第26話 皆穂、吉、数人

皆穂は記憶を失ってしまい。

俺だけに忠実になった。

家族すら.....敵に回している状況だ。

調和の記憶を失って.....だ。


何と言うか.....この状況は非常に良く無いと思う。

ノアも吉武先輩も.....みんな心配しているのに。

それすらも全て拒絶した。

俺にしか笑顔を見せなくなったのだ。


俺は.....そんな皆穂の周りへの笑顔を取り戻したくて、わらをもすがる思いな感じで、赤山家に来た。

5月の土曜日、部活の集会が有ったがキャンセルして、だ。

俺にはもう.....どうしようも無いと思った。


大人も信じなければ家族も信じなくて友人も信じない。

そんな状態の彼女は.....俺には手に負えない気がした。

絆が全部壊れ、俺だけを信じている。

こんな.....彼女を見続けるのは俺がキツイ。


赤山家に来た俺は.....インターフォンを押した。

横に居る皆穂と共に待つ。

すると皆穂は嬉しそうに俺の腕に絡ませてきた。


俺は.....それを待ったを掛けて止めさせる。

皆穂は?を浮かべている様に見えた。


「.....何で?」


「.....なんでじゃ無い。人前でそれは出来ないだろ」


「.....そうなのかな?」


クエスチョンマークを浮かべる、皆穂。

何だかな、知能指数も少し下がっている気がする。

俺は悲しげに思いながら返事を待つ。

すると返事より先に扉が開いた。


「.....やあ。伊藤くん.....その、大変だったね」


「.....はい」


「.....さ、上がって。二階で数人は待ってるから」


「.....はい」


皆穂の顔を見つめ、そして赤山家に入った。

それから直ぐに二階に上がって向かう。

そして.....目の前のドアを灯篭さんがノックした。


「数人。連れて来たぞ。伊藤くんだ」


俺は眉を顰めながら、目の前を見る。

そういや、この前は有った食器が無くなっている。

何処まで数人は出れているのだろうか?

その様に考えていると、数人から返事が有った。


「.....分かった。入って」


俺と灯篭さんは見つめて頷く。

そして俺は数人の部屋のドアノブに手を掛けた。


思えば、数人の部屋に入るのは初めてで有り。

そして数人の姿を見るのも.....初めてだ。

俺は.....少し緊張気味に失礼します、と言って入る。

そして見開いた。


「.....数人?」


「.....そうだけど」


部屋の中は.....片付いている様に見えながらも。

少しゴミが散乱していた。


だが、それでも綺麗な方だ。

そしてそんな部屋の奥を見ると.....美少女が立って.....え!?

こ、コイツ!?


「.....数人なのか.....!?」


「.....そうだけど。何回言うの」


「.....女の子みたい.....」


長い髪。

前髪も伸びているが、その先の顔立ちは女の子の様に小顔で。

そして.....まつ毛が長い。

更に、眉毛も細く、顔立ちが整っている。


所謂.....歌舞伎の女性役でも似合うぐらい。

女性に間違えられてもおかしく無い。


少し顔色が良く無いが、それでも.....本気で女性の様に見える。

身長も低いし、中肉だ。

と見つめていると不愉快そうな顔を数とはした。


「.....そんなにジロジロ見ないでくれるかな」


「.....あ?.....ああ.....」


「.....」


皆穂の方を静かに見る、数人。

そして.....ポケットに手を入れて長い髪を纏めて、ヘアゴムか。

ポニテに纏める。

それから.....再び皆穂を見つめた。

口が動く。


「君?.....記憶が無くなったのって」


「.....記憶は無くなってないけど.....」


「でも周りに冷たいんだよね?じゃあ意味無いよね」


「.....私はお兄ちゃんさえ居れば良いの」


それは良く無いよ、と、数人が言う。

僕を見て考えてもらえたら分かるけど、と更に言葉を綴った。

こんな引き篭もりになってしまうから止めた方が良い、とその様に話してから皆穂を見据える。

皆穂はイラっとした様だ。


「.....私のやり方が駄目って言うの。アンタ」


「そうだね。間違っていると言ってる。それから僕は.....君のやり方は気に食わない。そして.....そのやり方で僕は.....全てを失った。だから.....それで貫き通していくのなら.....止めた方が良い。それは君の身を滅ぼすから」


「.....お兄ちゃん。なんか.....イラつくんだけど」


「.....そうやって直ぐに兄に頼る姿勢も直した方が良い。それからイライラするのは別に構わない。更に言えばこれでもし手を出してしまうなら君はれっきとしたクズだね」


物凄い速さだった。

皆穂のその手が数人の襟を掴んだ。


そしてギリギリと数人の首を締める。

ちょ、ちょっと待て!

俺は仲裁に入る。


「お前.....何様だコラ!!!」


「.....僕は至って.....真面目な話をしているんだけどね。君は.....そのうち孤独になる。そのうち、周りの全てを失うだろう。そんな有様だと」


「か、数人!言い過ぎだ!」


「.....これは分かりきった未来だ。君が変わらない限りは、ね。経験上から言えるから」


不愉快そうな顔をしながら数人を睨み付けた皆穂。

そしてドンッと数人を突き飛ばした皆穂。

踵を返し、それから歩き出した。


「帰る。頭に来るし」


「お、おい皆穂.....!」


皆穂と数人を交互に見る俺。

皆穂を止めようとする。

だがそれより前にまだ言葉が続いた。

その言葉が、だ。


「逃げるのかい?」


「.....逃げている訳じゃ無い。これ以上、この場所に居たらアンタの首をヘシ折りそうだから」


「そうか。じゃあ君はまだ.....大丈夫だ」


突然、数人が率直にその言葉を言った。

は?と俺達は驚愕する。

数人は.....真顔のまま服装を整えて。

そして窓から外を見た。


「.....君はまだ帰れると思う。社会に。でもその為には努力を惜しまない様に」


「.....何でそう言い切れるんだ?数人」


「.....簡単。皆穂はまだ.....人を殺したく無いんだ。本気で、ね。それだけで十分だと思う。その気持ちが有るなら.....魂胆はクズじゃ無い」


「.....数人.....お前.....まさかその一言を聞く為にワザと挑発したのか?」


俺は驚愕の眼差しを向ける。

数人は頷きもせずの真顔のまま学習机から何かを取り出した。

そして皆穂にそれを手渡す。

それは何かと言うと。


「.....これはお守り。この近くの神社のお守り。君を守ってくれる」


「.....こんな物で.....私が変われるとでも?」


「.....君は馬鹿にするかも知れないけど、お守りは.....守るよ。色々とね」


俺は.....その姿を見ながら。

少しだけ涙が浮かんだ。

皆穂が.....拒絶しなかった.....から。

久々に涙が出てしまう。


「.....皆穂。君は.....僕の様なクズにはならない様にしないとね。君の周りには人が居る。沢山支えてくれる人が。君が分からなくても君を助けてくれる。だから今は甘えるんだ」


「.....お前.....数人.....」


皆穂を見る。

そんな皆穂はお守りを握り締めて、数人を見た。

そして呟く。


「.....私は本当に変われるのかな」


「.....そうだね。努力を惜しまない限りは」


「.....じゃあアンタも.....変われる筈だと思うけど」


「.....僕はもう無理だ。変われないから」


俺は数人を抱き締めた。

そして.....それは無い、と言う。

数人はまさかの行動に驚いていた。


「数人。お前も変われる。きっと.....変われる」


「.....僕は無理だと思う」


「いや、変われる。お前も.....ってか、変わってくれ」


「.....」


何だか.....説得される方が説得する方になっちまったな。

俺は思いながら、数人を見た。

数人は.....少し恥ずかしいのか少しだけ赤くなっている。


「.....じゃあお願いが有る。変わる為に」


「.....何だ?」


「.....君の家に行かせてほしい」


言葉に見開いた。

だけど.....。

俺は離れながら直ぐに答えを言った。


「.....何時でも歓迎するよ」


「.....有難う」


数人は柔和な顔をした。

皆穂のお陰かな、これも。

その様に思いながら、皆穂を見た。

皆穂は.....俺と数人を見ながら.....頷く。


それが嬉しかった。

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