第十章、前半 試される絆

第36話 相澤由利(あいざわゆり)

「.....そんな過去が有ったんだね」


「.....そうだな」


ノアは純粋な目で俺を見てくる。

その目を見ながら.....俺は目の前でスイカ割りをしている仲間を見つめる。

そうしていると、ノアが俺の頬に手を添えてきた。

そして俺を複雑な目で見つめる。


「.....頑張ったね」


「.....ああ。お前らが居なかったら.....俺はとっくの昔に死んでいたよ」


俺はノアを見つめる。

するとノアはハッとして手を引っ込めた。

それから赤面で俺を見てくる。


「.....ご、ごめん.....」


「.....いや、有難う。ノア」


「お兄ちゃん?」


「.....うん?どうした.....み.....なほ?」


目の前に雪女の様な皆穂が立っていた。

俺を見据えながら笑っている。

いや確かに笑っているが目が笑ってない。

ちょ、ご、誤解ですよ?


「.....皆穂.....落ち着け」


「殺すよ?」


「す、すまん」


溜息を吐きながら皆穂は俺をノアを交互に見る。

ノアは皆穂に複雑な顔をしていた。

皆穂は?を浮かべながら見る。


「.....全く。で、アンタも何しているの」


「.....皆穂ちゃん。皆穂ちゃんも色々有ったんだね」


「は?」


目をパチクリする、皆穂。

そして、ノアがそんなパチクリの皆穂を抱きしめた。

それから.....呟く。


「.....有難う。皆穂ちゃん」


「.....ちょ、ちょっと何?と、突然」


「何でも無いよ。でも抱き締めたくなったから」


俺はその様子を見ながら笑みを浮かべる。

すると、吉武先輩がやって来た。

そして棒と鉢巻を渡してくる。

どうやら、スイカ割りの物品の様だが。


「.....遊ばないか?」


「.....!.....はい」


その言葉に歩いて行く。

ノアと皆穂も歩いて行った。

手を上げながら皆んなの元に向かう。


今は今。

この先も先。

何が有っても.....俺達は乗り越えられる。

そう、思える様な気がした。



さて、その後。

散々に砂浜で遊んで、お土産を買って俺達は日帰りした。

それから.....夜になり。

俺と皆穂とノアは固まっていた。


「わーい!」


帰って来ると自宅に子供が居た。

正確には幼女だ。

言えば、小学3年ぐらいの。

いきなりの事で頭が追いつかないのだが。

皆穂はソファから不愉快そうな視線を俺に向ける。


「.....何で小学生が居るの」


「.....俺に聞くな」


「でも可愛いね。この子!」


ノアはノリノリ。

俺はサゲサゲだった。

何故なら、この子。

俺を好いているから、だ。


「おにいちゃんの太腿ふかふか!」


「.....吉.....殺す.....」


「落ち着け。皆穂!ってか母さん!なんで預かる事にしたの!」


犯人はウチの母親だった。

母さんは俺を見ながらニコニコしている。

そして話し出す。


「社長さんの娘さんだから断れなくって。ごめんね、吉」


「.....ハァ.....」


ぴょんぴょん跳ねる、由利ちゃん。

この子は相澤由利(あいざわゆり)ちゃんだ。

9歳で茶の長髪に、さくらんぼの髪留め。

そして.....元気良い、可愛い顔立ちの幼女で有る。

何故か知らないが.....俺に懐いている。


「ねぇ!おにいちゃん!何してあそぶ!?」


「ちょっとアンタ。私は無視?」


皆穂がキツい視線を向ける。

それにビクッとしながら由利ちゃんは俺の後ろに隠れる。

そして涙目で俺を.....見る。

可愛いな。


「だっておねえちゃん怖い.....」


「じゃ、じゃあ私は.....」


「ノアおねえちゃんは.....微妙」


ガーン!とショックを受ける、ノア。

本当に子供って極端だからな.....。

思っていると、由利ちゃんが俺の手を握って、何処かに連れて行こうとする。

その場所は.....風呂場だった。


「.....どうしたの?由利ちゃん」


「一緒にお風呂はいろ?」


極端だな.....ってぇ!?何ぃ!?

目の前でスッポンポンになった、由利ちゃん。

俺はぎゃー!!!!!と赤面で叫んだ。

背後から.....殺意が.....飛んできて俺は尚更青ざめる。


「.....お兄ちゃん?」


「.....吉くん?」


俺のせいか!?俺の!

コイツのせいだろ!

ってか母さんも笑ってないで止めろぉ!

由利ちゃんは俺の腕を自らのぺたんこの胸に収める。


「はいろ?」


「.....いや、由利ちゃん。それはちょっと.....」


「何で?私.....いつもお兄ちゃんと入ってるよ?」


「.....いや、状況が違うんだよ。ゆりちゃ.....」


グスグスと。

いきなり涙を流し始めた、由利ちゃん。

俺は青ざめてヒェ!?と思った。

これを見かねたのか、皆穂がやって来る。


「.....私が一緒に入.....」


「や!おにいちゃんが良いの!」


思いっきりだった。

ベシッと皆穂の差し出した手を弾いて俺の背後に回る由利ちゃん。

これに対して、ァァ!?と脅す様な激昂した様な口調をする、皆穂。

俺は盛大に溜息を吐いた。

何時まで.....続くのだろうか、これは。


さて、序章の様に感じるがこれは本当に序章だった。

また俺達は.....事件に巻き込まれる。

それも.....由利ちゃんを中心にして、だ。

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