第三章 俺と親父、京子と皆穂

第17話 親父の言葉

俺と皆穂はそのまま混浴になり.....朝風呂がハイパー暑くなり。

そして俺達は茹だった蛸の様に静かに帰って来た。

それからノアにお説教を食らったのは言うまでも無い。

何でこんな事になるのやら.....。


その様に思いながら時間は少し経ち、そのまま帰宅する事になった。

静かにフロントへ向かい俺は手続きをする。

その間に昨日の事を思い出した。


『私.....お母さんに会いたい.....から.....あんな酷くても!』


「.....もっと強くならないとな」


そう思いながら俺は.....フロントのお姉さんに挨拶をして。

フロントの休憩所までやって来た。

その場所でノアと皆穂はトランプをしていた。

俺を見てから直ぐに皆穂が反応する。


「お兄ちゃん」


「.....よお。ババ抜きか?」


「そうだよ。吉くん」


「.....因みに景品とか有るのか?」


うーん、それは考えて無かった。

とノアは言う。

すると、皆穂がピーンと来た様にニヤッとした。

そして俺を、ノアを見る。


「.....景品は有るよ。お兄ちゃんの貸し出し権」


「.....は!?」


俺は目を丸くした。

その中でノアが直ぐに乗ってくる。

俺を見ながら真剣な顔になる。


「.....それは吉くんを一日、貸し出せるって事?」


「そう。それも誰も邪魔しないって事」


「.....お前ら.....」


それが景品でも良いけど。

皆穂とノアしか意味無いだろそれ。

俺は盛大に溜息を吐いた。

すると、皆穂が俺に向いてニコッとする。

な、何ですか。


「.....でもこれだとお兄ちゃんだけ省かれる事になるよね。だから景品をもう一つ用意するよ」


「もう一つ?」


「.....そう。それはデート権」


「.....同じじゃねーか.....」


その言葉を皮切りに。

皆穂とノアの目が.....変わった。

凄まじい目付きになっている。

俺はハァと言いながら。


「.....もう勝手にしてくれ.....あ、でも.....思ったけどよ、それで母の日を買いに行ったら良いんじゃ無いか?」


「うん。それも考えて、ね」


「.....そうなんだ。.....じゃあ.....早く始めようよ」


「.....そうだな。ノア」


こうして。

俺をめぐってバトルが始まった。

そして勝ったのは.....。



「こうしてお前と来る事になるとはな」


「.....そうだね。お兄ちゃん」


勝者は皆穂で。

翌日、俺は皆穂とデート(仮)をしていた。

墓地に入り、目の前に墓が有る。

見晴らしのいい高台の、だ。

これは.....俺の親父の墓だ。


「.....やっと来れました。.....そして.....御免なさい。母が.....本当に.....」


目の前の墓に手を合わせながら号泣し始める、皆穂。

俺は.....その様子をポケットに手を突っ込みながら見る。

そして.....居ると横でカタンと音がした。


「.....?.....!?」


「.....お.....お母さん!?」


水桶を落とす、皆穂の母親。

改めて見ると本当に皆穂にそっくりだ。

皆穂は.....母親似だったんだな。


白髪に黒髪。

そして.....顔立ちは整っていて美人だ。

喪服の様な服を身に付けて。

俺達の前に現れた。


俺を、皆穂を見つめる、皆穂の母親。

驚愕しながら、だ。

目に涙を浮かべている。


「.....ど、どういう事.....」


「それはこっちのセリフ.....何で.....この場所に居るの?」


「.....」


俺は少し予想していた様に動く。

何故そんな反応が出来るかと言われたら。

由紀治さんから聞いていたが、俺の親父の墓参りを毎日しているそうだ。

だからこの時間なら会えると思ったから。


「.....京子さん」


「.....貴方.....もしかして.....伊藤.....くん?」


「.....そうです。息子です」


「.....そんなに大きくなったのね.....」


私は.....。

と話を途切らせがちで。

そして京子は涙を流し始めた。

俺は.....その姿を見ながら、更に話を続ける。


「.....京子さん。実は皆穂は.....貴方に会いたかったそうです。その為に今日、俺は由紀治さんと話し合って計画して来ました」


「は!?お、お兄ちゃん!?どういう.....意味!?」


「.....え」


俺は墓を見て、そして彼方を見た。

それから.....もう一度、京子を見つめる。

そして俺は真剣な顔で言った。


「.....申し訳無いですが確かに貴方のやった事を死んでも許せないと思います。.....でもそれで娘が.....悲劇の人になる事は無い。せめてもの罪滅ぼし.....で精一杯、皆穂を愛して下さい。それが俺と親父の.....京子さんへのお願いです」


「.....何で.....そんな.....」


「.....俺ももう子供じゃ無い。だから.....恨むのを.....矛先を考えました。だからお願いします」


「.....」


京子さんは膝を崩した。

そして地面に向かって大粒の涙を落とす。

俺は.....それを静かに見ながら。


墓をもう一度見て、親父。これで良いんだよな。

そう、言葉を思い浮かべた。

親父は言ったのだ。


『人を何時迄も恨むのは間違いでは無い。しかしそれで周りの人を同じ様に何時迄も恨むのは間違っている。よく考えてみろ。良いか?ガッハッハ!』


なんでアンタは何時もそんな気楽なんだろうか。

俺は何時も不思議に思っていて。

でも、アンタが亡くなって.....ようやっと分かった気がした。

そうなんだなって。


「.....お母さん.....」


「.....御免なさい.....御免なさい.....」


俺は京子を見つめる。

虐待も轢き逃げも。

やった事はやった事だ。


これから先も絶対にそれは.....やり直せない。

でも.....清算は出来る筈だ。

人は変われる筈だ。

俺はただひたすらにそう、思った。

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