第39話 間違った判断

何だろうな。

裁判って聞くと、何だか俺の親父が亡くなった時を思い出す。

轢き逃げされた後の.....轢き逃げした京子さんの裁判。


幼い俺にとって裁判所は.....法廷が地獄の門に見えた。

それから曖昧な記憶しか無く、退屈に思っていた記憶しか無い。

俺は.....何の為にヒーローになろうとしたんだっけなんて思ったりもした。


目の前の.....はしゃいでいる由利を見ながら俺と重ねてみる。

それはまるで、俺の影分身を見ているかの様な気分だった。


そんな由利はプレゼントを買ってもらって満足そうな感じだ。

まるで.....貴重品を扱っている様に大切にしてくれている。

高かったけど俺も満足だった。


大切に大切に胸に押し当てている姿を見て。

俺は.....試されているのかも知れないと思ってしまう。

今が試練の時だと、だ。


由利をどう救うかという感じで、だ。

俺は.....絶対に由利を.....救わなくちゃいけない気がする。

今までの全てを賭けてでも、だ。


そう、思っていた時だ。

由利が別の女の子が幸せそうに母親に縋っている姿を見ていて由利は涙を一筋、流して俺を見つめてきた。

俺は心臓をハンマーで殴られた様な衝撃を受けて皆穂と共に由利をゆっくりと抱きしめる。


そして由利の頭を撫でてやって.....落ち着かせた。

涙をハンカチで拭ってやって、だ。

由利はニコッと笑みを浮かべる。


「.....由利、大丈夫か」


「.....うん、だいじょうぶ!何だか.....胸が苦しいけど.....」


「.....」


するとその時だった。

ギューッと皆穂が言う。

そして由利を皆穂が強く強く抱きしめた。

珍しいな、皆穂がこんな行動をするなんて。


俺は思いながら、皆穂の行動を嬉しく思う。

それから俺は数人を見ると何かスマホを弄って調べていた。

俺は?を浮かべながら数人に聞く。


「どうしたんだ?」


「.....うん。何て言うか.....由利の症状をちょっとね。調べていた」


「.....ああ、そうなのか。何か見つかったか」


「.....一概には言えないけど彼女の状態はあまり良く無い。吉。これは限界点だ。病院に連れて行くべきだと思う」


数人は.....その様な結論を出した。

って言っても.....な。

病院か.....。

何とかなるなら連れて行くけど.....俺は思いながら見る。


すると。


皆穂が.....目の前でいきなり倒れた。

俺は見開いて、皆穂に駆け寄る。

ちょ、なんだってんだ!?

俺は慌てる。


「皆穂!オイ!どうした!?」


「ちょっと.....無理っぽかった。風邪っぽかったから.....」


「風邪!?.....お、お前.....!」


俺は青ざめながら慌てて手を皆穂の額に当てる。

確かに凄く熱い。

今までずっと隠していたのか!?

俺は慌てながらノアを見た。


「救急車.....ノア!」


「.....」


ノアがまるで蝋人形の様に固まっている。

なんだってんだと思いながら視線の先を見る。

由利が.....青ざめてかなり震えていた。

そして由利まで倒れた。

血の気が引く。


「大変だ.....お前ら!」


「救急車の手配したから。運ぼう。吉」


「ああ!」


数人が迅速に救急車を呼んでくれた様だ。

とにかくは人目が気になる。

まるで刺々しいし、迷惑が掛かる。

俺は直ぐに皆穂と由利を連れて。

その場を後にした。



病院に運ばれた皆穂。

そして同じく病院に運ばれた由利。

皆穂はただの夏風邪だったが。

だが、由利は.....大変な事になっていた。

医者が言う。


「.....あまり宜しく無いです。由利ちゃんですがどうやら脳にショックが有った様です」


「.....つまり?」


横に俺の母親が居て。

俺は医者の話を聞いていた。

医者は.....気難しそうに口を開く。


「.....由利ちゃんですが、心の負担が大き過ぎた様です。それは.....皆穂さんの倒れた姿を見たからでしょう。そのショックで一時的ですが記憶を失っているかも知れません」


「.....そんな!?」


「.....これは.....何故、病院に連れて来なかったのですか?」


俺を叱責とは言わないが、非難の目の様なものを向ける医者。

病院に行かずともどうにかなると思っていた。

だけど、甘かった様だ。

俺は.....頭を抱えて、下を見る。

母親が、聞く。


「記憶は戻るんですか?」


「.....分かりません。ですが、リハビリをしてから治しましょう」


「畜生.....」


俺はそう悪態を吐いた。

そして.....頭に手を添える。

白い床を見ながら考える。


ヒーローを目指したが為に。

また人を巻き込んで。

何で俺は病院に連れて行くという判断を取らなかったんだ。


爪が甘すぎる.....!

馬鹿野郎か俺は.....。

そう、思いながら居ると母さんが話しかけてきた。

優しく、だ。


「.....吉」


「.....何、母さん」


「貴方が必死に寄り添おうとした......その事は誇って良いわよ。由利ちゃんを.....必死に助けようとした。由利ちゃんは楽しんだ。だから.....間違ってないのよ」


「.....でも俺は.....」


由利ちゃんは大丈夫。

社長さんも分かってくれたわ。

だから安心して、吉。

そう、母さんは言った。


だけど俺は.....間違った判断をした事に。

悔やみきれなかった。

由利を苦しませてしまった事に.....後悔を.....してしまう。

馬鹿だったと。


そして俺達は診察室を出た。

それから.....目の前のノアと数人を見る。

すると数人が俺に言ってきた。


「.....吉。君のやった事は.....間違ってない。これは仕方が無かったと思う」


「そうだと思う。吉くん」


「.....でも.....な。馬鹿だったよ」


何だろうか.....成長して無いんだろうな、俺。

本当に.....自らで解決しようだなんて己を呪いたい気分だ。

そう、思っていると数人が右の手を俺の頬に添えた。

突然の事に俺は驚きながら数人を見る。


「.....吉。落ち着いて」


「.....お前.....」


「.....君は僕を救ってくれたんだから。間違って無いんだ」


「.....」


そうだな.....そうだと良いが。

俺は.....思いながら左手で拳を握る。

それから.....由利と皆穂が寝ている病室に向かい始めた。

色々と決心しながら。

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