第2話 どうやら俺には適性があったらしい
公爵家の妾腹の子、継承権など持たないただのローレンス、6歳男。
それが今の俺の立場である。
父デリック・アサンタは母ライラの申し出を渋々ながら受け入れたが、せめてローレンスが成人するまでは、自立して生活できる程度の教育を与えたいということで、俺には本家の兄たち3人と変わらない、質の高い教育を受けることができた。
ここは前世とほぼ同じ暦で1年を数える。
ただ暦の計算が未熟なのか前世の地球でも古くに採用されていたような、1か月28日、1週間7日、1年12か月と太陰暦を基本とした考え方で、数年に1度閏月によって大きなずれが無いように調整されていた。
正直、今の俺に重要なのは1年の暦よりも目の前の1週間のスケジュールだった。
本家の兄と同じ教育を、という父の方針により、月の日・火の日の二日間は武術と馬術の授業、水の日と風の日の二日間は一般教養、金の日と土の日の二日間は魔法と希望するその他の魔道技術の授業、そして太陽の日の午前中が教会での礼拝を兼ねた神聖術の授業があり、午後のみが自由時間というかなり窮屈なスケジュールになっていた。
まぁ、前世の記憶により35年少々の人生経験がある俺からすれば、父の気持ちも理解できるし、15歳で独立しなければならない俺からすれば、これほどまでに上等な教育を受けさせてもらえることに感謝しかないのである。
「ローレンス、きちんと集中しなさぁい」
前置きが長くなったが、今は魔法の授業の真っ最中である。
5歳から始めた授業もまもなく一年が過ぎ、魔法についてある程度の座学を修めた俺はいよいよ魔法の実践編に移る前に自分の魔法適性を調べることになっていた。
座学の内容については、長ったらしく複雑なので省略するが、簡単に言えば俺が前世で好んで見ていた異世界転生アニメのテンプレと似たり寄ったりであった。
「ほらぁ、目の前の水晶玉に深~く集中して、ゆっくり魔力を流すのよぉ」
授業を受けている部屋のテーブルの上に置かれた水晶玉を挟んで目の前には豊満な胸を支えるように腕を組んだ美女が一人椅子に腰かけていた。
ガレル王国ご意見番『とこしえの魔女オリガ・ファンタズマ』年齢不詳である。
魔法の極致のひとつ《停滞》の使い手であり、ガレル王国初代国王がまだ冒険者だった頃からの仲間で、建国より500年経つ今でもその美貌を保ったまま王国のご意見番兼宮廷魔術師長として王国に仕え続けている、この世界の伝説の一人だ。
「んも~、余計なことを考えないの、水晶玉に濁りが見えるわよぉ」
「ご、ごめんなさいオリガ先生」
6歳のくせに煩悩を抱えるなんてどんなおませさんよぉ、と呟くオリガは悩まし気な溜息をそっと吐いた。
推定年齢500歳以上とはいえ、自分の豊満な肉体を強調するようなタイトなドレス姿の絶世の美女が豊満な胸を殊更強調するように腕を組み、魔力を回復する作用のある魔力草のキセルをくゆらせているのだ。
第二次性徴前の少年であっても、股間に電流が走りそうになるほどセクシーである
。
そんな俺の考えを見透かすように、とろんとしたいつも眠そうな瞳をジトっと俺に向けた。
しゅ、集中しなければ。
「それじゃぁもう一回、最初から始めましょう」
その言葉に気を取り直し、俺は改めて両手を水晶玉に添え、深く集中を始める。
「あなたは、どんな魔法が使いたいの?魔法に何を望むのかしらぁ……さぁ、自分の中に問いかけて、ゆっくりと深~く息をして、あなたの中にある魔法に問いかけて」
催眠術の語りのようなオリガ先生の言葉とともに、目の前の水晶玉にゆっくりと魔力を込める。
俺の煩悩で濁っていた水晶玉はゆっくりと透明になり、やがてぼんやりと光を灯す。
「あなたは、どんな魔法使いになりたいのぉ?」
『君は、どんな魔法が使いたいのかい?』
水晶玉の光の向こうに、人影が見える。
これは、もう一人の俺、内なる俺がオリガ先生と共に問いかけてくる。
「あなたは」『俺は』「『どんな魔法を使うのかな』」
「『魔法は、願いを実現する力。君は魔法に何を望む』」
俺は、異世界で、自分で考えて自分で動く、そんなゴーレム……。
異世界で等身大フィギュア『
水晶玉は一際大きな光を放ち、俺の胸に吸い込まれるようにして光が消える。
「はぁい、おめでとう。これであなたも魔法使いの仲間入りよぉ」
オリガ先生の言葉に、意識を水晶玉から正面に座るとこしえの魔女に戻す。
「あなたの適正は、土魔法を中心として全属性が少しずつ。錬金術にも適正がありそうねぇ……見事なまでに、魔道具生産と《ゴーレム使い》の適性があるわ。おめでとぅ」
「いよっっっっっしゃああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
その言葉に俺氏思わずガッツポーズ!椅子から立ち上がりテンションMAXで部屋を駆け回り、うれしさのあまり叫び続ける。
「ゴーレム使いキター!俺は、異世界で、等身大フィギュアを作るぞおおおお!!」
俺の叫びに何事かと駆け付けた母と女中頭にはしたないとこっぴどく叱られる所を、とこしえの魔女は瞳の奥に思慮の光を湛えながらニコニコと見つめていた。
さっきの俺の叫びに、異世界、という言葉が含まれることに、俺は気づいていなかった。
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