第十章、後半 逆転の刻

第41話 逃げ出して来た由利

何時だっけか。

人は愚かさを忘れ、同じ過ちを繰り返す。

数人に以前、掛けた言葉だと思うな。

愚かさと同じ過ちを繰り返す.....か。

俺は眉を顰める。


今だと思うから、だ。

俺は.....目の前の缶を見ながら怒りを持つ。

そして.....俺は缶を潰した。

グシャッと音が鳴って.....それから呟く。


「.....相澤社長が気に入らない」


「.....そうだね。僕もあまり近寄りたく無いね」


「.....酷いと思う。自らの.....娘さんに対して」


「.....ノア.....そうだね」


何だろうな.....皆穂もなんか怒っている様に見えし。

このままあの時に怒り任せでぶん殴っても良かった。

しかし.....それだと皆穂が怒るし、それ以外にも母さんに迷惑が掛かる。

その為、俺は手出しが出来なかった。


「.....連れて帰られてしまったけど.....どうするか.....」


「.....由利にもう一度、会いたい。そして.....」


「それは無理だと思う」


数人がまるで日本刀で紙をぶった斬るかの様に言葉を切り捨てた。

俺は数人を驚きの目で見る。

そんな数人は腕を組んだまま.....俺をゆっくりと見ながら話す。

顎に手を添えた。


「.....簡単に言うとね。先ずこれは.....一つの家庭内の問題だと思う。.....手出しが出来るとは到底、思えない。家庭内の事に他人が意見する.....それは法律的にも如何なものかな」


「.....じゃあ相澤社長を殺す?」


まさかの言葉だった。

皆穂が怒り混じりに言ったのだ。

そんな皆穂の目からハイライトが消える。

俺は慌てて否定してそして直ぐに皆穂の頭に手を乗せる。


「.....皆穂、落ち着け」


「.....お兄ちゃん。結構怒りが湧いてるよ。今の状況に。何だってこんな」


ヤバイな.....。

目からマジにハイライトが消えた。

ノアも数人も驚いた目をしながら俺を見る。

俺はその視線に溜息を吐く。


「皆穂。殺すのは無しだ。母さんにも迷惑が掛かる」


「.....でも」


「.....それ以外で.....由利に会う方法を考えよう」


すると電話が終わったのか、母さんが戻って来た。

俺は直ぐに見つめる。

だが母さんは首を横に振った。

そして.....悲しげな目をする。


「駄目ね。話が行ったり来たりだわ」


「.....もう諦めよう。吉。ここまで来たらチェックメイトだ」


「.....数人.....クソッ!!!!!」


俺は顔を歪めた。

それからバァンとテーブルを叩く。

悔しいし、歯がいい。

クソッタレ!


「.....吉。貴方が悩む必要は無いわよ」


「.....でも母さん!」


「.....吉。安心しなさい。私も.....諦めた訳じゃ無いから。事情を聞いていくつもりだから。貴方は.....あまり心配する必要は無いわ」


本当にチェックメイトなのか?

どうしようも無いのか。

俺は.....眉を顰める。

そして.....唇を噛んだ。


「.....じゃあ帰りましょう。皆さん」


「.....そうですね」


「.....」


「.....」


由利が居ない今。

俺に抵抗しようが無かった。

そう思いながら.....窓から病院の外を見つめる。

一体.....何をどうしたら.....と思いながら。



「お兄ちゃん。風呂沸いたよ」


「.....ああ。入ろうかね」


夕方の事。

俺は俯くのを止めて顔を上げた。

それからテレビをリモコンで消す。

そして立ち上がった。


「.....まだ考えていたの?吉」


母さんがその様に皿を洗う手を止めて声を掛けてくる。

俺は.....母さんに、そんな訳無いよ。、と嘘を吐いた。

そして.....風呂場に行く。

皆穂も俺を心配げに見ていた。


その時だ。


インターフォンが鳴った。

母さんが誰かしら?とインターフォンを見る。

そして直ぐに駆け出して行った。

何だ?


「大変.....皆穂ちゃん!手伝って!ノアちゃん!」


「え?西子さん!?」


玄関辺りが騒がしいが。

上半身を脱いでしまっているから近寄れない。

俺は何だろうと思いながら洗面所で待つ。

するとバタバタとみんながリビングに入って来た。


「.....由利ちゃん.....大丈夫!?」


「.....え.....」


俺は言葉に青ざめた。

何だって!?

上半身の服を着てから直ぐにリビングに戻ると。

雨に打たれたのかビショビショになっている、由利がカタカタ震えていた。


「どうしたの!?由利ちゃん!」


そのノアの問い掛けに由利はゆっくり口を開いた。

そして.....言葉を発する。

それは悲しい一言だった。


「.....私.....逃げて来ました.....私.....帰りたく無いんだと思います」


「.....で、でも.....」


「大変.....泥だらけ!.....お風呂に入れなきゃ」


その言葉に由利は.....涙を静かに流した。

涙に俺は.....眉を顰める。

拳を握り締める。

ここまで.....ここまでなんて.....!


「.....何でだろう.....何で.....ここまで.....!」


言葉の無い怒りが俺を襲う。

そして俺は静かに.....由利を見た。

これからが勝負だろう。

その様にも、だ。

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