剣と魔法の異世界で等身大フィギュアを作ろう!

てろめあ

プロローグ

「あなたは本当にお人形さんが好きね」とおふくろはいつも言っていた。


 俺は幼いころからフィギュアやプラモをはじめとした造形モノに目がなかった。

 ぬいぐるみから始まり、ヒーローもののソフビ、ロボットプラモ、美少女フィギュアetc.


 実家を出て大学の寮に入ったころから、俺の趣味に上限はなくなった。


 実家にいたころは親の目もあり、フィギュアを買い漁ることはできなかったが、学生寮に入ってから俺の部屋は魔境と化した。


 クール毎に発表される新作アニメの気に入ったキャラクターフィギュアを中心に、時々合金系のロボットフィギュア、プラモデルなんかも、とにかく気に入ったものはバイト代や食費をつぎ込んでも買い漁った。


 大学を卒業してもう十年以上経ち、中年のおっさんと呼ばれるような年齢になった今でもその趣味は続いている。


 就職先の会社で課長ポストになり、多少なりとも手当がつくようになると、それはもうとんでもない速度で趣味が加速していく。


 とはいえ、さすがに管理職収入ともなれば生活費と趣味につぎ込む金額を引いても若干の貯蓄ができる程度には生活に余裕ができた。


 30半ばも過ぎたころ、上司や重役からは「お前もそろそろ家庭を持ってはどうなのだ」と言われたが、生憎と俺の趣味を理解し受け入れてくれる寛大な女性には実家の母親以外に出会ったことなどなく、20代のころならまだしも、今となっては時折人肌恋しくなることを我慢さえできれば、自室のフィギュアたちに囲まれているほうが気楽だった。


 とある12月の半ば、年末進行の仕事の忙しさや社内外での忘年会の隙間を縫った、特に仕事もない俺にとっては何ともない、しかしながら世にとってはクリスマスを控えたやや浮ついた空気の中、今日振り込まれたばかりのボーナスの使い道を夢想しながら帰路につく。


「さて、今年のボーナスの使い道は特に考えてなかったな。正直今期の秋アニメは不作だったし……。来季のほうが期待できる作品も多いし、ここは軍資金としてためておくのがいいか」


 そんなことを考えながらふと目を上げると、ちらちらと雪が降り始めていた。


「通りで寒いわけだ……」


 キャーーーーー!!!


「な、なんだ!?」


 響いた悲鳴に視線を戻すと、歩道の先を一台の軽自動車が爆走しているのが目に入った。

 歩道を歩いている人たちが、逃げ惑う中、広めの歩道を蛇行しながら暴走車はこちらに向かってくる。


 俺も踵を返して逃げようとするが、暴走車を運転している男と目が合った。


 男は、笑っていた。


 このどこか浮ついた、それでも幸せさが漂うこの空気をブチ壊そうと悪意をもって行動を起こしたことを思い起こす。そんな嗤いだった。


 そして、俺と男が運転する暴走車の間には、転んでひざを擦りむいた女の子が一人。

「ふざけんじゃねぇぞ!!クソバカヤローーー!!」


 俺は、咄嗟にその少女をわきに抱え、全力で道路の端にいた見知らぬ男に放り投げた。


「その子を、たのっ……ガッ!!!」


 あぁ……


   来季の覇権確定アニメのフィギュア……


      予約するの忘れてたわ……



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初投稿になります。

至らぬ点も多いかと思いますが、これから一緒に楽しんでもらえれば幸いです。

よろしくお願いいたします。

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