第26話 ダブルカップリング7

「次は昼飯だな。行くぞ、あっちだ」


 美玖を引っ張って足早に進んでいく真鐘を見て俺は進展があったと確信した。……美玖は連れて行かれた。

 今までずっと繋いでいたのでしょうがな……くないぞ?!全然普通じゃないかっ!返せ~!!

 とはいえ、真鐘の莉櫻と距離を置いておきたい気持ちもわからなくはない。今日だけは何も言わないでおこう。


「……何かあったのか?」


 俺は再び莉櫻とセットで置いて行かれたので仕方なく話を振ってみる。相談者としても知っておきたいし。


「告白した。ただそれだけだよ」


 ジュースを買ってきた、みたいなイントネーションで思わぬことを口にしてくれた莉櫻。それに、「された」ではなく「した」と言ったか?


「……で、返事は?」


「どうなんだろうなぁ。たぶんOK貰ったと思う」


「……自分には相応しくないとか言ってたのは今日の朝だったような気がするが気のせいか?」


「うっ。それを言われるときついな。けど俺はその相応しい人になりたいんだ」


「……あー。そうですか。頑張って」


 そんな決意など訊いていないし面白くもない。まぁけど何はともあれ見事、結ばれたのだからよかったのではないでしょうか。


「莉櫻!急げよ。ここだぞ!」


「潤平君、はやく!!」


 遠くから彼女2人が大きく手を振っている。真鐘が「莉櫻」と本人目の前で呼んでいるのはとても新鮮に聞こえる。顔が赤いのもプラスアルファで。


「……呼ばれてるぞ、新カップル」


「潤平も一緒だろ」


 俺は「新」ではない。だが、まぁいいや。

 真鐘が選んだ昼食の店は、レトロな雰囲気の洋食メインの店だった。俺達はテーブル席へと通され、席決めに一悶着あったものの、俺の隣には美玖、前には莉櫻。その莉櫻の隣には赤い赤い真鐘が座った。再起部での時と隣の一が逆になっていることを付け加えておこう。


「もうお昼だって。早いね」


「……そうだな」


「何頼むか決めたか?莉櫻近いって!」


「いや、メニューここからだと見えないんだけど」


「麗律の顔赤いよ?大丈夫?」


「……美玖、分かっていっているのか?それ」


 もしそうだとしたら怖すぎる。結局昼食は全員がパスタを選択した。ここの押し一番だったのでみんな、気になったようだ。……勿論俺も。

 来るまでの時間というのは女子トークに花が咲くものと相場が決まっている。現にこの2人は俺達彼氏をそっちのけで何やら楽しげにお話ししている。


「……どうした?」


 俺は落ち込んでいる風に見えた莉櫻に訊いた。


「潤平達って物凄く仲がいいだろ?」


「……まぁ否定はしない」


「俺も仲良くなりたいんだよ」


 段階が速すぎやしませんか?今まで一方的に話しかけていただけなのに、告白成功したからと言ってもまだ1時間も経ってねぇだろ。


「……年季の差だ。バカ野郎」


「言ったな潤平。こうなったら最速で仲良くなって自慢してやる」


「……吠え面だな」


 交わる電熱の視線。だがどちらも冗談ってことは分かっている。


「潤平君。全部聞こえてるんだけど……恥ずかしい」


 美玖が小さく抗議してくる。これだけで俺は先生から叱られた時よりも、親から叱られる時よりも反省するのだから、俺って不思議。


「お前何を口走ってるんだよ!は、恥ずかしいだろ!!」


 莉櫻にがっつく真鐘は結構な勢いで拳を腹に入れる。


「ぐふっ」


 大丈夫ではなさそうな声がしたが放っておこう。あと食べる前でよかったな。


「麗律なりのスキンシップかな」


 だとしたら少々過激すぎる気がするけど。このままいくと下手したら莉櫻さん存在が危ぶまれそう。


「お待たせいたしました」


 4つの皿を抱えた店員さんが1つずつテーブルに料理を置いていく。……すべてパスタだが。

 俺はミートソース、美玖はカルボナーラ、莉櫻はペペロンチーノ、真鐘はたらこと明太子パスタを頼んでいた。たらこと明太子は原材料が同じだったはずだが…。それはそうとしてずいぶん豪華な昼食だな。

 成長期過程の身体は頂きますを言うのももどかしくスプーンとフォークを握りしめ、まいていく。


「「いただきます」」


 女子2人の声が聞こえた時にはもう既に2口目を口に入れていた。……美味い。コメンテーターでもなければ芸能人でもない俺には食リポなど無理である。よって一言。「美味い」


「ん~美味しい」


「これは押し一番になるのもわかるな」


 やはり高校生なんて美味いの一言で充分なのだ。


「美玖のも美味しそうだな。一口」


「交換ね。私も麗律の貰うから。えっと」


「たらこと明太子パスタだ」


 女子2人はフォークを器用に使い、互いのパスタを食べる。…何か複雑な気分だ。きっと莉櫻もそうに違いない。……うん、だよね。

 莉櫻は苦虫を料理に入れられて食べたところで真実を話され、10分後にやっと理解した時のような顔をしていた。……俺も同じかもしれない。


「……莉櫻、いるか?」


「潤平とやったってな…。別にいらない」


「……だよな」


 男子同士の会話とはこんなものである。実に単純。


「何見てるんだよ。欲しいのか?」


 視線でばバレたのだろう。莉櫻が麗律に弄ばれていた。


「いや、そんなつもりで見てたんじゃなくて」


 白々しい。実に白々しい。届け俺の視線!


「はいはい。交換な?自分もそれ食べてみたいし」


 真鐘には残念ながら届かなかったようだ。2人のイチャイチャを目の前にミートソースを食べる。とソースが刎ねて頬につく感触がした。

 こんな恥ずかしいものを他人に見せるわけにはいかない。何か拭くものを。


「あ、潤平君。ソースついてる」


 俺もあたふたした行動に気付いた美玖がにんまりと微笑んでくる。何だかうれしそう。……何で?

 俺が何でだろうか、と考えている間におしぼりが開く音がした。


「もう。落ち着いて食べなきゃ」


 そう言いながら拭いてくれる。終わるとまたにんまりと微笑んだ。

 俺は抱きしめたい衝動に駆られるが何とか自制した。可愛すぎるだろ。俺はミートソースの味を忘れた。

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