第38話 数人の父親、赤山灯籠の仕事

人は笑う為だけに特化して存在しているとは言えない。

だけどそれなりに大切な(感情)を持って存在している。

これは.....どの生物でも同じだと思う。


そんな感情は繊細な生き物だ。

それが共存する様に俺達の中に存在している。

だから.....感情という生き物は色々と共存を間違えると.....詰まる。

それは排泄物が腹で詰まる様に。


溜まるとは要するにいつかは暴発する。

手術しなくてはいけなくなる。

あくまで、俺の考えだけど。


だから感情を排泄出来ない由利の感情の爆弾は非常にマズいと思っている。

俺は.....精一杯、由利を楽しませて.....吐き出させたいのだ。

翌日、俺はその事を考えながら由利を見つめていた。


でも一体、何を.....どうしたら良いのだろうか。

皆んな協力をしてくれるそうだが.....どうしたものか。

目の前の由利は笑顔で俺を見つめる。

その中に.....秘めた想いか。


俺はその様に考えながら目の前の由利を見る。

今、この場には皆穂そしてノアが居る。

二人は.....それなりに複雑そうな顔をしていた。

説明してから.....ずっとこの顔だな。


そんな二人を複雑な顔で見ながら歩いて行くと、デパートの7階のおもちゃ売り場に着いた。

ああ、因みにこのおもちゃ売り場の場所は吉武先輩と一緒に来たあのデパートだ。

俺はこの場所が一番良いかと思ったのだ。

地形を理解出来ているし、大きさもそこそこ有る。


由利は俺に対して満面の笑みを浮かべる。

そしてノアと皆穂にも、だ。


「おにいちゃん!おもちゃがいっぱいだよ!」


「そうだな。この場所なら羽を伸ばせるだろ?」


「うん!」


由利は笑顔のまま、あちこちに目を輝かせておもちゃに指を差す。

その姿を見ながら俺は。


少しでも。

ほんの僅かでも良いから.....由利に。

楽しんで、喉に詰まった餅を吐き出す様にストレスを解放してほしい。


めいいっぱい、子供の様にはしゃいでほしい。

それが無理だとは思っていても。

その様に考えてしまう。

そうしていると皆穂が俺を見てきた。


「お兄ちゃん.....由利って.....なんで溜め込んでいるんだろうね」


「.....それが分かったら.....苦労はしないんだけどな」


皆穂に俺はそう答えた。

でも、少しだけ分かる気がした。

由利が.....皆穂と俺と同じ様に。

扱い下手なのだという事を、だ。

それはまるで、己という自己の機械を操作出来ない様なそんな感じだ。


「由利ちゃん.....吉くんに懐いているのも.....何か有りそうだね」


「.....そうだな.....って」


俺は目の前を見る。

そこに何故か.....商品を手に取る数人が居た。

俺をパチクリしながら見ている。

何だ此奴!?

俺は驚愕しながら、まるで見た事の無い景色を見た様な感じで見開く。


「お.....お前!?外に出れたのか!?」


「ギリギリだね。でも.....慣れないといけないよね。吉」


「あ、ああ.....にしても凄いな。数人。成長したな」


「子供扱いは止めてくれるかな。僕だってやれば出来る.....その子は?」


数人は目線だけ動かして。

由利を見た。

そんな由利は何の警戒心も持たず。

頭を下げて、数人に挨拶をした。


「おにいちゃんのお友達?女の子だよね!宜しく!」


「僕は女じゃ無い.....」


「え?」


控えめに反発する、数人。

数人は少しだけ困惑しながら由利を見つめる。

苦手なのだろう、この子が。

と言うか、子供が、だ。

俺は.....話を変えようと思い、数人を見た。


「何をしてんだ?こんな所で」


「学校用品を見た帰り。だから.....特に意味は無いけど、トレーディングカードに興味が有るからね」


「遊○王とかか?」


「そうだね」


でも僕もお金が無限に有る訳じゃ無いからね。

と数人は○戯王の商品を置く。

そして俺をジッと見てきた。

それから由利を見る。


「.....君は困っているみたいだね。その子に」


「分かるのか?相変わらず人の心を読むのが得意だなお前」


「.....そうだね。で、何を困っているの。吉」


「.....ああ、実はな」


由利のこれまでを話すと、驚きながら数人は顎に手を添えた。

そして俺を見つめてくる。

俺は?を浮かべながら.....反応する。


「どうした?」


「.....僕も協力して良いかな。.....色々お世話になってるしね」


「.....それは有難いが.....大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ。由利は.....僕が知っている点もあるしね」


え?と俺は驚く。

何故、由利の事を知っているのだ?

俺は.....思いながら居ると。

由利の手を引いた。


「君、確か相澤商業の娘さんだね」


「.....え?うん、そうだよ!」


「.....お母さん.....の名前は.....確か相澤祥子(あいざわしょうこ)だね」


「え?何で知っているの!?」


そうだ。

一体、どういう事だ!?

何故そんなに詳しく知っているんだ?

俺は驚きながら皆穂とノアと共に見つめる。


「.....相澤祥子さんのひき逃げの犯人の弁護を担当したのはうちの父なんだ。元弁護士。だから.....君の痛みは知っている」


「.....弁護士.....!?」


俺は見開く。

そして見つめると、数人はゆっくりと立ち上がった。

俺を見据えてくる。

相変わらずの瞳で、だ。


「.....吉には話して無かったかな。うちの父は元弁護士。僕の為に辞めたけどね。そして僕は.....その元弁護士の書類を盗み見たから.....知っている。酷いひき逃げだった」


「.....だから助けたいって思ったのか?」


「それだけじゃ無い。僕は.....いや。僕の亡くなった母親は.....相澤祥子さんの.....友達だった。そして.....大切にしていた。だから父は.....進んで立ち向かったんだ。裁判に。そして父は必死に弁論を述べたけど、犯人は懲役1年。たったの1年で.....出て来てしまったんだ。それも有るけど(友達だった)事が有る。だから.....僕は多分.....由利の事を見捨てて置けないんだと思う」


「.....どんだけ地球は狭いんだって話だな」


俺は頭に手を添える。

そうだね、と少しだけ笑みを浮かべ。

直ぐに真剣な顔になった、数人。

そして言う。


「.....由利。君はもう罪を感じる必要は無いんだ。ここからは僕も協力するから。これが.....親父に対する、せめてもの恩返しだと思うしね」


「うーん?分からないけど分かった!」


頼もしい助っ人は出来たが.....まさかそんな過去が?

俺は.....眉を顰めて思いながら。

数人と由利を見た。

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