第25話 僕が助けられたから

富山の襲撃によってショックを受けた義妹は更に欠陥の義妹になった。

簡単に言ってしまうとマジなヤンデレの義妹になってしまったのだ。

一番悲しいのは.....俺達が今まで積み重ねてきた絆が一瞬で滅茶苦茶になった事だ。


5月16日、水曜日。

一応、退院をして帰って来たが.....西子さんにも敵対している。

今の皆穂は.....俺しか、信じられない様に見える。


先に退院をして.....学校に行っていた俺は。

スマホを片手に.....自室で俯いていた。


どうしたら良いのだろうか、と。

皆穂が誰も.....信じてくれない。

俺だけではこれは解決出来ない気がする。

もう.....駄目なのかな。


「.....でも弱音は吐く訳にはいかないな。俺は強く居ないと駄目だ」


そう。

皆穂がまた優しくなったら。

戻って来れる場所を.....作るんだ。

だから.....俺は。


こんな場所で挫ける訳にはいかない。

その様に思っていると電話が掛かって来た。

俺のスマホに、だ。


「.....?.....非通知?」


所謂、公衆電話とかなどから掛かって来る様な非通知の電話。

俺は.....眉を顰めて出ようか出るまいか悩み。

取り敢えず、その非通知に出てみる事にした。


「.....もしもし?」


『.....もしもし』


「.....誰でしょうか」


『.....赤山数人。.....これは伊藤の電話で間違い無い?』


俺は.....数秒考えて見開いた。

は?!と、だ。

これは.....数人から!?

俺は思いっきり齧り付く様に言う。


「数人!?どういう事だ!」


『.....そんな大声出さないでくれるかな?君が電話番号を記した紙を栞として使っていたから.....掛けてみようかと思って掛けたけど』


「.....あー.....」


馬鹿だな俺。

その場に有った紙を栞としてラノベに挟んだの.....忘れてた。

しかしそれで数人から電話って.....。

マジで嬉しいんだが。


「.....数人。有難うな」


『.....何が』


「.....電話だよ。有難うな。嬉しい」


『.....そう』


数人がまさか電話を掛けてくれるとは思わなかった。

その様に思いながら、電話を掛ける。

すると、数人は.....何かを見ながらだろうか。

言葉を途切れ途切れに話した。


『.....要件は.....えっとね。何か誘拐事件が有って.....君、巻き込まれたらしいね。大丈夫』


「.....そう.....だが?何故知っている」


『.....僕は.....簡単に言えば.....情報源はしっかりしているからね』


「.....そうなのか」


情報源か.....。

そこだけはやはりしっかりしているな。

俺もそうだったけど。


その様に思いながら真正面の本棚を見た。

数人が話を続ける。


『.....負傷したって書いてあるぞ。大丈夫なのか』


「.....ああ。義妹だけがショックで記憶を失ったけどな」


『.....記憶?』


「.....ああ。記憶喪失ってやつだよ」


俺の言葉を聞いてから数十秒、言葉が途切れて。

そして更に数十秒経った後に突然、数人が俺に言葉を発してきた。


『.....確か、伊藤皆穂だっけ。僕の親父から聞いたけど』


「.....そうだな。よく覚えてるな。一回しかそっちに行って無いんだがな」


『.....連れて来れる?』


「.....ああ.....は?」


俺は目をパチクリした。

何?俺は見開きながら、もう一度聞く。

だが、答えは同じだった。

連れて来い?


『.....お前は僕をお前のラノベでこの一歩を踏み出すまで助けてくれた。だから今度は僕がこの部屋でお前の義妹の記憶を戻す手助けしたい』


「.....お前.....」


『.....駄目か』


「.....お前.....ごめん。涙が出てきた」


ごめん、マジで涙が出て来た。

嬉しくて仕方が無い。

そんな言葉を数人から聞けるとは思わなかったから。

だからマジで.....嬉しくて.....。


「.....数人。.....俺はもう.....だから協力してくれるか」


『.....僕に出来る事なら』


「有難うな。マジに。お前最高だよ」


希望が見えた気がした。

俺は.....絶望しか無いと思っていたのだ。

だけど.....数人が助けてくれるそうだ。

俺は涙を拭いながら、真正面の空を見た。


「.....数人」


『.....何』


「.....サンキュー」


『.....別に。お礼を言われる筋合いは無い。そもそもこれは.....引き換えと同じだから』


良いや、それでもな。

俺は嬉しいよ、と言う。

まさか.....数人の方から提案してくれるとは.....思って無かったけど。

本当に行き詰まっていたから.....。


「.....それで何時、そっちに行ったら良いかな」


『今週の土曜日はどう』


「.....そうだな。それで」


本当に問題は山積している。

だけど.....数人が協力してくれる。

それは大きな.....力になる。

俺は.....少しだけ前を見据えて歩き出せそうな気がした。

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