第7話 家族に事情を打ち明けよう
大聖堂での礼拝を終えた俺たちは、本家の食堂で昼食を摂った。本来であれば俺たち妾の家族は食事を共にすることは無いのだが、今日は特別だ。
特別といえばもう一人、王国の相談役にして俺をはじめとした転生者の扱いについても詳しく知るオリガ先生も同席していた。
「あなた一人だけだと不安でしょう?転生者の事情については私も知っているし、フォローも含めて手伝ってあげるわよ」とのことだ。もうほんと、感謝しかない。
食事中は俺が提案した話には一切触れず、当たり障りのない歓談を楽しんでいた。
「ジョセフよ、お前に任せた領地の運営はどうだ?」
「はい、父上。代官と共につつがなく」
「お前はいささか保守的な所があるからな。3年という短い間とはいえ、いずれ領地を継ぐ者として領民への顔合わせと、人となりを理解してもらうために設けた機会だ。今後領主としてどのような
「兄上はちょっと遠慮しすぎだよね~」
「ちっちゃいころからボクらと遊ぶ時も、兄上はボクらのやりたいこと優先してくれるからね~」
と双子の兄上、マシューとマルコ。男達4人で領地経営の話題で盛り上がっている。
「こんにちはリリィちゃん、ヨランダお母さんですよ~」
「あーいっ!ヨーラ!」
「リリィちゃんはおりこうでちゅねー!」
「ヨランダ様、リリィは妾の子です!ご自分の子のような扱いはおやめください!」
「んも~、ライラはお堅いわねぇ……そういうの教えるのは物心ついてからでいいじゃないの。それとも、リリィちゃんがわたくしに取られそうで嫉妬しているの?」
「そんなことありません!」
母たちはリリィを挟んで盛り上がっている。
「ローレンス、怖い?」
歓談する家族たちを傍目に黙って紅茶を飲んでいた俺の隣に座ったオリガ先生が、テーブルの下でそっと俺の手を握った。
「あなたの気持ちもわかるけど、大丈夫よ。家族を信じなさい」
「はい、オリガ先生」
オリガ先生の海色の瞳を見つめて、俺は小さく頷いた。
「ローレンスの気持ちも整ったようだし、家族会議を始めよう」
父デリックは俺を見てそう言うと、家令のヨダに退席を言いつけた。
ヨダを筆頭に使用人たちは音もなく一礼すると、静かに食堂を辞し、俺たち家族とオリガ先生だけが残された。ちなみにまだちっちゃいリリィは使用人たちにあやされながら連れ出されていった。
家族は居住まいを正し、俺へと注視する。俺は席を立ち、人払いをしてくれた父に一礼する。
「父上、人払いありがとうございます」
「さて、今の今まで私はおろか、ライラにすら我儘を言ったことのないお前の初めての我儘だ。どんな面白い話を聞かせてくれるのかと、楽しみで仕方がないよ」
「僕には……いいえ、俺には前世の記憶があります。そしてそれは、この世界の前世ではありません。俺は――異世界からの転生者です」
自分が異世界からの転生者だと話したことをきっかけに、俺は堰を切ったように話し始めた。
怖い。家族の顔が見れない。
後になって思えばとんでもなく支離滅裂な話し方だったと思う。話している間中、涙があふれ、鼻をすすり嗚咽をこぼしながらも、俺が記憶している前世の事や、この世界に生まれてからの事を吐き出し続けた。
家族はその間ずっと俺の話を黙って聞いてくれていた。
そして何より、オリガ先生がずっと俺の手を握り続けてくれていた。
嬉しかった。
今までの罪悪感と、家族が黙って俺の話を聞いてくれていることに感謝と共に涙が溢れてくる。
「以上が、俺が今までずっと家族に隠し続けていた秘密です。ご、ごめんなさい……ごめんなさいっ――うああああぁぁぁぁ」
俺は思わずオリガ先生に縋りつくように泣き崩れてしまった。
「よく、話してくれたな」
俺が落ち着くのを待ってから口を開いた父の言葉に顔を上げた。
家族は皆いずれも驚きの表情で俺を見つめていて、俺は思わずたじろいでしまった。オリガ先生とつないだ手に力が籠る。
「歴史に残る様な転生者はいずれもやらかしてきたのは事実よ。でもね、転生者の全てがそうあるわけではないわ。それはデリック、あなたも分かっているわよね」
転生者と聞いて難しい顔をした父にオリガ先生がフォローを入れる。
「ローレンスはやらかしてきた転生者にしないよう、私が責任をもって教育を――」
続けるオリガ先生を、父は手を上げて遮る。
「ローレンスが転生者だということは、とっくに気づいていたがな」
父の言葉に家族全員が目を剥いた。
「「「ええええぇぇぇぇぇっっっーーーーーー!!!」」」
してやったり、と言った父の笑顔が眩し過ぎて、俺は眩暈を覚えた。
剣と魔法の異世界で等身大フィギュアを作ろう! てろめあ @agata-syuji
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