第3話 歪な世界

「早くお醤油を取って来て。遅刻する」


「.....」


相変わらず.....だな、と思うその日。

俺は皆穂の命令に素直に従い醤油を取って来た。

しかし.....何だろうな.....本当に複雑だ。


正確には.....恐怖に思っていると言えるかも知れない。

性格が歪んでいる野郎が目の前に居るという事に、だ。

俺は汗を吹き出しながら皆穂を見つめる。

このままでは.....昔の事がとも思った。


すると醤油を貰った皆穂が自らを見ている俺に眉を顰める。

本気でキモいという感じの顔で、だ。

すると、本当にそう言ってきた。


「.....あの、キモいんだけど」


「.....何でも無い。すまん」


そんな顔しなくても良いじゃ無いかと思うが。

家族全員で鯖を食べながら食卓を囲む。

目の前の由紀治さんが俺の顔に暑い?と問いかけてきた。


優しく俺に接してくれて、おこづかいもかなりくれる由紀治さん。

容姿も皆穂が娘として生まれただけにイケメンで有る。

外国人のハーフの様にも見えなくも無い、無精髭が合い、黒髪の短髪が良く似合い、身長が俺より10センチ高い中肉の柔和な顔の男性。


俺に対して優しく微笑む。

暑いって訳じゃ無いんですが.....と思いながら俺は由紀治さんを見た。

一瞬、皆穂の事を言おうかと思ったが。

首を振って、言葉を発する。


「.....いや、暑い訳じゃ無いです」


「うん?じゃあもしかして.....風邪かい!?」


「.....いや.....違います!本当に.....大丈夫です!」


慌てる由紀治さんは、そ、そうかい?と言って慌てるのを止めた。

俺は本当に由紀治さんは優しいな、と思いつつ笑みながら慌てるのを止めたのを確認して椅子に腰掛けた。


しかし.....確かに.....駄目だな。

何つうかまるで食欲が無い。

本当にヤバい感じがするぐらいに。

昔の事が.....気になるし。

今の事が気になる。


また皆穂があの時みたいに.....。

そう思うと.....冷や汗が止まらなかった。

これから.....何をされるか分からないという気持ち悪さが有る。


俺はふと視線を感じてハッとして横を見る。

皆穂が俺を射抜く感じで見ていた。

その視線にビクッとする俺。


そして更に萎縮した。

すると皆穂は首を傾げて話す。

俺に対して、だ。


「.....どうしたの?」


いや、何て言うか.....全てお前のせいだけどな。

俺はその様に思いながらも絶対に口に出さなかった。

このまま話しても.....と思う。


昔の事が絡んでいるなら尚更だ。

あの事は.....目の前の二人に言ってないし。

味噌汁を飲んでいた母さんが味噌汁を置いて、クエスチョンマークを浮かべた様に聞いてきた。


「どうしたの?吉。何だか顔色が.....」


「.....何でも無いよ、母さん。大丈夫だから」


そう?だったら良いんだけど.....と心配そうな声をあげる母さん。

俺の母親で最も頼れる人、伊藤西子(イトウニシコ)。

とてもとても俺を大切にしてくれて優しく接してくれる母さんだ。

時折は厳しく、時折には甘い。

所謂、飴と鞭の様な。


俺にとってもしかしたら最後の.....親族と言えるかも知れない。

爺ちゃんも婆ちゃんも死んだから。

親戚も居ないし、だ。


ただよく考えたらそれは母型の方だ。

父型の父親の両親とは今も会えてないから分からない。

生きているかもどうかも分からない。

父さんの死に悲観して.....会えてないから。


つまりを言えば、母さんは女神の様な俺の最後の親族の存在なのだ。

顔立ちは俺と同じ様な目と口と鼻で何と言うか顔立ちが整っている訳じゃ無い。

だけどそれなりに美人で有り、更に言えば身長も165センチ有る。

つまり、普通に考えたら身長が高い。

全てが俺に似ている。


そんな母さんと話しながら、横の皆穂を見た。

パクパクと遅刻しないようにする為かご飯を食べている。

取り敢えずは.....今は何も察されて無い様だ。

盛大に溜息を吐いて、俺も箸を取る。

そしてご飯を食べようとした、のだが。


「.....ん?あ、胡椒」


「.....何だそれは。台所から取って来いってか?」


「そうだね。うん」


いや.....オイ。

せっかく箸を取ったってのに。

俺は取り敢えず、胡椒をそのまま取りに行こうとした。


その際に皆穂が更に付け加える様に俺の袖を掴んだ。

それから歯切れの悪い様に言う。

まるで.....咀嚼出来てない食べ物を吐き出す様に。


「.....あのさ」


「.....何だ」


「.....今日.....いや、やっぱ良い。.....何でも無い」


俺は首を傾げてから。

胡椒を取りに行く。

由紀治さんと母さんがゴメンね、と言う中で。


しかし.....辛めが好きなのは分かるが.....味噌汁に胡椒ってのもな。

かなりおかしいと思うんだが.....。

そう思いながら戻ると。

皆穂は俺を見ていた。


「.....ん?どうした?」


「.....大丈夫だから」


「.....ああ。成る程」


言い忘れていたが皆穂は母さんとの仲がイマイチだ。

正確に言えば.....何だろうか。

恥ずかしいのかって感じだが。


母さんが攻めて、皆穂は後退、と、日々そんな感じだ。

俺は胡椒を持って来てから皆穂に渡してそのまま椅子に腰掛ける。

それから考えてみる、今日、か。

その様に考えていると皆穂が俺に向いてお礼を言った。


「有難う」


「.....」


皆穂は、何?、と言いながら俺を見る。

珍しい事も有るんだな、と思う。

お礼を言うタイプじゃ無いのだ、コイツは。

しかしこれも何か有るのだろうかと思ってしまうのは.....駄目だと思うんだけど思ってしまうなマジに。


ってか、それはそうと遅刻するな。

早く食わないと.....。

俺は思いながら飯をかき込む。

そして立ち上がってそのまま玄関に向かった。



この家の中は.....何が有るかは分からないと言える。

いや、言い切って良いと思う。

皆穂がもしかしたら.....何かを仕掛けているかも知れないから。

昔もそうだった.....気がする。


多分無いとは思うけど。

どうもそう思わないと.....気が済まない。

俺はその様に思いながら窓から外を見た。

そして皆穂が来た夜中を思い出す。


『これで完成』


何だろうか、あの言葉は。

俺は教科書を見つめそして勉強をする。

卓上ライトで机の上を照らしながら、だ。

皆穂は本当に昔に戻ってしまったのか.....?


『私は何も知らないからね。お兄ちゃん.....?』


俺が引き篭もって.....そして殺人事件が頻発した、あの時みたいに。

因みにこの日は時間があっという間に過ぎていき、時刻は午後8時となった。

盗撮で済んでいれば良いが。

何と言うか.....あまり考えたく無い。

あの事件はもしかしたら.....皆穂が関わっている可能性が有るから、だ。


俺は思いながらノートを見る。

なんか.....数式が間違っていた。

何だこれは、俺とした事が.....間違っているなんて。

計算ミスか.....?


「.....間違えたな.....」


公式に背いた数式を書いて計算してしまった様だ。

俺は直ぐに訂正をして数式を改めて書く。

その際に扉にノックが有った。

俺はビックリしながら返事をする。


「.....は.....い?」


「私だけど。ってか.....何よその変な声」


「.....良いだろ.....ってか何だよ」


その様な返事を発すると。

ガチャッと扉が開いて皆穂が入って来た。

銀髪をポニテにして腰に手を当てている皆穂が俺を見てくる。

何だコイツ、最近良く来るな.....夜中と良い。


俺は回転式の椅子を後ろに回転させて皆穂を見る。

少しだけ汗を浮かべながら、だ。

それから皆穂に.....聞いた。


「.....何だ」


「アンタ、最近、調子悪そうだから来たんだけど」


目が点になった。

明日、嵐になる気が.....。

そんな言葉を言ってくるとは夢にも思って無かった。

俺は見開きながら答える。


「お前.....どうした?そんなことを言うなんて」


「.....失礼ね.....私だって心配するわよ。.....アンタは仮にも家族なんだから。何だと思ってんの」


言いながら髪をなびかせた。

ミルクの香りに.....女の子の香りが混じる。

コイツは義妹だから香りに注目しても問題は無いとは思う。

だが.....。


深夜の事と良い、あまり良い気になれない。

俺はポニテを弄っている皆穂を見続ける。

皆穂は俺の視線に少しだけきもいという感じで身を隠す仕草を取ってから。

俺にこの様に言葉を発した。


「.....仮にも下僕だし」


「.....何だよそれ。ってか、下僕かよ」


俺は溜息を吐く。

それから皆穂と俺の間に少し間が空く。

何だか.....本当に居心地が悪い。

一体、どうしたら良いのだろう俺は?


どんな言葉を掛けたら.....。

と思っていると俺の目線に皆穂は溜息を吐いてから。

まぁ良いやと言ってドアノブに手を掛ける。

そして俺に笑みを浮かべて見てきた。


「とりま、元気そうだし.....帰るから」


「.....ああ.....そうだな。俺は勉強すっから」


そうなんだね。

じゃあ、ガリ勉君、さよならと言って皆穂は自室に帰って行く。

俺は深呼吸して息を詰まらせていたかの様に盛大に息を吐いてそして自室の扉を見つめる。


すまないとは思う。

だけど確認したいのも有り。

そして俺の不安を取り除きたい。

疑いの目を晴らしたい。

その為にはもう.....あの方法しか無いな。


「.....また入るか」


マ○システムだろうが○ビラシステムだろうが。

何が有るかは分からないが、皆穂の部屋に入らないといけないだろう。

とにかく真相を確かめないといけないな。

じゃ無いと何だか.....眠れないし.....そして.....。

このままでは皆穂の.....。


「.....為にならない」


そう思ったから。

天井を見上げて俺は目を閉じて椅子を回転させてそしてシャーペンを握って勉強を再開した。

とにかく宿題して状況を考えよう。

一先ずは.....落ち着こう。



翌日の事で有る。

また生徒会の会議という事で皆穂は帰りが遅くなるその日。

皆穂の部屋に静かに入っている俺。

取り敢えずは.....何でも良い。

探すんだ。


しかしこれをするとはつまり。

何が有るかは分からない事を意味している。

相当な危険が有るかも知れないのだ。

取り敢えずは早急に動かなければと思いながら改めて本棚を見た。

前と何ら変わらない本棚。


以前、漁っても何も出て来なかったが。

イかれた様な本とかも無いし。

その様に思い俺は漁りながら.....またもや溜息を吐いた。

何も出て来なかったから、だ。

しかし俺は?を浮かべた。


「.....ん?」


本棚の奥の板が外れている。

俺は眉を顰めて首を傾げてそのままその外れた板をバキッと外す。

すると、一冊の赤い本が出て来た。

真っ赤な本。


何だこれは?

これまでで見た事が無いんだが.....。

赤の表紙に.....金箔が押した感じで字があしらわれている。

血液でも.....飛び散らせた様に赤い。

俺はゴクッと息を飲む。


「.....日記か?」


しかし何にせよ.....これは新発見だな。

こんな場所にこれを隠す日記って流石に.....気になる。

俺はその様に思いつつ板を置いてから。

皆穂の顔を考える。


「.....南無三!」


もうどうにでもなれと思いながら読んだ。

その内容に俺は動きを止める。

というか.....書かれているのが.....余りにアレだった。


(お兄ちゃんは.....誰にも渡さない。お兄ちゃんは.....私だけを見ていれば良い。お兄ちゃんは私だけのもの。お兄ちゃんは.....そう、私に愛される為に!)


「.....へ?」


その様な掠れた声しか出なかった。

一気に青ざめる。

何だこの赤のペンで書き殴った様な文章は?


まさか.....本当に.....!?

俺はゆっくり冷や汗を拭いながら読み進めた。

そこには皆穂の性格が記載されている。

昔と同じ様な、だ。


(4月15日。お兄ちゃんが女に誘惑されていた。.....あの女、絶対に私が消してやる。雌豚め。私のお兄ちゃんを汚らわしい目で見るな。あの程度のカスぐらい消せる。調子に乗り過ぎ。クソが)


「.....」


指に脂汗が滲み、日記のページが汚染されそうになった。

慌てて赤い日記を本棚に置く。

乾いた唇を少し舐めた。

アイツ.....はマジな怪物なのか.....?


気が付くと俺は震える手で日記を元の場所に戻しそして全てを元の場所に戻して.....部屋を慌てながらの様な感じで出ていた。

皆穂は.....このままではマズイ気がする。

そう、思わせる感じだった。

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