第23話 貝笛

俺は.....小学生の頃、絶望を見ていた。

その絶望ってのは俺を覆い尽くす程の絶望で足が竦み。

そして.....足が止まったのだ。


だから俺は引き篭もってしまった。

3ヶ月間の籠城だ。

今思えば.....情けない籠城だったと思う。

俺は.....その事を胸に今、この場所に立っている。


一か八かの戦闘だ。

目の前の.....茶色の扉を見ながら。

俺は真剣な顔で立ち尽くす。

灯篭さんが数人の部屋をノックをした。


「.....数人」


「.....」


「お前にお客さんだ。.....伊藤吉くん。同級生とお前の後輩さんだ」


「.....」


返事は、無い。

まあ当たり前だろうな。

俺もそうだったから。

俺は足元の食べ残された食器を見ながら、目の前を見る。

そしてコンコンと一回、ノックした。


「.....数人。俺は伊藤。伊藤吉って言う。.....その、何だ。俺は.....お前の気持ちが良く分かるんだ。俺も引き篭もりだったから。少し話さないか」


「.....」


「.....数人。俺は.....部員としても心配している。もし良かったら顔だけでも見せて欲しい。頼む」


そう、必死の声で呼び掛けていると。

奥の方から消え去りそうなぐらいに小さな声がした。

あまりに小さい声だ。


「.....引き篭もりって。お前も?」


扉の先から聞こえる。

どうやら数人の声らしい。

俺達は見合わせて、そして更に俺が声を上げる。


「.....ああ。俺は3ヶ月だけだが引き篭もってた。お前の気持ち、全部は分からないけど少しだけ分かる。辛いよな?痛いよな?俺は.....学校にお前を行かせる目的や、このまま連れ出そうとはしない。だけど知って欲しい。お前の事を心配している人間も.....一応は居る事を」


「.....帰ってくれ」


「.....ああ。俺達はもう帰る。だけど、もし良かったらこれだけ受け取ってくれ。俺が好きな.....ラノベだ。女の子の主人公がバイクに乗って旅するやつだ。俺は.....お前に読んで欲しい」


「.....」


言い残して俺はその本をおぼんに置いた。

それから俺は皆穂とノアに向いて。

頷いて、一階まで降りた。

駄目かも知れない。


でもやらないで駄目な状態よりかはマシな筈だ。

だから俺は.....と思ったのだ。

これで駄目なら.....別の手段を取ろう。

その様に考えて俺達は帰路に着いた。



結論から言って数人からは残念ながら何の連絡も無かった。

その為、俺は普通の5月の日々を過ごしていて赤山さん家を訪ねたりして数人とはゆっくり打ち解けていこうと決断してその思いで帰宅していた。

だが俺はまだ知らない。


事態は一変するという事を、だ。

五月の中旬。

部活を休んでこっちに来ていたので用事が有って部活に行っている皆穂に連絡したのだ.....が。


「.....皆穂?おーい」


バスを待つ中で掛けたが電話が繋がらなかったのだ。

何故か、通話拒否になっていたのだ。


どういう事なのか。

皆穂がそんな真似をするとは.....と思いながら。

俺はバスを待っていた。

すると、電話が.....掛かって来て.....。


「もしもし?皆.....」


『もしもし。吉さんですか?』


「.....お前.....誰だ?」


『初めまして。僕は富山。富山和彦と言います』


暫し考えて10秒ぐらいが経った。

富山.....?

あのストーカーか!?

何故、皆穂の電話を持っている.....!?


バスの戸が開くが.....そんな事はどうでも良い。

何が起こっている!

直ぐに電話に大声で話した。


「お前!皆穂は何処だ!何故お前が!?」


『皆穂さんなら僕の側で気を失っています』


「.....どういう意味だ.....」


『そのままの意味ですよ。皆穂さんは僕のものです』


お前.....お前!!!!?

俺は衝撃を受けて、直ぐに走り出した。

一体、何がどうなっている!

すると、メッセージが届いた。


(皆穂ちゃんが部活に来てない)


「.....ノア.....?嘘だろ.....」


『分かりましたか?皆穂さんは預かっています。それなりの事をしたら返しますから』


「.....お前!?」


電話が切れた。

何だよこれ.....マジになんだよこれ!

どうなっている!

俺は走りながら電話した。

それは警察に、だ。


「.....でもちょっと待て.....」


そもそも、何処に居るんだ?皆穂は、富山は。

俺は.....青ざめて、足が止まる。

嘘だろ.....嘘だろ!

人を誘拐なんて.....現実じゃ起こらないと思っていたのに.....!


「クソ.....!」


警察に連絡?

それとも.....と思った、その時だ。


俺は富山の後ろからピチョン、ピチョンと音。

そしてその真横、辺りからトラックの音が聞こえたのを思い出した。

確かあのトラックはかなり大きな大型トラックの音だ。


廃工場を解体する為に確か以前、雨宿りをした時に.....停まっていた.....大型トラックじゃ無いか?

じゃあまさか.....廃工場か!


「く、クソッタレ!」


俺は直ぐに電話を掛けて走り出した。

繋がらない。

つまり.....もう出る気は無いという事だ。

絶対に許さない!



この場所に来るまでに10分も掛かってしまった。

廃工場の錆び付いたドアを開ける。

そして中に入る。


間違いない、ピチョンと音がして。

そして同じトラックの音が横から聞こえる。

この場所だろう。


「皆穂!何処だ!」


返事が無い。

と言うか、暗いな。

窓が壊れているせいで.....と思って俺はスマホで照らそうとした、その時だ。

背後から思いっきり殴られた。


「ぐあ.....!?」


痛い.....!

そしてスマホが落ちて、足元に転がる。

俺も痛みにうずくまる。

なんだ今の.....!


「.....ようこそ。僕の王国に」


「.....富山.....お前.....」


「名前を何故知ってるのかはさて置き.....まぁ見掛けた限りでは貴方は邪魔ですからね。この場で殺してあげましょう」


「馬鹿なのかお前.....そんな事をしたら.....捕まるだろ.....!」


背後を見ると、富山は角材の様な物を持っていた。

それから、僕は良いんです、捕まっても.....良いんですよ。

親に裏切られ、医者になり損ねましたから。

と言葉を発する。


何を言ってんだコイツ。

そして頭おかしいのかコイツは。

もし本当に捕まったら元も子も無いだろ。

親に迷惑も掛かる!


「.....良いんです。皆穂さんさえいれば」


「.....」


マズイなこれ。

俺はその様に思いながら、倒れていると。

胸に何か当たった。

手持ちのスマホは遥か彼方に飛んで行って無い。


その中で、唯一、怯ませれる様な物が有った。

貝笛だ。

皆穂に貰った大切な宝物だ.....大切にしていたが。

まさかこんな時に使う羽目になるとは.....。


「.....じゃあ、死んで下さい」


角材を再び、富山は振り上げる。

幾ら何でも数発も脳天に食らうとマズイな。

俺はそう思って俺は息を吸い込んで思いっきりに笛を吹いた。


ピィーーーーー!!!!!


「う!?」


周りに響き渡る、貝の音。

煩さ故か。


富山に隙が出来、角材が落ちた。

俺はそれを奪って、そして.....走り出す。

皆穂を.....連れ戻す!


「待て!」


「お前の連れ去った皆穂を返してもらうぞ!」


そして腐って錆び付いた階段を上がると。

二階に.....皆穂が居た。

俺は心の底から安堵の息を漏らして。

皆穂を起こす。


「皆穂!起きろ!皆穂!」


「.....?.....お兄ちゃん?」


「起きたか.....」


「え?あれ.....何で私.....」


話は後でするからと俺は皆穂の手を引いた。

そして逃げようとした、のだが。

目の前に耳を抑えた富山が。


「.....アンタ.....何でこの場所に.....」


「.....僕は貴方が好きだ。だから誘拐したんですけど.....まさかそんな物を持っているなんて.....」


「.....皆穂.....コイツはもう頭がおかしい。本気で逃げるぞ」


「分かった.....!」


そして俺達は駆け出そうとした。

のだが、先程の.....脳への一撃が.....効いている!

俺はフラついて、地面に手を付いた。

皆穂が心配そうに見てくる。


「.....お兄ちゃん.....血が.....!」


「皆穂、すまん.....お前だけでも逃げろ。今の状況はマジでマズイ!」


「.....富山にやられたの?」


「.....そうだが.....」


皆穂は追い掛けて来る、富山に向いた。

そして.....キッと睨んだ。

何を.....する気だ!?


「アイツ.....マジに殺す!」


「皆穂.....!それは止めろ!.....そんな事をするとお前もクズになる.....!」


親父の言葉を思い出す。

人を恨んでも良いが、犯罪者になるのは駄目。

つまり、絶対に駄目だ。


今直ぐに皆穂を止めないと.....!

俺は思いながらフラつく足で立った。

そして頭を抑えながら、皆穂に近付く。


「み.....皆穂!」


「お兄ちゃん。止めないで。私は.....アイツを殺す義務が有る」


「無い.....んだ。そんなものは.....お前も.....クズになるつもりか!」


その様に頭痛を感じながら言う。

すると、富山が言葉を発した。

それも.....本望です、と。


正真正銘のクズだなと思いながら.....富山を見つめて居ると。

皆穂は勢い良く富山の首を掴んだ。

そして何をする気か、富山の持っていた角材を奪い取った。


「皆穂.....!」


「コイツさえ居なければお兄ちゃんが.....!」


「駄目だ.....!」


涙目でヤケクソになり角材を振り翳す、皆穂。

マズイ.....!

俺は直ぐに手を指し伸ばした。

そして.....。


ガッ


「.....え.....」


皆穂が呆然とする。

振りかざした角材が俺の脳天に直撃したのだ。

痛みにその場に倒れる、俺。


そしてその後、角材のダメージで、か。

皆穂は悲鳴を上げて.....それ以降の記憶が薄れて。

俺からこの件の後の記憶が無くなり。


後に知ったが、皆穂がショックでヤンデレが更に酷くなった。

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