第34話 吉と皆穂の出会い

だが俺は正直に言うと親父が幼い頃は嫌いでいた。

いつもいつも正義ぶっていて人の為に自己を犠牲にする。

そんな感じだったから。

正義は要は俺を目にして無いんじゃ無いかってそう思える様な。


そんな感じだった。

他人が電車に飛び込んだならそれを直ぐに助ける様に。

いつか巻き添えで死ぬんじゃ無いかって思っていたのだ。


だから俺は親父が嫌いで、しかもヒーローになろうとは微塵も思って無かった。

だがきっかけが訪れる。

これは幼稚園の頃の話だ。


幼稚園で倒れた少女が居た。

その少女は.....口から吐血して、倒れたのだ。

後に分かったが、少女は肺の病気でふらついて倒れた。


しかもその少女は.....俺が片思いの少女で。

倒れた瞬間に青ざめたのを覚えている。


だが、その倒れた瞬間、授業観覧だった為に親父も居たのだが。

直ぐに動いて、少女を救急車を呼んだり、緊急の処置を行い救ったのだ。

戦隊ヒーローの様に、救ってくれた。


この日からだろう。

いつしか.....親父が好きになっていったのだ。

そして、親父の背中を追おうと。

決心した日でもあった。



親父は強かった。

そして喧嘩も相当なもんで。

西子に出会ったのもそれが有る。

きっかけでは無いが、それなりに.....意味は有る。


親父に憧れる為、筋トレもした。

そしてかけっこもした。

だけど、筋肉はあまり付かずに弱かったのだ。

だが、そんな時にも親父は俺の頭をポンポンしてから言った。


何を言ったかと言うと。

お決まりの決め台詞の様にこの様に、だ。


『吉。強いだけがヒーローじゃ無いんだ。気にするな』


それがどういう意味だったか。

理解まで時間が掛かったが、1年後に理解出来た。

あの時は情けなく泣いていたっけ。

強くなりたいと願って、だ。


ヒーローは強いだけがヒーローじゃ無い。

つまり、救うのもヒーローなのだ、と。

親父は言っていたのだ。

俺はそんな親父がますます好きなった。


母さんも俺を見て、嬉しそうだった。

本当に幸せな家族だったと思う。

それが.....小学生の半ばまで.....続いた。

俺がヒーローを捨てるきっかけになった事件が起こったのだ。



親父は本当にお人好しで。

そして.....その日も。

お人好しだった。

だけど、その日は裏切られた気持ちが強くて.....仕方が無かった。

親父は.....他人を救って轢き逃げされたのだ。


そして、強かった筈だが死んだ。

幸せは.....一瞬にして消え去ったのだ。

警察署の.....俺は.....親父の遺体の前で決意した。


『ヒーローなんて死ねば良い。良い事なんて無い』


と、だ。

なんだって他人の為に。

親切にしたのに轢き逃げされなくてはならないのだ、と嘆いた。

結局嘘だったんだ、親切の見返りなんて。

親切なんて.....この世には無いんだって。


母さんの泣きじゃくる顔。

そして.....暗い部屋で.....顔に白い布を置かれた親父を。

全てに心を閉ざした、瞬間だった。


それから俺は.....3ヶ月引き篭もった。

精神不安だったのだ。

だけど、それは決して母さんには言わなかった。

何故かと言えば。

これ以上、負担は掛けられないと思っていたから。


だから、引き篭もったのだ。

だけどそれも.....自分を.....捨てて情けなくしているだけだと気が付いた。

それを気付かせてくれたのが.....その年のお付き合い。

母さんの再婚相手の娘.....皆穂だ。



3ヶ月引き篭もった結果。

俺は痩せ細った。

そして体力も落ちたのだが。

その中で母さんの話が更に信じられなくて閉じ籠っていた。


再婚するかも知れない。


その様に、だ。

何故、再婚するかと言われたら.....俺を支える為だという。

赤の他人と一緒にってそれは無いだろうと。

嘆いて、閉じ籠った。


そんな有る日、俺は皆穂に会ったのだが。

その顔を見て俺は驚愕した。

何故なら、6年前に遭遇した少女と似ていたから。

それで驚愕したのだ。


「初めまして。吉くん。僕は由紀治。吉田由紀治です。皆穂。挨拶して」


「.....貴方.....」


相手も相当に驚愕している様に見えたが。

今更.....どうでも良いやと思い始めて俺は俯いた。

父さんが死んだ今.....と、だ。


「.....皆穂?知っているのかい?」


「一緒に遊んだ気がする.....」


「.....」


その言葉を聞いてから俺は踵を返し、そして去る。

母さんは止めなかった。

だけど、皆穂は違い。


俺の手を握って止める。

そして俺を見上げてきたのだ。

俺は驚愕する。


「えっと.....伊藤くん.....だよね。私と友達になって.....私、ノアと別れ別れになって友達が居ないの」


「.....断る。何をもってしてお前なんかと」


「.....えっと.....」


そして皆穂の手を思いっきり振り解いて。

俺は長くなった髪を整えてから二階に上がった。

結論から言えば、皆穂と由紀治さんはよく来る様になってそして。

俺の部屋の前によく来ていた。


ベッドで座っている俺に。

声を掛けてくる人達。

救ってくれるとは思っていても。

俺は耳を塞ぐしか無かったと思う。


結局、親切は裏切る。

どうせコイツらもその様に思いながら俺は。三日に一回来るその声を耳を塞いで聞き続けて.....少しだけ時間が経った。

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