第七章 吉武先輩と数人の再会

第29話 吉武先輩のお誘い

山吹ノア。

俺達の大切な女の子がこの家に引っ越して来る事になった。


理由としてはノアの親父さんの心臓の手術の為に家族が外国に引っ越す為。

海外に付いて行きたく無い為、だ。

取り敢えずは一時的なお預かりという事になる。

まるで.....幼い頃にやったお泊まり会を思い出すな。


だがしかし.....。

この家には皆穂が居るのでそんなに色々と上手く行く訳が無い。

今だってそうです。

翌日の日曜日の朝っぱらから.....何だよこれ。


「.....」


「お兄ちゃん。ノアが来るからって浮かれ過ぎ」


何で俺はこんな目に遭っているのか。

起きたらこのザマってキツイわ。

俺はその様に思いながら俯く。


「.....いや、お前。それは.....無いぞ。俺は浮かれてない」


「.....そうかな?私には浮かれている様にしか見えないんだけど」


そらお前、気の所為だろ。

俺は自室の硬い床に結構来る痛みと共に正座しながら目の前の仁王にその様に話す。

ノアの事を気に掛けたらいかんって事か?

それはちょっと無理だろうよ。


女の子だから構わずには居られないだろう。

困っているんだぞ、しかも。


俺はその様に話したかったが、仁王はそうは言わせないという感じだった。

何だこれ、怖いんですがそれは。

俺は盛大に溜息を吐きながら皆穂を見る。


「.....皆穂。あのな.....ノアは傷心だ。だから気に掛ける必要が有る。お前の影響も有るから」


「.....う.....まぁそうだけど.....」


「だろ?だったらあまり文句言うな」


「.....うーん.....そうだけど.....」


俺はハァと溜息を吐いた。

その時だ。


ピコンと皆穂の携帯が音を立てた。

皆穂は?を浮かべてスマホを見つめる。

俺も首を傾げながら見つめた。


「.....吉武先輩から。.....買い物に行かないかって」


「.....うん?マジで?」


「うん。えっと.....き・ゃ・ん・せ・る.....」


「お前。オイ!?」


馬鹿野郎、何をやってんだ!

吉武先輩が折角誘って来てんのに!

何をやって.....しかもそれ、良いチャンスかも知れないんだぞ。

俺はピーンと頭に浮かべてから皆穂に言った。


「おい。皆穂。丁度良いや。ノアの品物を買いに行くぞ。吉武先輩に返事してくれ」


「え?だったら尚更行かない.....」


ドン引きすんな。

舌打ちすんな。

女の子がする事じゃ無い。


「アホ。ノアが引っ越して来るなら生活用品ぐらい必要だろ。行くぞ」


「嫌だ。何で私が.....」


お前.....頑なに拒否るな。

俺は額に手を添えながら立ち上がって皆穂のスマホを奪い取る。

そしてタカタカとキーボードをタッチして返事をした。


身長差で勝っているので皆穂の抵抗虚しくの返事だった。

皆穂は、むー!、と思いっきり眉を顰める。

それから怒った。


「何て事をするのお兄ちゃん」


「お前の治療も有る。良い機会だろうが?」


「.....しかし.....」


「しかし、何だ」


もう良い、と吐き捨てる皆穂。

何で私がノアの買い物を.....ブツクサ言い始めた。

俺は苦笑しながら.....スマホを返す。


皆穂はそれを受け取ってジト目をした。

オイオイ、と俺は言う。


「.....頼むぜ相棒」


「.....もう.....」


頼むぜ相棒じゃ無いよ、と皆穂は溜息気味に言うが。

嫌気は無さそうな.....顔を一瞬だけしたのを見た。

俺は.....少しだけ口角を上げる。

それから言葉を発した。


「.....じゃあ準備しないとな」


「.....何でこんな事に.....」


「いやいや言うな。半分はお前の為だぞ」


俺はその様に言いながら持って行く物を準備する。

ノアの為に何を買ったら良いかな。

俺は考えながら.....出て行く皆穂を見た。


「皆穂」


「.....何」


「.....お前、成長したよ。俺がそんな事をしたら怒ってたじゃんかよ」


「.....別に.....今も相当に怒っているけど」


少し恥じらいながら言う皆穂に。

いいや、お前は変わったさ、と俺は告げる。

そして.....皆穂の頭をポンポンした。

皆穂は片目を瞑って俺に噛み付く。


「子供扱いは止めて。お兄ちゃん」


「.....そうだな。でも覚えているか?昔.....お前が風邪を引いた時に.....」


「.....憶えてないから」


「.....そうかな?お前の顔、赤いけど」


そんな事無い、憶えてないってと言い張る皆穂に。

はいはい、と苦笑した。

そして俺は準備するから、と告げる。

皆穂も準備して来ると言って部屋を出た。


俺達の関係は.....本当にほつれほつれだったけど。

こんなに回復した事を嬉しく思ったりもしている。


「.....さて.....」


準備を改めてしよう。

俺はそう思って準備を開始した。



この街にはヘンテコな銅像が有る。

どっかのお偉いさんの髭面の銅像らしいが俺達にとっては待ち合わせ場所に利用するだけで特に崇めるとか無い。

その銅像の前で俺は皆穂と共に吉武先輩を待つ。

横で周りを見渡す、皆穂を見た。


「.....皆穂、そんなに心配しなくても来るって」


「いや、別に.....」


「.....やれやれ」


「そんな言葉、声に出さないでよ」


睨む皆穂に、はいはいと俺は両手を上げて答える。

悪くは思ってんだな、コイツ、ヤンデレ化した事を。

俺は.....苦笑しながら皆穂を見つめる。

すると、遠くから手を振ってきてからの、声がした。


「待ったかい?お二人さん」


「いいえ。全然」


「.....」


「.....皆穂」


少し吉武先輩は触るのに控えめの声を出す。

それはまるで.....ウサギに触れる前の様な感じで。

俺は皆穂を見る。

そんな皆穂は.....頭を下げた。


「.....少し.....頭が混乱していました。吉武先輩。今は多分、大丈夫です」


「.....そうかい?まあ.....調子が悪くなったら言ってくれよ。今日は.....皆穂と吉。君達と買い物を純粋に楽しみたいからね」


「.....ここで立ち話もなんですし、行きましょうか」


そう言った。

それから俺達は銅像の前から歩き出す。

このまま少し行った所の駅から電車に乗って。

次の街まで行ってデパートに行くのだ。

しかし.....。


「でも.....吉武先輩。何で突然、買い物.....?」


「.....そ.....それはまた後で話すよ。君達と楽しみたいだけだ」


俺は?を浮かべた。

吉武先輩の顔が赤いのだ。

林檎の様に真っ赤に。


俺は.....楽しむ以外に何か有るなと思ったが。

声には出さなかった。

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