第44話 相澤社長の襲撃

翌日、仕事が有る由紀治さんと母さんは席を外して。

俺達だけで由利の住んでいる周りの家で聞いて回って。


そして.....情報を収集し申し訳無いけど、由利の身体も撮らせてもらった。

その結果.....十分過ぎる証拠が集まった.....。

だが。


「.....」


「どうしたの?お兄ちゃん」


「.....本当にこれで良いのか?俺が.....いや。.....俺達が.....こんな事をして.....良いのか?家族の問題だろ。これって.....」


ただ.....動きを止める。

かつての.....皆穂を救えなかった時を思い出す。

俺はその為に冷や汗を流した。

ただ.....恐れている。


全てに失敗したのを思い出したのだ。

ヤンデレになってしまった.....皆穂。

そして.....その全てを。

そうしていると、ノアが俺の手を優しく握ってきた。


「.....確かにあまり良く無いかもしれないけど、由利ちゃんを助ける為だよ。吉くん。皆んな居る。だから.....心配は要らないと思う」


「.....ノア」


「私も協力するよ。お兄ちゃん。ね?」


「.....皆穂.....」


歯を食いしばる。

固定電話のナンバーを俺は見る。

俺は.....きっと.....怖いんだ。

だけど.....今の絶望を.....俺は変えたい。

頼む.....俺。


『プルルルル』


「.....」


『はい。こちら、子供家庭支援センターです』


「.....あ、もしもし!その.....!」



言った。

事情を全て話したのだ。

その結果一応、市役所の職員そして保護センターの職員の手によって.....一時保護などの処置が検討され。

俺は.....それでも.....まだ悩んでいた。


「.....記憶が飛ぶってのも相当なもんだよな」


「.....だね。お兄ちゃん」


「.....」


その時だ。

インターフォンが鳴り響いた。

それも短時間で何度も何度も何度も。


俺達は顔を見合わせる。

何か嫌な予感がした。

それを思いつつ.....インターフォンを覗くと。

そこに相澤社長がかなりキレた様子で立っていた。


「.....はい」


『由利は居ますかね』


俺達の事は完全に無視。

由利の事を優先している様だ。

怒った様な声で話す、その相澤社長に俺は.....インターフォンに言葉を発する。

後ろを見て、仲間の顔を見て。


「.....居ますけど、会わせられません」


『は?何を言っているんだね。.....君はもしかして伊藤くんの息子さんだな。由利を返してもらおう。良い加減にして欲しいものだが』


「.....返せません」


『.....はぁ?』


は?と言って。

かなり怒っている様だが玄関のドアがガシャンガシャン音を鳴らす。

こじ開けようとしている様に見える。

俺は慌てて言う。


「アンタそれでも親か。何をやってんだ。ここは他の人の家だぞ」


『.....関係有るかね?君に。赤の他人の君に。開けなさい』


「.....開けない。俺は.....」


『そう言えば.....君達は勝手に児童養護施設?などに通報した様だね。かなり怒っているんだが私は。由利を返せ』


遂に返せ、になった。

まるで何処ぞの不良の様な口調だ。

俺は.....その顔を見ながら、言う。

絶対に返せないなこれ。

静かに見据える。


「アンタが落ち着いて、改心したら帰すよ。由利ちゃんをこれ以上、傷付けられないから。帰ってくれ」


『.....そう言えば、君の母親はようやっと係長に昇格したんだったね』


突然、その様な言葉を口にした。

それがどうしたのだ。

俺は.....思いながら見つめる。

インターフォン先で笑っていた。


『無理矢理にクビにするぞ。渡さないと。給料も全部差し押さえてな。私にはその力が有る』


「.....アンタ本当に人間か?」


クビにするとか。

ゾッとした。

これが同じ人間だとは思いたく無い程に。

流石の皆穂もキレ始めていた。

そして俺に変わって、インターフォンに出る。


「そんな事をしてみろ。クビにしたらアンタの首を刈る」


『誰に向かって言っているんだね。私は.....会社の経営の社長なんだが。言葉を慎みたまえ』


「お兄ちゃん。何コイツ?頭おかしいんじゃ無いの?」


それはお前もだけどな。

いきなり殺すとか。

苦笑しながら俺は溜息を吐いた。


でも.....この状況では.....皆穂が一番効果的か。

俺は思いながら画面を見る。

そして.....言った。


「アンタに由利ちゃんは渡せない。帰って欲しい。じゃ無いと暴れ馬が暴れるぞ」


『何をやっても渡せないと』


「.....そうだ」


『.....じゃあ無理にでも返してもらうまでだ』


いきなり、何かが割れる音、ガシャーンと音がした。

俺達は驚愕してリビングを見る。

そこに土足で上がって来る、相澤社長が居た。


そして俺を睨み付ける.....というか。

どっかに逝っている目を俺に向けた。

雨風が割れた窓から入って来る。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!アンタ頭おかしいじゃ無いのか!」


「.....君達を黙らせるぐらいなら楽な仕事だ」


「.....き、吉くん.....この人!」


駄目だコイツ。

救いようが有るかと思ったらこんな手段を.....!

と思いながら見ていると。

ガラスを踏み散らかしながらスーツから刃物を取り出した。

それもサバイバルナイフの様なものを、だ。


「.....きゃあああ!!!!!」


ノアがまさかの事態に悲鳴を上げる。

俺は.....青ざめた。

コイツ.....こ、コイツ!

俺は直ぐに固定電話のボタンを押そうとした。

110番.....!!!


「動くな」


相澤社長が俺を睨み付ける。

そしてサバイバルナイフを回転させた。

雨風が入って来る中、俺は.....冷や汗を流す。

そして.....一言、言った。


「アンタ仮にも社長だろ!.....こんな馬鹿な真似.....職を失うぞ!」


「由利を取り返す為なら何でもするからな。あまり大人を怒らせるな」


「お兄ちゃん.....」


サバイバルナイフが反射する。

あれが偽物だとしても.....危ない。

コイツに持たせているのが危ない!

俺は思いながら.....皆穂とノアを後退させた。


「.....こんな事をして良いと思っているのか。お前」


「.....良くは無いと思っている。でももう手段が無いからね。君たちを黙らせるぐらいなら楽だと思うから」


そして相澤社長は.....カッと見開いて俺にナイフを振り翳す。

その瞬間、俺の手が切れた。

ドバッとはいかないが、垂れる程に出血する。

俺は痛みに悶えた。


「.....ぐ、グゥ.....!」


「お兄ちゃん!」


「き、吉くん!」


何だよこれ.....何だってんだよこれ!

俺は.....思いながら出血する手を押さえつつ冷や汗を流す。

冗談じゃない!この野郎!

血が滴り落ちる。


「良い加減に返してくれるかな。由利を」


「アンタは救いようが無い。俺は.....認めない!」


「.....じゃあ殺すまでだね」


そして血が落ちるナイフを振り翳した。

俺は.....覚悟を決めて目を瞑る。

その時だった。


ドンッと音がした。


皆穂が体当たりしたのだ。

俺は驚愕しながら見つめる。

な、何だお前!と暴れている、相澤社長。

雨に濡れているせいか、勢いか。

サバイバルナイフを落とした様だった。


「.....こんな安っぽいものでお兄ちゃんを仕留めるなんて.....汚らわしい」


「離せ!」


「.....お兄ちゃんを傷付けた罰は.....重いよ。アンタ」


皆穂は我を失った様に。

相澤社長を見据えていた。

そして顎を掴む。

俺はハッとして皆穂を見た。


「止めろ皆穂!そんな奴に.....自分が犯罪者になる意味は無い!」


「でもお兄ちゃん。絶対に許せない。由利の件もだけど」


「話し合える。皆穂。止めてくれ。お願いだ」


そして俺は懇願する。

相澤社長は皆穂に対する恐怖故か.....目が虚だ。

それを見ながら皆穂は.....サバイバルナイフを片手に。

相澤社長の首に押し当てた。


「み、皆穂!」


「皆穂ちゃん!」


「ぎゃあああ!!!!!」


雷が鳴る。

そんな中、悲鳴が響き渡り.....。



結論から言って。

皆穂は相澤社長を気絶させた。

首にサバイバルナイフを押し当てて、だ。

相澤社長は逮捕された。


俺達は救急車の中で会話する。

今、この家には救急車、警察車両が来ている。

その中で.....俺は皆穂を見た。


「皆穂」


「.....何?お兄ちゃん」


「.....良く頑張った。殺さなかった」


「.....うん。なんかね。頭の中で.....皆んなの顔が浮かんだの」


俺は静かに話に耳を傾ける。

毛布で体を包んでいる、皆穂を見ながら、だ。

すると、由紀治さんと母さんが向こうからやって来.....て。

俺と皆穂とノアをハグした。


「良かった.....大丈夫.....?」


「母さん.....痛い.....」


「皆穂。良く頑張ったね。そして.....ノアさんも」


「.....うん。お父さん」


「はい」


涙を流している由紀治さんと母さん。

俺はその光景を見ながら、涙を浮かべる。

本当に生きれて良かったと思いながら、だ。

危ない状況だった。

すると母さんが周りを見渡した。


「由利ちゃんは.....」


由利を探している様だ。

俺は皆穂と顔を合わせて、事後報告した。

その件に関して、だ。


「由利は.....保護されたよ。母さん」


「.....だね。お兄ちゃん」


「.....そう。.....二人とも、ゴメンなさい。まさか相澤さんがこんな真似をするなんて.....」


あの会社はもう辞めたから、と母さんは言う。

高月給だったけど家族を危険に晒せないから、とも言った。

俺は.....皆穂は。

少しだけ.....複雑な感じで見つめる。


「.....でも気にしないで。私は.....色々な資格を持っているわ。だから.....辞めたとしても何処でも勤めれるわ」


「.....母さん.....」


「そうだね。だから心配はしないで.....これからも親に頼りなさい」


「.....お父さん.....」


由紀治さんも笑みを浮かべた。

俺は静かに俯いて頷く。

そして傷を見た。

みんなが心配して見つめてくる。

俺はそんなみんなに苦笑して言った。


「.....肩辺りを5針縫ったけど.....大丈夫だから」


「.....ゴメンね。お兄ちゃん.....」


「.....お前のせいじゃ無い。だから大丈夫だ」


思いながら俺は.....笑みを浮かべた。

そして.....空を仰ぐ。

これで解決、かなと思いながら。

そして見つめていると。

向こうから.....更に人がやって来た。


吉武先輩とか数人とか。

そんな感じで、だ。

俺はそれを見ながら目を丸くしつつ口角を上げた。


生きていて.....取り敢えずは良かったと。

その様に思いながら、だ。

それから皆穂を見て.....目を閉じて俯いた。

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