第5話 家族に打ち明けると決意しよう
砂を噛むような夕食の後、自室に戻った俺は本家の家族全員に俺が転生者であることを打ち明けることに決めた。
もちろん不安がないわけではないが、俺が眠りにつく直前に聞こえたオリガ先生の話を信じることにしたのだ。
翌日は太陽の日、一般的に休日である。
本家と俺たちを加えたアサンタ家は、一同揃って王城の隣にある主神教大聖堂へと向かうことになっている。
この世界の宗教は、前の世界と同様多岐に渡る。
この国では世界の始まりは唯一絶対の主神により創造されたとする主神教を国教としているが、獣人たちが多く信仰している精霊教やエルフが信仰している世界樹など宗教の自由が基本的に認められていた。
ただし、人を生贄とする邪教の類、反社会的な教義は一切認められていない。
それはさておき、折角の家族一同集まる機会だ。家族には直接俺の口から伝えたい。
枕もとのハンドベルを鳴らすと、女中の一人がやってきた。
「お呼びでしょうか、ローレンス様」
「明日、礼拝後に家族全員に話したいことがあります。本家に明日の礼拝後、集まれないか聞いてきてくれないでしょうか?」
「ライラ様にはお伝えになりますか?」
「父が応じれば恐らく別の形で母に伝わるでしょう。先ずはデリック公爵の都合を聞いてきてください」
「かしこまりました。お返事を携えて参りますので、しばらくお待ちください」
アサンタ公爵家本家屋、執務室ではデリック・アサンタ公爵が書類仕事を行っていた。
彼の仕事はガレル王国宰相であり、あらゆる政策を精査し王の認可を求めることにある。
政策や予算陳述は日々様々な部署から陳情され、各貴族の利権を調整しつつスムーズな王国政治が執り行われることになるが、最終決定権は王にある。しかしながらそのすべてを王が目を通す時間も余裕もないため、こうして宰相が最終チェックを行っている。王国政治の決定権はこのデリック・アサンタ王国宰相にあるといっても過言ではないが、彼はよく気が付き武勲も厚いと評判で、貴族派閥、軍閥などの調整に余念がない。
彼は先代国王の王弟の息子であり、従兄である現国王が即位するとともに宰相となった。現国王とはツーカーの間柄であり、ここ数年の政治体制は過去百年間類を見ないほどの善政を敷いていると評判である。
目頭を揉んで一息ついたデリックのもとに、家令のヨダが訪ねてきた。
「失礼いたします、御屋形様」
「こんな時間にお前が来るとは珍しいな。何か問題があったのか?」
「ローレンス様より言伝です。明日の礼拝後、短い時間で構わないので家族全員に話したいことがある、とのことですが」
「ふむ……ローレンスが。珍しいな」
デリックは顎をさすり一瞬思案すると、すぐに応えた。
「会おう。明日の昼食は離れの者も含めた全員で本家にて摂る。妻たちと子供たちには、そのように伝えておけ。ローレンスのことは伝えなくて構わぬ」
「かしこまりました」
ヨダは余計なことは一切口にせず退室した。
「はてさて、何があったのやら。ローレンスは兄弟の中で一番俺に似ているからな。あいつの成長も含め、明日は楽しみだ」
翌日、太陽の日を迎えた俺たちは正装へと着替えた後、二台の箱馬車に揺られて大聖堂へと向かう。前の馬車には本家の家族が、後ろの馬車にはライラ母上を含め、俺たち家族が乗っていた。
「ローレンス、お昼は久しぶりに家族全員でお食事よ。失礼の無いようにね」
昨晩、父デリック・アサンタ公爵からは久しぶりに皆で食事を摂りたい、という形で母に伝えられた。
普段から遠慮を続けていた母だったが、本家からの誘いを断ることはなかった。
よほど楽しみなのだろう、リリと共に鼻歌を歌って手遊びをしていた。
午後の話の流れによっては、もしかしたらこのご機嫌な母を悲しませることになるかもしれない。
それでも俺は、自分が転生者であることを告げると決めたのだ。
家族に秘密を抱えたくないから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます