第66話 策略

 協力してやってもいい、と上から目線で宣言された俺だったが、正直なところ期待ゼロであった。なぜなら、美玖を避ける俺が居るのであって、俺を避ける美玖はいないからだ。要は、俺次第という事になる。


「自分たちをくっつけてくれた2人をくっつけるって何かいい感じだな」


「あとは俺達の腕の見せ所だね。2人みたいに」


「……美玖は避けてないと思うけどな」


 聞く人が聞けば自己満の言葉にしか聞こえないのだろう。だが2人はちゃんと俺に言いたいことを理解してくれた。


「いや、避けていると思うぞ。お泊りでハグしてとかイチャイチャすれば……流石に」


「しかも、壮一さんの件も関わっていないとは言い切れないからね」


 どちらも的を射ているように思った。だが、それは考慮して考えた場合、どのような協力をするというのだろうか。

 すると、真鐘はタブレットをグイッと俺の方へ差し出してきた。何だ?くれるのか?それともバン〇リ?画面を見ると残念ながらそれらではなく、花火大会のパンフレット画像だった。


「やっぱり夏のデートはこれだろ?」


「麗律はこんな感じのデートが好みなのかな?」


「うっさい。そんな訳ないし。普通に隣にいるだけで充分だし……」


「え?なんて?」


「何でもないって何回も言ってるだろ?!」


 いいえ。一回も言ってないですよ。真鐘さん。真鐘は慌ててそう取り繕ったが、俺には丸わかりだった。


「日時は8月31日。18時ごろに集合して……23時ごろ解散予定!その中で作戦を決行する」


「作戦って?」


「莉櫻。こっちこっち」


 真鐘に呼ばれた莉櫻が近づいていく。こそっと耳打ちをしていたが俺には聞き取ることが出来なかった。まぁ聞こえていても、聞こえていなくても俺のやることは変わらない。


「なるほど!それでいこう」


 莉櫻は真鐘の案に乗ったようだ。……そのニヤッとした笑みを2人共が俺に向けるの止めてくれません?!俺、大体の察しができちゃったんですが……。


「松平。キスって知ってるか?」


 やっぱり……。ここに美玖が居れば全力で首を振っているような気がするが俺1人なため、対抗が弱い。そして断る!とは言いづらい。


「……あぁ。知ってるぞ」


「花火大会のクライマックスにやるんだよ。頑張って」


「なぁ?たかが秘密ごとを一つされていたからって絶望まで落ちた松平被告さん?」


 悪役検事に追い込まれる。真鐘の言っていることは間違いではない。俺にも秘密はある。今となってはそう割り切れるのだが、あの時は周りが見えていなかったのだ。


「……分かった」


「そう来なくちゃ」


「はぁ……自分で煽っておいてなんだが、お前美玖のこと好きすぎだろ。あの返事は人前でいうものじゃないぞ……」


 本当に真鐘。お前が言うな。ここまでしておいて言わない奴の方がおかしいのだ。

 俺は手元に置かれたグラスを手に取り、一気に半分ほど飲んだ。


「でも、それが潤平だよ」


 莉櫻は今更だ、という風に笑った。信頼、なのだろうか。俺は思わず考えてしまう。何を求められているかがわからない他人からの信頼は無責任なほど重い。


「確かに。それぐらいじゃないと再起部の部長や体育祭実行委員会なんてやってられないよな」


「……いや、誰でもできるぞ」


「単体ならそうかもしれないね。でもすべてを同時進行できるの潤平だけだと思うよ」


「ま、それよりもだ」


 このままでは終わらないと考えたのか真鐘が話を変えてきた。だが、どうしてだろう。再び悪い予感しかしないのだが……。


「2人の馴れ初め話をしてくれよ」


 ほらー。やっぱりー。恐らくだが真鐘は俺と美玖の出会いから今に至るまですべて知っているのではないだろうか。だが、ここでもう一回訊こうとしているのは、


「……俺で遊ぶな」


 真鐘は俺の言葉を無視して真顔だった。しかし、顔が段々とひきつっていった。


「き、気になるよな~莉櫻」


「まぁ、気にならないといえば嘘になるね」


 似た者同士、アイコンタクトのみで打ち合わせ完了。俺と美玖ではこうはいかない。だがやられている身としては俺達の方がありがたいと思った。

 場を一歩も動いていないにもかかわらず、俺の主張できる範囲は小さくなっている。


「……気になっているのか」


「そうだ。話せよ」


「……嫌だ」


 ここで空気を読まないのが俺である。人に合わせたくはない。2人はなおもくらいついてくる。


「自分達のは知ってるだろ?」


「……相談されたからな」


「潤平も一つぐらい教えてくれてもよくないかな?作戦のお礼としてでも何でもいいからさ」


「……嫌だ」


 俺と美玖の馴れ初めを話して何になるというのか。少女マンガのようにライバルを抑えて勝ち取った彼女、という訳でもないし、ロマンチックに告白したという訳でもない。古風に手紙を一通ずつ送りあっただけだ。そういってしまえばいいのに俺は言うのを拒み続けた。


「せこい。自分も聞きたい」


「……さっき充分話した」


「あれは潤平の思いだろ?しかも相当独りよがりの……」


 うっせ。この野郎。


「……面白くもなんともないぞ」


 手紙を送りあっただけだとしても俺の恋愛はそこから始まったのだ。莉櫻達の告白の瞬間を詳しく訊いていないのでそこは互いに不干渉ではダメなのだろうか。


「別にいい。松平の口からききたいんだ」


「さぁ。準備万端。いつでもどうぞ」


 やはり、この3人ではパワーバランスが崩れてしまっているような気がする。


「……話す気は無いぞ。少なくとも仲直りするまでは」


 俺は本心からそう告げた。真相はまだわかっていないが美玖は恐らく俺を避けてくる。また再び、仲良しに戻れたら……。いや、そこまで行かなくても友達の他人でもいいから戻りたいと思う。

 俺も覚悟を決めるべきだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る