第21話 幼馴染、赤山数人(あかやまかずと)

漫画研究部、別名、漫研。

四人の部員。


吉武先輩、小町先輩、義輝先輩と。


幽霊部員、赤山数人。


俺はその話を聞いて、少しだけ複雑な心境になった。

何故なら.....俺もその四人目の部員と同じ事を経験しているから。

と言うか、経験してしまったから。


5月9日。

この日は部活は楽しく、時間があっと言う間に過ぎて行き。

そして午後5時になってそのまま解散という形が取られた、のだが。


「すまん。忘れ物を取ってくる」


「.....え?お兄ちゃん忘れ物?」


「そうだ。済まないが、ノアと帰っててくれ」


えー、それは嫌だけど.....と言う感じの皆穂を言い聞かせ。

俺は急いで踵を返して東棟に入る。

忘れ物は無いんだ。

では何をしているのかって?


それは吉武先輩にもう少し話を聞きたいのだ。

その部員の話を、だ。

確か名前は赤山数人だったな。

俺は.....それを思い出しながら部室まで戻る。


人の気配がした。

俺はビクッとして教室の入り口の窓の側に隠れる。

すると、すすり泣く様な.....声がした。


「.....何で?何で数人.....来てくれないの.....?私、ずっと待ってるのに.....この部室を造った意味無いじゃん.....!」


吉武先輩が泣いていた。

あの強い筈の先輩が.....女の子の声で涙を流していて。

夕日に映されていた。

俺は.....複雑な思いを抱いて、今日は止めておこうと思って。

去ろうとした、のだが。


ガシャン!


「だ、誰!?」


蹴っ飛ばしてしまった。

それも掃除用具を。

何でだよ、と思いながら俺は頭に手を添えて悪態を吐いて教室に入る。

そして吉武先輩を見た。

胸に写真立てを押し付けている。


「.....あ、ああ。君か.....どうしたの?」


「忘れ物を取りに来たんです」


その様に告白しながら。

俺は探すフリをする。

だが、吉武先輩は忘れ物を取りに帰ってきた、のでは無いと見抜いたのか、俺に話してきた。


「.....もしかして.....聞いてた?」


ビクッとした。

だけど、俺はここで隠すのはマズイかと思って正直に言う。

そして吉武先輩を見た。


「.....すいません。隠しません。聞いてました」


「.....そうなんだね」


「.....はい」


吉武先輩は写真立てを置く。

その写真立ての写真をなぞってから俺に向いてきた。

そして笑みを見せる。


「.....別に構わないかな。話してあげよう。数人の事を」


「.....何で俺だけ良いんですか」


「.....君の目は.....数人に似ている」


言葉を受けてから俺は数秒。

そして.....吉武先輩に聞いた。

その数人という、恐らく吉武先輩にとっては大切な人を。


「.....大切な人なんですね」


「.....そうだね。数人は.....私の幼馴染だ」


率直に吉武先輩は俺に告げた。

俺は少しだけ.....複雑な思いを抱きながら吉武先輩の話を聞く。

吉武先輩は外を見た。


「.....コーヒーでも淹れてあげよう」


「良いです。大丈夫です。そもそも吉武先輩は先輩ですよ」


それもそうかと自嘲的に笑む、吉武先輩。

俺は.....荷物を椅子に置いた。

そして.....意を決して聞いてみる。


「この部活は数人.....くんの為に造ったんですね」


「.....そうだね。数人が少しでも顔を向けてくれるかと思って造った。でも世の中はそうは上手く行かないな。ハハッ」


「.....実は.....俺も引き篭もりでした」


その様に告げると吉武先輩は、やはりか、と言った。

そして俺を見てくる。

俺はその行動を見ながら、外を見遣った。


「.....俺は.....親父が亡くなって.....イジメられました。親の居ない子だーとか言われました。それで.....3ヶ月、鬱になって引き篭もりました」


その言葉に吉武先輩は見開いた。

そしてバツが悪そうな感じで俺を見てくる。

複雑な面持ちだ。


「.....君の親父さんは.....何かご病気で.....」


「違います。車に.....跳ねて轢き逃げされました」


「.....!」


「でも、俺は今、この場に居ます」


俺の有りのままを伝えた。

その言葉に.....俯く、吉武先輩。

そして.....涙声で話し始めた。


「.....どうやら君なら大丈夫そうだな。実はな。数人は.....私をイジメから守って.....傷付いて.....引き篭もって居る」


声が更に震える。

俺は.....その様子をジッと見る。

一言も逃さない様な新聞記者の様に。


「.....数人の事が.....心配で仕方が無くて.....家に行っても会えないし.....もうどうしたら良いの?私.....」


女の子の本音が出た気がした。

声が女の子の喋り方だ。

喋り方が壊れて居る。

俺は.....その思いを胸に吉武先輩に向いた。


「.....吉武先輩」


「.....何だい?」


「.....俺、数人くん.....いや。数人に会いたいです」


どうしても。

俺は数人を.....見放せなかった。

そんな気がする。

しかし、吉武先輩は首を横に振った。


「.....無理だよ。.....数人のご両親、引きもり支援の方ですら数人に全く会えないんだから.....」


「.....」


どうしたら良いのだろうか。

俺はそう、考えて居ると。

背後から.....その声がした。


「じゃあ私達も行きます」


ノアと皆穂だった。

俺の事を心配して戻ってきた様だが。

聞いていたのか?

吉武先輩も驚愕する。


「.....お前ら戻って来たのか?」


「.....うん。お兄ちゃん」


「最後ら辺を聞いていたよ」


吉武先輩はグスッと鼻をすする。

すると、皆穂が.....そんな吉武先輩に手を指し伸ばした。

そして笑顔を見せる。


「私を拾ってくれた.....吉武先輩。私が今度は恩返しがしたいです」


「.....皆穂.....?」


吉武先輩はそう言って立ち上がった。

そして俺達を見る。

俺達は顔を見合わせて、頷いた。


「俺達ならやれます。数人を救えると思いますから」


「.....なんでそこまでしてくれるんだい.....」


「.....数人を見捨てれないからです」


吉武先輩は言葉に。

涙を流して、嗚咽を漏らした。

俺は.....その様子を見つめながらノアと皆穂に向く。


「.....良いのか?」


「.....良いよ。だってお兄ちゃんが救いたいんでしょ?」


「.....そうだよ。吉くん」


なんかもう。

本当に成長したな、コイツら。


俺は笑みを浮かべて思いながら、吉武先輩を見た。

暫く涙を流していたが、やがて意を決して。

俺達に数人の住所を教えてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る