僕は一人でもやれる様に練習しないといけないからね。親父と優香も居るし、大丈夫だから』


「.....そうか」


じゃあね、と数人との電話はそれで切れた。

そのまま俺はスマホを直す。

そして俺は.....皆んなに向いてそして言う。

少しだけ口角を上げて、だ。


「数人は親父さんとか居るから大丈夫らしい。.....食べに行こうか」


「久々だね。こんな感じでみんなで出掛けるの」


「.....まぁ確かに」


「それじゃみんな、何が食べたいかな?」


由紀治さんの言葉を聞きながら後ろを見た。

もう少しで高二の夏休みに入る。


そしたら.....あと1年と半年も無くてこの校舎から俺達は卒業する。

この校舎を見るのもそのぐらいで。

利用出来るのもそれぐらいだ。


俺達は.....変われるだろうか。

何か.....が、その全てが。

思いながら居ると、皆穂が俺を呼んだ。

それに返事して.....校舎の廊下を見て教室の並ぶ二階を後にした。

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