第13話 ファーストキス

さて、簡単に言ってゴールデンウィークとは。

端的に言うと、金色の休みという意味だ。

まあ、誰だって分かるか。


旅券の話を聞いた五月一日。

五月二日からこれまた簡単に日が過ぎて行き。

俺達が旅行に出掛ける日になった。


ああ因みにノアは是非是非と付いて来た。

皆穂は嫌な顔をしていたが、良いだろうと説得し。

とりま、今の状況に至る。

そう、えっとだな。


「お兄ちゃんは私の部屋に泊まるから」


「吉くんを皆穂ちゃんの部屋に!?それは不潔だと思うよ!私の部屋でも良いじゃ無い!私は何もしないし!」


「不潔ってどういう事.....ノア?」


部屋割りで揉めて居た。

皆穂.....ノア、お前ら。

何で何処でも此処でも争うんだお前ら。

電車の中で、その様に思いながら盛大に溜息を吐いてそして額に手を添えた。


男女の為にという事か?何故か二部屋になっているのでそれで争いが始まったのだ。

俺は.....盛大に溜息を吐いて、そして周りを見ていた。

これ以上、騒ぎになったら追い出される。


「ノア。皆穂。行ってから決めようぜ。電車から追い出されるぞマジで」


「まぁ.....そうだけど.....」


「そうだね.....お兄ちゃん.....」


ようやっと落ち着いた二人。

しかしながら何でノアはこんなにムキになっているのだ。

そのツッコミは前もしたと思うのだが。

確か、コイツは俺の事をそんなに想って無い筈だろ。


「.....スルメ食うか?」


「そうだね。お兄ちゃん」


「あ、私にも」


イカを食いながら外の景色を見る。

うーむ、あと二駅で到着か。

俺は良い景色だなー、と思いつつ見ていると。

ポコンと音がした。


「.....?」


ノアからのメッセージ。

は?ノア?

俺は???を浮かべながら目の前のノアを見て直ぐに開く。

そこには、こう書かれていた。


(吉くん。後でお話が有ります)


「.....?」


俺はもう一度、ノアを見る。

お話って今じゃ駄目なのか?とメッセージを送った。

しかし、直ぐに帰って来たメッセージはこう書かれていて。


(駄目。後で)


と、だ。

俺はもう一度???を浮かべて眉を顰めた。

何でだよ。


「.....何だよ.....」


目の前のノアは少し紅潮している様に見えた。

俺は?を浮かべながら、スマホを仕舞う。

その時、またポコンと鳴った。

何だよ!?


「.....?」


(お兄ちゃん。この旅行中で話が有るから)


「.....」


あのなお前ら.....と思いながら皆穂を俺は見つめる。

皆穂も紅潮していた。

いや、割と何だよこれ?

誕生日の祝いとかそんなもん?

違うよね?ノアと皆穂だし。


「.....」


謎が謎を呼ぶ感じだ。

皆穂とノアを見つつ俺は?を浮かべながら。


そのまま俺達は旅館に行った。

しかし、実は俺はまだ知らなかった。

これが.....ノアと皆穂と俺にとって。

最大の分岐点になるという事に、だ。



「綺麗な部屋だね」


「.....そうだな」


旅館に着いた。

布団式の所謂、昔風の旅館。

部屋は.....畳とか襖が有るそんな部屋だ。


俺は荷物を置きながら、はしゃぐ二人を見ながら。

色々な物が有る周りを見た。

良い旅館だな、景色も良いと思う。


「.....皆穂。ノア。この後.....どうするんだ?」


「この辺りで射的とか出来る場所が有るらしいよ」


「そうだね。皆穂ちゃん」


ああ、そうなの。

しっかり調べてらっしゃいますね。

俺は思いながら、ノアを見た。

ノアは俺を見て、ビクッとして目を逸らす。

何だ?


「.....まぁ良いや、射的に行こうか」


「.....お兄ちゃん、トイレ行きたく無い?」


「.....あ?トイレ?行きたく無.....」


「行きたく無い???」


猛烈なレイプ目で俺を見てくる、皆穂。

ちょ、え?何だよ!?

俺は動揺しながら居ると、皆穂に手を掴まれた。

そして歩き出そうとしたのを。

ノアが止めた。


「何処に行くの?二人共」


「ノア、トイレだから」


「.....本当に?」


「そう、ね?お兄ちゃん.....?」


そんな目で見ないで下さい。

怖いんですけど?俺はそう思いつつ、頷いた。

ノアは俺の様子にフーンと少し怪しげな声を出しながらも。

じゃあ、待っているね、と言った。


「.....じゃあさっさと行くよ。お兄ちゃん」


「わ、分かりました」


そして俺達は旅館のトイレにむか.....わ無かった。

では俺は何処に連れて行かれたか。

それは.....紅葉の木の有る場所、旅館の外の裏側辺りか。

無数の葉が俺達を誘っている場所だった。



紅葉とか何らかの木が有る、風景の良い場所。

丘の様な場所に来た。

俺は周りを見ながら眉を顰めつつ皆穂に話す。

何でこの場所に連れて来たんだ?


「おいおい。こんな場所に連れて来る意味が分からないんだが.....」


「.....ね。お兄ちゃん」


「何だ」


「.....私、酷い事をしたよね何年も」


その様に呟く、皆穂。

いきなり何だ。

俺は首を傾げながら、目の前に銀髪を靡かせながら後ろに手を回して立っている皆穂を見た。


その姿としては丘の下を見ている感じだ。

真正面を見ている表情は窺い知れない。

俺は空を見上げて、言った。


「.....3年近くか?でも.....気にして無いぞ」


「.....ううん。私は気になった。だって.....私がお兄ちゃんに構って欲しくて、好きになって欲しくてやっていた行動だったから」


「.....え?」


俺は衝撃を受けた。

ちょっと待て。

じゃあ、今までの行動ってまさかコイツが構って欲しくてやっていたのか?!

俺は見開きながら、皆穂を見る。

皆穂は前を見たままだ。


「皆穂?何故それを?」


「.....決まっているじゃん?何故って.....私、お兄ちゃんが大好きなの」


「.....?!」


皆穂はようやっとこっちを見た。

その目は.....優しげに俺を見ている。

何だ.....って?

少しだけ察していたけどマジで?

好きだからやっていたのか!?

皆穂は此方に歩いて来ながらやがて通り過ぎた。


「.....でもね、この恋は叶っちゃ駄目って思ったの」


「.....何でだ」


「.....だって.....」


グジュッと音がしての涙声。

俺はその声を聞きながら真正面を見る。

青い空が見えた。

そんな中で皆穂は言葉を発する。


「.....お兄ちゃんのお父さんを轢き殺したんだよ?私のお母さん。しかも轢き逃げって.....それでその相手に恋をするっておかしいでしょ?世間は許さないと思う」


「.....」


「.....でも抑えられない気持ちが有る。ノアに出会って焦っていたの。だから.....私はこの気持ちを伝えたいって思った。大好きなお兄ちゃんに.....伝えようって。駄目でも。この見晴らしの良い場所に来れる旅行で決意したの」


「.....」


俯く、俺。

生まれて初めて.....しかも美少女の女の子に告白された。

正直、滅茶苦茶に衝撃だ。


俺は.....好かれる様な人間では無い。

そもそも俺は.....人嫌いが激しいから。

親父の様になれない最低だから.....今は.....


「.....皆穂。俺は.....お前の気持ちに答えれない。ごめんな」


「.....うん。分かってる。あ、お兄ちゃん!足元のこの紅葉、綺麗だよ」


突然切り替わった話に俺は、え?、と言って振り返る。

足元を見ようとした。


しかし、次の瞬間。

俺の唇に皆穂の唇が重なった。

それは.....かなり衝撃的で。

そして俺にとって.....忘れられないキスとなった。


それを歓迎する様に風が吹き。

それを歓迎する様に葉が舞う。

それを歓迎する様に花びらが舞った。

俺は.....この日をきっと忘れない。


「.....えへへ。ファーストキスだよ」


「.....!.....?」


「.....お兄ちゃん。大好き」


皆穂は笑顔で俺を見る。

そんな俺は、と言うと、口元を抑えながら。

俺は衝撃に衝撃を受けていた。

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