第一章 俺は異世界でフィギュアを探す

第1話 異世界のフィギュアはゴーレムだった。

「ローレンスあなたは本当にゴーレムが好きね」


 今日の家庭教師による魔術の授業の報告を聞いた母、ライラはやや呆れたようにそう言った。


「はい、母上。ぼくはゴーレムが大好きです!」


 6歳を迎えた俺、ローレンスはぷくぷくの頬っぺたをやや紅潮させて今日学んだことを身振り手振りを交えて説明していた。


 貴族の食堂というにはやや手狭、それでも俺が前世で経験していた一般家庭のダイニングよりはかなり広い食堂には俺と母親、そしてもうすぐ2歳になる妹リリの3人と、その周りで給仕を行う2名の使用人の姿しかなかった。


 ここはガレル王国首都ガレリアの貴族街の最も王城に近い場所にある、アサンタ公爵家の、離れである。


 離れで俺たち母子3人が食事をとっているのは、俺の母ライラがアサンタ公爵当主、デリック・アサンタの妾だからだ。


 正妻のヨランダは母を厭うどころか、まるで旧来の親友か姉妹のように優遇しようとしているのだが、妾という立場の母は父デリックの立場や自分が平民の出であることを慮り、頑なに生活の中心を離れで行っていた。


 もちろん母も正妻ヨランダのことを嫌っているどころか、父の次に愛しているといっても過言ではないほど慕っている。


 だからこそ、母は二人を想って俺たち兄妹とともに離れへと居を定めたのである。


 俺も妾腹の子だからと言って、母屋の正妻家族から嫌われているわけではない。しかしながら無用の諍いを生まぬため、公爵家の継承権については放棄されていた。


 だから俺は将来成人した後、アサンタの家名を名乗ることを許されてはいなかった。


 まぁ、正直なところ《そんなこと》はどうでもよかった。


 俺にとって大事なことは、


 暴走車に巻き込まれた後、《転生》したこの世界には【魔法】が存在するということ。


 土魔法を極めれば、俺が考えるゴーレムを作り出せるであろうということ。


 この二つだった。


 3歳になって間もなく、父の行幸に家族全員で同行した先の開拓村で見た、作業用ゴーレムには大きな衝撃を受けた。

 クレイゴーレムと呼ばれたそれは、造形は荒いものの全高およそ5メートルの巨体が、木製の巨大ハンマーを携えて地面を均していたのだ。

 ドン、ドンと腹に響くような音を響かせながら。


 それからの俺は、ゴーレムの虜となった。

 魔法の技術を駆使すれば、もしかしたら等身大の動くフィギュアも作れるのでは……と。


 もう少々お行儀よくお食事なさってください、という貴族教育係を兼ねた女中頭から注意を受けた俺は、おとなしく食事を摂ることにした。


 俺は、この世界で、ゴーレムをベースにしたフィギュアを作るのだ。


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