第27話 ダブルカップリング8
俺達は昼食を終えた後、再び遊園地内を散策していた。アトラクションは豊富で1か月通い詰めてもコンプリートが出来るかな?というほど。
真鐘はしきりに絶叫マシン希望だったが昼食後直ぐだったためほか三人が拒否。雰囲気を楽しむこととなった。……ちなみに手は繋いでいないし、となりは莉櫻だ。
「なぁ、そろそろアトラクション乗ろうぜ」
「まだ1時間も経っていないよ」
「あ、そうだ。ならお化け屋敷はどうだ?」
「私はいいかな……。怖いのは苦手。あとビックリも」
「なら自分か松平が守ってやろうか?なぁ松平」
「……お前は莉櫻に守ってもらえ」
真鐘は行きたくてたまらないらしい。俺も行きたくないわけではない。だが、考えが違うだろうことは確かだ。俺はお化け屋敷で発生するイチャコライベントを体感したいのだ。……ん?男子ならそうだろ?
「よ~し!そうと決まれば急ぐぞ。お化け屋敷!」
莉櫻が一番乗る気であった。
お化け屋敷は“他よりも114倍楽しく514倍怖い!”と大々的なキャッチコピーがついていた。これは大丈夫なのだろうか。それと具体的な数字についてはもう何も言うまい。
普通に通された俺達は突如の暗闇に何も見えなくなった。怖がらせに化けて出てくる気配はない。ただぽつんと1人残されてしまったようなそんな感覚。
「……独りか」
「違うよ。私がいる」
右側から声がした。美玖の声だ。しかしまだ暗闇になれておらずシルエットさえ見ることが出来ない。……ニセモノか?本物だと直感が告げてくるが理性が確信しろと告げてくる。……1つ確かめるか。
俺は美玖の顔がありそうな高さに手を伸ばした。
「ふぇ?ひゃっ!な、なに!?」
柔らかい何かが俺の手の間にあった。恐らく顔。確認が出来たが……少しダメな感情が出てきてしまった。
両方の人差し指でぷにぷにとしてみる。返ってくるのは柔らかな感触。……見えないってすごい。
「くすぐったいよ。どうしたの?心配してくれていたの?」
確認してました、等言えない。
「……まぁな」
この時、とすんと胸に何かが当たってくる感覚がした。そして手にあったはずの柔らかな感触は無くなっていた。……とするともしかして…。いや、待て待て落ち着け。早とちりだったとしたら笑い事では済まされないぞ。俺は焦った。どうしようもなく焦った。
「ドキドキしてるでしょ」
「……しない方がおかしいんだ」
見えないってすごい。美玖が大胆になっている。もっと何か言いたいのに脳がパンクして処理をしようとしない。
「ひゃっ!」
気付いた時には俺の身体は美玖を包んでいた。そしてようやくここがどこで俺達が何をしていたのかを理解した。これではお化けが可哀相ではないか。
「……一旦外に出よう。ここはまずい」
「嫌!!」
美玖は声色で分かるほどに感情を込めて叫んだ。これほど感情的になるのは珍しい。
「……何が嫌なんだ?」
「離れたくないの。きっと明るいところだともうできないだろうから」
確かにそれは否定できない。俺も美玖も顔が見えると大胆なことが出来なくなる。
「……俺は一生離れない。約束する」
更に強く抱きしめる。大丈夫な程度で。
「わかった。約束だからね。守ってよ」
何て可愛いのだろうか。俺の彼女は。そんなことを思っていると美玖が離れる感じがした。……少し残念な感じがしたがしょうがないと諦める。
「……ところでさ。莉櫻達は?」
「もう先に行ったみたい。麗律が引っ張られていたような気がするから」
「……入口から出る?」
「うん。その方がいいかも。怖そうだし」
怖いのは当たり前な気がするがまぁ良いか。俺達は入口へと入った。……変な感じだな。
「お疲れ様でした」
先程の係員さんが笑顔で迎えてくれた。どうやら俺達の行動が特別ではなかったようだ。まぁ514倍怖いらしいからな。行ってないけど。
「……そこら辺で待つか」
「うん。今度はいつ戻ってくるかわからないしね」
俺達は近くのベンチに腰を下ろした。周りには青ざめた顔の人々がたくさんいて正直気持ちが悪い。が、その人々も一刻も早く逃げたいのかはわからないが立ち止まって休む者はいない。
2人きりだけれど2人きりではないという矛盾した空間が広がっている。前回は水族館の時だった気がするがあの時は完璧な2人きりだった。最後に邪魔が入ったが。
「……余程怖いんだろーな」
独りは平気だが、美玖との無言は絶えることが出来ない。美玖はそれに気付いたのかそれとも持ち前のコミュ力を発動させたのか、乗って来てくれた。
「ホントだね。私なら止めちゃうかな。怖いのは嫌」
「……そうだな」
美玖の「嫌」という言葉に俺はピクリと反応してしまう。
「潤平君は平気?こういうお化け屋敷みたいなのって」
「……平気そうに見えるか?」
「ん~ん全然」
それはそれでショックだ。……事実俺は全てのリアクションにおいて苦手意識を持っている。だが、今まで耐えて来られたのは美玖がいたからだった。すなわち“恥ずかしいので格好をつけたかった”のだ。
他にも他愛ない会話を楽しんでいるとお化け屋敷からは2人の男女が出てきた。莉櫻と真鐘だ。ただし片方は今から体が発光しますというほどにキラキラしており、もう片方はげっそりとしていた。それはもう真っ青。
「れ、麗律?!どうしたの?!」
たまらず美玖が駆け寄っていく。遅れて俺も後を追った。
「こいつは無類のお化け屋敷好きってことを完全に忘れてた。あー怖かった」
美玖の顔を見て安心したのかへなへなと地面に座り込む真鐘。……何か艶っぽいというか色っぽい。
「……莉櫻、何をしたんだ?何をしたらこんなのになる?」
「特に何もないけど知りたい?」
その意味ありげな言い方は何なんだ?!これに乗らないのはもはや男ではない。
「……美玖、真鐘。少しトイレ行って来る」
「あ、俺も俺も」
連れションをしたのは随分と久しぶりだった。
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