第33話 吉の過去の全て
なにはともあれ。
今、目の前でビーチバレーで遊んでいる女子達を見ていると。
何だか暑さもそこそこに吹っ飛ぶ感覚になる。
かき氷を食ったぐらいに涼しくはならないがそれなりに涼しく、だ。
傘の下で俺は目の前の海で遊んでいる女子達を見ていると少しだけ穏やかになる。
そう思いながら居ると、ノアが汗を拭いながらやって来た。
「吉くん」
「おう、どうした。ノア」
「遊ばないの?」
「.....ああ。それなりに経ったら遊ぶさ。有難うな」
そう、とノアは言いながら俺の横に腰掛ける。
胸が弾んで目を逸らしながら俺は赤面を隠しつつ。
ノアと同じ視線の先に視線を向ける。
すると、ノアが話しかけてきた。
「.....吉くん。私ね」
「.....どうした」
「今が凄く楽しい気がする。皆穂ちゃんと吉くんと一緒に.....うん。生活しているのが。お父さんの事とかが気になるけどね」
「.....そうか」
俺は笑みを見せる、ノアを見ながら。
目の前のビーチバレーをしている女子達を見る。
そうだな.....と思う。
色々有ったけど、本当にノアと一緒で良かった。
そしてみんなと一緒で.....楽しい。
思いながら居ると、ノアは複雑な顔になった。
「.....私のお父さん.....昔から病弱だったから.....ね」
「思えばお前、あまり過去を話さなかったよな?」
「.....そうだね。話してどうにかなるなら話すけどね。基本はいいかなって」
「.....そうか.....」
ノアは強いが女子だ。
だから.....崩れるのだ。
砂で作った.....城の様に。
だから守ってやらないとな、とは思う。
「私、吉くんを好きで良かった」
「いきなりだな」
「.....うん。いきなりだよ。本当に好きで良かった。じゃ無かったら.....こんな人生は送れなかったよね」
「.....」
俺は目の前を見据える。
すると、メッセージが入ってきた。
俺は?を浮かべながら見つめる.....って。
数人じゃ無いか。
俺はすぐにメッセージを開いた。
(楽しんでる?)
数人はそう、送ってきていた。
俺はノアが覗き込む中、メッセージを返信する。
それから送った。
(ああ、楽しい。お前もいつか来たら良いんじゃないか)
(吉も行くかな。それだったら行きたい)
俺は目を丸くする。
ノアがニコニコしていた。
そして言う。
「あはは。数人くんって吉くんが好きだね」
「.....好きって表現はおかしいかもだけどな。でも.....確かに好かれてはいるだろうな」
数人は多分、俺を友人の様に慕っている。
その影響で.....この様に書いてくれるのだろう。
俺は.....その様に思いながら、返事を書いた。
(海は好きか)
(あまり好きじゃないね。でも.....それなりには好きかな)
(そうか)
俺は苦笑しながら画面を見つめる。
すると返信が来た。
俺はその返事に驚く。
(吉。君に相談が有る)
(おう?珍しいな。お前が相談って)
(僕は学校にゆっくりと復帰しようと思っている。それで.....僕の代わりに父さんと.....色々手続きをしてくれないか。人に会うのは苦手だから)
「.....こいつ」
少しだけ嬉しくなった。
口角を上げながら、見つめる。
そして返事を送った。
(ああ、構わない)
(有難う。優香に宜しく。じゃあ)
(ああ、じゃあな)
スマホを閉じて。
そして俺はノアを見た。
ノアは俺を見つめている。
「.....ノア。お前も協力してくれ」
「手続きだね。分かった」
「.....さて.....なかなか楽しくなってきたな」
俺は砂を蹴りながら立ち上がる。
ノアも立ち上がって、俺を柔和に見つめてくる。
吉くん、相変わらずだね人助けと。
そう、言葉を発してニコッと笑んだ。
「俺は人助けをしろと教え込まれているからな。親父に」
「.....あ、吉くん。お父さんの事.....教えてくれない?」
「.....俺の親父か?」
そう、とノアは言う。
でも無理なら大丈夫だから、とノアは手を振った。
俺は.....ノアを見ながら、顎に手を添える。
親父の全て、か。
あまりその事には触れてなかったな。
俺は.....考える。
親父、伊藤英雄(イトウヒデオ)の事を。
「.....親父は.....英雄だったよ。本当に名前の通り。俺が虐められた時も庇ってくれた.....ヒーローだった」
「.....」
改めて過去を見直すか。
親父が亡くなるまでの.....その過去を。
そして.....親父が.....居なくなってから俺はどうなったのかという事を。
☆
伊藤家に産まれた俺。
待望の赤ん坊だったと聞いた覚えが有る。
俺は長男坊だった。
そして一人っ子で.....元気一杯だった。
俺は.....そんな伊藤家で父、英雄と母、西子に育てられ。
常に宝物の様な扱いだった。
「相変わらず可愛いな、吉は!ハッハッハ!赤ん坊姿最高!」
「もう、あなた.....うるさいわよ。泣くかも知れないじゃない。」
今、その言葉を思い出す。
小学生になっても言われていたから.....思い出せる。
それからというもの、俺は.....すくすくと育ち、家では活発な男の子になった。
その頃からだっけ。
英雄、つまり親父が俺に.....ヒーローになれ、と教え込み始めたのは。
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