第10話 皆穂とノア

伊藤皆穂。

俺の義妹で有る。

そんな皆穂には.....俺すらも知らなかった過去が有った。


それは.....小学校時代、クラスメイトからイジメられていた過去だ。

それを知る事になったのは.....その小学校時代のイジメに火を点けてしまった女の子だった。


名前を山吹ノアと言う。

ノアと皆穂は.....幼馴染だったらしい。

その為、信頼し有った関係だった様だ。

だが有る日、とある相談がきっかけで全てが崩れ去った。


俺は今、複雑な思いで逃げている皆穂を追い掛ける。

あの野郎.....こんなに体力が有るとは.....!

俺が息切れするぐらいだぞ。

信じられない。


何故、複雑な思いかと言うと。

このまま皆穂がこのままでも良いと思う悪い堕天使が俺の頭を過っているのだ。

そう、苦しめば良いと。

俺の親父を殺した犯人の娘なのだから、と。


でも本当にそうか?

親父はきっと.....違うって言うだろ。

今の状況とそれは。

だから俺は.....追っていた。


皆穂ともう一度、話がしたい!

そう、思いながら、だ。

しかし早い!


「皆穂!止まれ!!!」


「.....嫌だ」


「皆穂!」


「嫌だって!私は嫌だ!」


くそう。

このままではこっちが息切れ.....と思っていた時だ。

皆穂が人に打つかって転けて倒れた。

俺はこれはチャンスだと思って直ぐに皆穂の手を掴む。


直後、背後から息切れしたノアがやって来た。

俺を複雑そうに見ている。

そんなノアを見てから俺は皆穂を見た。

そして優しく言う。


「.....皆穂」


「.....何」


「.....怪我は無いか?」


「.....別に。離してよ」


このまま離す訳にはいかない。

俺は.....そう思いながら、皆穂を見てからノアを見る。

そうしていると周りに人だかりが出来ていっていた。

しかも.....曇ってきている。


コンディションが最悪だ.....が。

今はそんな事はどうだって良い。

暴れる、皆穂。


「.....離してよ.....お兄ちゃん」


「駄目っつったらどうなる」


「離して!!!私は.....!!!」


その次の瞬間。

俺は見開く事になる。

何故かと言われたら、皆穂は泣いていた。

有り得ない.....状態だ。


「私は.....悲しかった!!!本当に悲しかったのに!!!ノアが.....裏切った!」


「私.....私は.....」


「本当に親友として.....アンタは数少ない友人だった.....幼馴染だった.....でも!嫌いだ!嫌いだ.....嫌いだ!!!」


「.....」


俺は複雑な思いで見つめる。

涙を流す、皆穂。

同じ様に泣く、ノア。

俺は.....ただ、複雑な思いで見つめていると。


ノアが何か鞄の中から取り出した。

皆穂が顔を上げる。


「.....!.....それ.....」


「覚えてる?これ.....小学校1年生の時、プラスチックの.....板をオーブントースターで.....焼いて作った.....お揃いで作ったの.....」


「.....そんな昔の物を.....まだ持っていたの。アンタ」


「.....皆穂ちゃん。3年の時に.....貴方が転学する時に.....何も言えなかった事を言うよ?聞いて.....お願い」


皆穂は一瞬だけ複雑そうな顔を見せた。

それを見ながら息を吸ってノアは決心した様に話す。

その一言を、だ。


「.....私は貴方が好きでした」


「.....ノア.....」


俺は皆穂を見る。

皆穂はグスッて言いながら、怒った。

ノアに向いて対峙する。


「.....それで。それでなんなの。それでも私は許さないから」


「.....私は.....皆穂ちゃん。貴方が心配だった。心の底から」


「.....だから?」


「私は.....どうしてもお友達になりたい。皆穂ちゃんと」


俺は空を見る。

だんだんと雲が多くなって来た。


それから野次馬が多い。

どうにかしないといけない.....と思っていると。

皆穂が.....何か一歩、踏み出した。


「.....?」


「.....」


無言で、手を振り上げた。

まさかコイツ!


と思って俺は直ぐに止めようとした矢先だ。

目を閉じていたノアに。

皆穂は.....手を下ろして抱き締めた。


「.....皆穂.....ちゃん?」


「.....私は.....ノア。アンタがやっぱり嫌い。.....だけど.....伝わって来た。アンタの思いが、全てが。だから.....考えを少し変えようと思う」


「.....それって.....」


「友達から.....やり直して。そして.....悔い改めて」


何故か周りの全く関係無い野次馬がピーッと音を鳴らしたり喜んだりした。

もっと驚愕だったのは.....空が。

空が晴れてきた事だ。

分厚い雲から日差しが差し込んできた。


俺は.....見開きながら見つめる。

ノアはセットしていただろう髪がグシャグシャになるまで号泣していた。

そして.....それを皆穂が受け止めて。

アンタ本当によく泣くわね、と言っていた。


「.....親父」


まさかと思うがこれはアンタのお陰なのか?

俺は.....少しだけ複雑に思いながら。

空の彼方を見つめ。

そして.....少しだけ笑みを浮かべる。


「.....お兄ちゃん」


「.....何だ」


「.....有難うね」


「.....何もしてない。お前が.....解決した」


そうだ。

俺は何もして無い。

コイツらが勝手に解決したのだ。

俺はただ追っただけ。


でも、本当に良かったと。

そうノアと皆穂を見ながら、思った。

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